千夏の考え6
そうや、あの怪我で、あのあと家の中が大事になったんや。
* * *
香奈子姉さんは気さくな人やった。自転車で転けた傷は抜糸して、額の傷は前髪で隠れるようにして早速、新しくできたお姉さんの家に遊びに行った。店に居たおばさんがドアを開けてくれて吃驚したが、「十和瀬の家を黙って出て、何しに来たんや!」と危うく門前払いを喰らい掛けたときに、出て来た香奈子さんに二階にあげてもらった。
ーー菜摘未ちゃんようここが解ったなあ。
ーーお兄ちゃんに訊いたんや。随分近いと知って来てみたんや。
ーー何しに。
ーー男兄弟ばかりでお姉ちゃんが欲しかったさかい。
まだ十歳に成るかならんかの菜摘未だ。愛人を囲っていた話で、家はひっくり返っていた頃だ。小学生の菜摘未は無断で、もう向こうの家に独りで勝手に出掛けて香奈子に会っていた。しかもこれは内緒やでぇ、と幸弘に口止めまでしていたのにばれてしまった。
ーーお兄ちゃん、あたしが香奈子姉さんとこへ遊び行った事をばらしたんか。
ーーアホ。そんなん直ぐに判るやろう。
ーー何で。
ーー向こうのおばさんが、あんな小さい子供を寄越してと駆け込んできたんや。
この話は千夏が嫁いでから、菜摘未には気を抜かんように真っ先に夫の幸弘から訊かされた。
* * *
「思った通りのことをして何処が悪いんや」
「自分一人で済むんやったらええけど、相手があればもっと慎重に物事を運ばんと色んな人に迷惑が掛かるやろう」
「誰も迷惑してへん、現に境田さんは楽しんだはる」
「それは表向きで、心の中ではどうしてええんか、悩んでいると思う」
純粋に商談の話なのに、みんな勝手に受け取ってる。と菜摘未に都合良く言い出されると処置なしだ。




