掃除させてっ!
クラブ棟の3階最端で、蜘蛛の巣で作られたような教室のギシギシ言う扉を年季の入ったカギでこじ開けて侵入した。教室に入った途端、みんなは自分の領域に入りだした。天城はエナンを被り、渋い色のコート羽織る。奈多根は教室に置いてある棚の横に隠れてメイド服に着替え、ピンと張ったカチューシャと長いエルフの耳を付けた。トゥルーホワイトは青が基調の貴族服に着替え、剣豪はその間剣を教室の端で必死に振り続けていた。ここは異空間…まるで異世界だ。
しばらく誰も立ち入る事のなかったのであろう空き教室。埃っぽい机やら何やらを、とにかく座れるだけのスペースを作って、今現在、すでにお菓子を並べてみんな着席している。
「えーそれでは……何だっけ?」
「乾杯な!?ここまで準備してそれかよ!?」
「ちっ、いちいちうるせーな。はい、乾杯」
この教室の隣には、他の部活動で使用されている教室がズラッと並んでいて賑やかな……訳ではなく、この自分達のいる3階最端の教室からは物置として使われている教室がしばらく並ぶ。まず最低人数で構成されていて、かつこのメンバーだから、管理者によって人気のない遺跡のようなここに隔離されたような形なのだろう。よくもまあ、何するか分かったもんじゃないこの集団にクラブ申請が通ったもんだな。
天城の掛け声で俺除く4人(天城、奈多根、トゥルーホワイト、剣豪)はそれぞれ手にした飲み物をカツンとぶつけ合う。
「あー喉乾いてたからサイコーだわー」
「あまぎさん!さあさあこれもどうぞ!」
「すみません、ワタシは水道水で。贅沢は出来ないのでね。」
「自分は、プロテインで。」
奈多根は天城に缶ジュースを手渡して、お茶汲みのような事をしている。トゥルーホワイトはティーカップに入れた水を啜り、剣豪は空気椅子で既に2杯目のプロテインを取り込んでいる。
「本当どこまでも設定に忠実な奴らだな!」
で、今俺の状況ですが…体を紐でまるでサナギのように固定され、地面に適当に投げ捨てられた状態。酷い。
初めのほうは俺もクネクネと『ほどけー』だとか『やめろー』とか暴れながら言っていたのだが、誰も相手にしてくれなかったので、今はこの変な集団にツッコミを入れる事に集中する。
天城はまた仕切って言う。
「で、なにすんの?」
「決めとけよ!!何で集まったんだよっ!!」
俺を除いた4人は盛り上がり、盛大な拍手がこの異空間に響く。
俺は俺で不機嫌に騒がしくしてやる。
「わーい!ぼく、ずっとこうやって仲間が欲しかったんですよ!」
「ギルド名を先に決めませんか。そして次に、肝心の異世界への具体的なアプローチを何かして行きたいですね。」
「訓練をしよう。」
「くそ、おい!!埃が舞ってんだよ!!まずは何でも良いから、とにかく掃除してくれよ!! そうだトゥルーホワイト、お前貴族なんだから綺麗好きとかいう設定はないのか?」
トゥルーホワイトは落ち着いた表情でティーカップの水を一口啜った後言う。
「……うん、この教室の感じ…なかなか良いですよ。藁なんかが敷かれていると、もっと雰囲気が出るのですが。」
「そんなに貧乏なら何だよその服装は!」
「一応は貴族として、見栄を張らないとですから。貴族社会というのは、色々と大変なのです。」
「⚪︎×◻︎⚪︎××△!!!」
満足げに水を啜っている。
「で、おい瀬波、お前一応、ぶちょ…ギルドリーダーなんだから!何か良いギルド名考えろよ!」
「ならギルドリーダーとして命令する!!皆、解散!!好きに生きたまえ!!……え、部長?今部長っていいました?」
「…安心しろ。満場一致で、お前に決定だ。」
「ぜってー面倒なこと押し付けただけだろうが!!!」
ふざけんな!!必ず何かコイツらがヘマをすれば、俺に全て降りかかってくるんだ…不安だ…この教室にコイツらを隔離しておきたい…。
奈多根が手を挙げたので、天城が相手をする。するとなんと、丁度ピッタリな、なかなかいい提案をしてくれたので俺は大賛成する。
「はい、奈多根」
「みんなでお菓子を食べる!」
「さ…賛成!!奈多根くんに賛成!!それでこのきったねぇ教室で放課後はみんなで仲良く大人しくしていよう!!この教室から出たら罰ゲームとかしてさ!!」
「えー、それじゃあ異世界行けねーじゃん。」
「たしかにそうだね…じゃあお菓子をたべながら考えようよ!」
「いやだから行けねーんだよ!!変な事しないで、黙って菓子食ってさっさと帰ろうぜ!な!」
くそ、駄目か。この得体の知れない集団をこの教室の外の目に晒す事だけはなんとか…。いや、待てよ。ここは逆転の発想で、
「俺に提案なんだが…このギルドの暫くの方針として、このソーシュー生徒の悩みを俺たちが解決したり、何かしらギルドで良い事をして行くっていうのはどうだ? でも俺がリーダーとして指揮を取るからな!」
「…お前、何企んでんだ?てかさっきからミンミンうるせぇ」
こいつらを上手く使えば、俺の名誉挽回も可能だとおもったが……いやしかし甘かったかな。服装も態度も変えてくれそうにないし、第一にコイツらが大人しく俺の命令に従うとは思えない。却下だな、やっぱり菓子か何かで教室に固定してやる。
天城は机にだべったまま、ダルそうに顔の半分だけで俺を見ている。奈多根はお菓子で腹が膨れたのか眠そうに、剣豪はそろそろ空気椅子が限界なようで、椅子を引き寄せてちゃっかり着席した。
少し静かになった。すると、トゥルーホワイトは黒縁メガネを整えた後、何かを察したかのような顔で告げる。
「すまん、やっぱりこの案は却…」
「恩を売るということですね。 このソーシューには、沢山の逸材がいますから、このギルドの大きな戦力になり得る方がいるかも知れません。そして、ついでに情報を頂くことでその中には異世界への手掛かりになるものが少しでもあるかもしれません。インターネットや書籍だけが情報源ではないですからね。」
「異世界への手掛かり!?んなもんあるか!!!」
「何かを提案するということは、勿論否定される事もありますから、勇気が必要です。ギルドリーダーとして、瀬波くんは我々の汚れ役を買って出てくれてるんです。皆さん、ここはリーダーに甘えておきましょう。さあ他に何かありませんか?」
「は?いや俺はそこまでは……」
「……照れてるんですか?」
「照れてねーよ!!!!」
こいつと話していると調子が狂う。毎度 俺を過大評価してくるのは一体何なんだ? トゥルーホワイトは表情ひとつ変えず、相変わらずニコニコと流暢に話す。
その後しばらくは、天城の背負っている大きな鞄の中身を皆でつつき合って盛り上がっていた。
「これはなんなの?あまぎさん。」
「それは弓…えっと、ファイアーアローの源だな。私の必殺技だ。」
「これは?料理をするなんて意外ですね、天城さん。」
「あぁ、コンロ…じゃなくて!火炎陣だな!! 幸いにも、こいつに使うエネルギーは現代でも手に入るから使用可能だ!」
「これは危ないんじゃないか、天城。」
「それはライタ…魔道具!!!そう魔道具!!! 私の魔力が足りない時に手助けしてもらうんだ! 大丈夫、コントロールは任せとけって!」
俺にこのおままごとを聴いてやる義理はないので、遠慮なく会話を遮る。
「……暑い!!おい窓開けてくれ!!それに地面が埃っぽいんだ!!掃除しろ!!」
「えーあたし、ちょー寒がりなんだよなー。」
「炎はどうしたんだよっ!?」
「自分で開ければ?めんどくせぇ。てかお前2年の後輩なら敬語使えよ!!」
「テメェらが縛ってるからだろ!! あ!? 這いつくばって口で開けろってか!? あ!?」
「お…お前やっぱり…」
「ちげーよっ!!!!!」
「近づくな変態!ファイアボール!!ファイアボール!!」
寒がりの女がポケットで温めていたのであろう、大量のホッカイロを俺の顔にぶつけてくる。結構痛い。
「ちょ…申し訳ございません!!!開けてくださいませ!!! てか熱い!!! やめて!!!」
「ふたりとも、仲いーねっ!」
奈多根は俺のそばに寄って来て、カイロを丁寧に退けた後、メイド服の裾に忍び込ませたハンディーファンにスイッチを入れる。
「はい、風をどうぞ!」
「…あ、ああ。ありがと…て埃が!!埃が舞って!!うぶわぁ!!」
「ああ!ぼくの風がいま始めて人の役に立てたみたいで…ぼくすごく嬉しいなぁ!これで風のエルフメイドに一歩近づけたかなぁ!」
「うぶわぁっ!!ちょと…奈多根く…うぶわぁっ!埃が…うぶわぁあっ!!やめろっ…おおい!!!」
奈多根は人の役に立てるのが余程嬉しいのか、俺の悲痛な叫びには全く気が付いていない。
天城は渋々窓を開けると同時に言う。
「仕方ない。取り敢えず今日は教室の掃除すんぞ」
すると、トゥルーホワイトは勢い良く席から立ち上がり、息を荒げて言う。
「労働ですか!?」
「そうだ、しがない田舎育ちの貧乏貴族の五男のお前は、明日も明後日もビシバシ労働してもらうからな!!」
「明日の朝食は」
「えー…朝はスープ一杯!!トゥルーホワイト家は餓死寸前!!家財道具は全て売払って農機具にしたから、領地のみんなで畑を耕すぞ!!」
「そ…そんなっ…そんなぁっ。何とかして貧乏を脱しなければ…!」
嫌なフリをするのも設定のうちなのだろう。あほくさ。
天城はトゥルーホワイトの設定に付き合ってあげる。
設定も、そんなに危篤状態で良いのか…。




