十和瀬の考え1
小谷は境田から聞いた菜摘未の提案に疑問を感じている。ひとつは、なぜ本人が来ない。二つ目はなぜ昔の彼を寄越した。此のふたつからなぜ彼女は俺に会うことを避けているのだ。
小谷は十和瀬酒造へ引き返した。事務所では千夏さんから「朝、来たのにいつから日に二回も注文を取りに来るようになったの」と冷やかされた。此の感触で矢張り今日、境田が持って来た話は、菜摘未の独断で動いていると感じた。
「十和瀬の奴、いるか?」
「山西さんが発酵は安定しているって言っているに。相変わらずもろみの入ったタンクと睨めっこしてるわよ」
そうか、と嗤うと陣中見舞いだと称しておくの工場へ行った。
十和瀬は十和瀬酒造の前掛けをして、腕を組みながら大きな酒樽を眺めていた。
「そうしていると酒の発酵が進むのか」
と冷やかしてやった。十和瀬は小谷を見て愁眉を解いて「どうした?」と二度目の来訪に首を捻った。
「菜摘未が可怪しな事を言ってる」
「妹に会ったのか?」
「いや、代理だッ」
「代理?」
「境田だ」
何で彼奴が。お前の店へわざわざ出向く必要なんかどこに有ると謂う顔をされた。
「何しに行ったのだろう?」
「俺もそう思った」
小谷は境田から聞いた菜摘未の提案について話した。十和瀬は別に驚かない。それどころか薄笑いさえ浮かべている。
「なんだ、心当たりがあるのか」
心当たりどころか、菜摘未は家の中では一番歳が近い妹だ。あいつのやることは家の誰よりも知ってるつもりだ。菜摘未がそこまで会社の為に尽くすとは、今の段階では考えられない。今は小谷祥吾と謂う男から頭が離れないはずだ。そこから導く結論はひとつしかない。




