十和瀬の考え3
小谷は事務所に戻って菜摘未について、千夏さんを呼び出した。彼女は店をいつものパートのおばさんに任して付き合ってくれた。近くの喫茶店に行く道すがら訊かれた。
「何か伝言があって戻って来たんでしょう」
流石は灘の水で揉まれただけ有って鋭い勘をしている。千夏さんは喫茶店に入って席に着くまで菜摘未の提案には何も触れなかった。喫茶店までの道すがらで、香奈子さんの性格について聞かれた。突然すぎる質問に何でと思わず聞き返した。あなたが義弟の御用聞きを躊躇なく代わられた時から、香奈子さんの存在が頭に焼き付いた。
千夏さんは十和瀬家に嫁いで数年で、あの家の家族構成の成り立ちをほぼ忠実に受け止めている。特に香奈子さんは、義理の妹と言うより歳が近い所為もあるが、友達感覚でいるのはそれだけ親しみが込められているのだろう。それに引き替え、同じ義理の妹である菜摘未とは、歳も少し離れているのもあるが、どうも危なっかしくて見てられないそうだ。その菜摘未の相談なのに、いきなり香奈子さんの事を訊かれたから尋常に成らざるをえない。
「香奈子さんがどうかしたのですか」
「好きなんでしょう」
薄々感づいているとはいえ、回りくどいのが嫌いな千夏さんに、もろに言われると胸に動揺が走る。それと、何で、此処で聞くのかその動機が分からない。
「ハッキリおっしゃい!」
誘導尋問に引っかかった被告人みたいに、そうですと律義に答えてしまった。核心に触れる尋問を終えた検察官は、意を得たりと満面の笑みを絶やさない。それが却って小谷には不気味に見えた。
こんな遣り取りを繰り返していたが、喫茶店のテーブル席に座ると、菜摘未の用件に突然切り替わった。
「それで菜摘未さんは売り上げについてどんな提案をしたの?」
境田から聞かされた高級日本酒の景品付き限定販売を説明した。最初に聞き返されたのはそんな販売計画でなく、何で菜摘未さんが境田さんに、あなたへの走り使いをさせた動機を訊ねられた。




