千夏に考え1
問題の根幹を突くところが千夏さんらしい。それは菜摘未が提案した此の話をどうして境田に託す必要があったのか。先ずそれから考えましょう、と千夏さんは言い出した。
「でもそこへ行き着くまでの菜摘未さんを振り返らないとなにも見えて来ない気がするの」
ウッと胸が詰まりそうな彼女の提案に、我が身を重ね合わせると恐怖が背筋を貫いた。そうだ、人は昨日や今日思い付いたとしても、そこに辿り着く過程、プロセスには計り知れない挫折と克服を繰り返しながら到達する。ひとつとして無駄に見えるかも知れない四十億年の過程で人類が誕生したように。菜摘未にもそれを二十四年に濃縮した過程がある。その中で親の浮気と言う失態で、交流の輪を広げられたのが、幸か不幸が菜摘未の経験値を急上昇させた。その広げた接点に菜摘未が関与していた。
「小谷さんは高校時代から、あの家にはよく遊びに来て菜摘未さんとも小さいときから見知っていたそうね」
いつも十和瀬を呼び出すまでの短い間だけ話し相手になっていた。菜摘未が大学生に成る頃には、少しは冗談交じりに込み入った話もした。小谷が社会人になってからは、十和瀬とは外で待ち合わた。それから菜摘未とは会ってない。
菜摘未が大学を出ると、彼女の方から頻繁に誘われて一緒に出歩くが余り進展しなかった。それに見切りをつけた菜摘未は境田と付き合いだした。しかし千夏さんからは、振り向いて欲しい、寂しさを紛らわしたい、そのために境田さんと付き合ったと言われた。それはさっき酒蔵で聞かされた十和瀬の説明通りだ。矢張り千夏さんも、身近に接しているだけに、見るところはキチッと見ていると感心した。
「じゃあ菜摘未が境田に近付いたのは、俺に対する当て馬ですか」
「もうー、その言い方は良くないわね」
あたし以外の人、特に香奈子さんにはそんな話し方はしないでしょう、とえらく品がなさ過ぎると注意された。それでも言ってることに間違いはないと同調してくれた。




