愛人の存在2
「ところでなんでお兄さんでなく菜摘未が俺を呼び出したんだ」
十和瀬にすれば妻の話は妹に任せているのだろう。多分それに関しては妹もお前に用事が有って、俺には今更関わり合いたくないようだ。ならば妻の希実世さんの話題に戻そうとするが、十和瀬は終始妹の話に執着していた。
「憶えているか ?」
妹はまだ中学へ行く前の小学生の時だ、と急に昔の話を持ち出して来た。
「それがどうしたんだ」
「自転車を買って貰ったのに足が届かないのに無理して俺の自転車を乗り回して案の定転げやがって、おでこをちょっと怪我したんだ」
「俺が高一になったばかりで、お前とはそれ程でもなかった頃で、知らない話だなあ。それでいつも菜摘未は髪を真ん中からでなく少しずらして横で分けていたのか」
「お前、気が付かなかったのか、妹はいつも背伸びするんだ。手の届かない物ばかりねだったりして、小学六年でもまだ大人の自転車を乗りこなすのは無理だったのに。まあそんなこんなで未だに懲りないやつなんだ」
実は俺たちがおやじの浮気を知ったのは此の時だ。菜摘未の怪我は大したことは無く、額を二、三針縫っただけで少し髪を切ったが、髪の毛の生え際で延びてくれば解らなくなる程度だ。それでも大事を取って二日で退院したが、此の時に君枝さんが中学生だった香奈子を連れて見舞いに来た。これで俺たち兄弟が初めておやじの浮気と腹違いの妹を知った。
「それまで関係者以外は誰も知らなかったのか?」
「いや殆ど知っていても口を噤んでいた。杜氏の大西さんやその他にも酒の仕込みに来る者は誰も公には喋れないから新参者以外は大方が知ってるだろう」
「じゃあお前が香奈子さんを知ったのは丁度俺と付き合い出した頃か」
その事で兄貴も含めて俺たちも世間に合わせて口外しないようにした。




