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お仕置きさせてっ!

 朝、いつも通り定時に鳴るアラームを止めた。


やあみんな!俺は|瀬波蒼太《せなみそうた》!!成績普通!顔面普通!~の大きさも普通!真面目に普通にコツコツ生きている、普通の高校二年生です。

そして俺には、ずーっと欲しかった夢が出来ました。こんな普通な俺にも、夢が出来たんです。


それは、何も起こらないこと。


もう少し詳しく言えば、異世界に転生するような、自分の人生を大きく転換させられるような何かが起こらないという事です。

だから!要するに!ジジイになるまで平凡に何ごともなく暮らすのが、オレの 夢 です!

何かのために行動に出るのが億劫な俺でしたが…これからは積極的に平凡な日常を追い求めていこうと思います!


…………昨日は…学校を休んだ。 あの事件 の後、本当に熱が出たからだ。

 夢か…夢だったんじゃ無いかと何度も反芻したが…腹も減るしクソも出る。現実だ。最悪だ。

 そしてこの不安の一番の原因といえば、あの片桐健吾(かたぎりけんご)(剣豪)はものすごく遠くに置いておいて、奈多根詩音(なたねしおん) 天城紗香(あまぎさやか)真白聡磨(ましろそうま)(トゥルーホワイト)はあの感じ学生だろう。で、奈多根は中学生、天城とトゥルーホワイトは高校生か大学生なのでは無いかと推測している。そしてここの辺りの高校といえば、俺の通っている総集(そうしゅう)高等学校、略してソーシュー(そのままだが、みんなそう呼んでいる)だけなので、そこの生徒なのではないかと言う事だ。

 ちなみにソーシューの全生徒数は5000人ちょっとの超マンモス校だ。だからほとんどの人間が誰で誰なのかを特定するのはかなり難易度が高い。設置学科は普通科が大半で、そして残りは機会科、芸術工芸科、理数科、外国語科に別れている。1クラスの構成人数は学科であったり、さらに細分化された普通科のコースによって異なる。

 俺は機械科に属している。まあ、特にしたい事も無かったのと、将来的には人を避けて一人で黙々と出来るような職に就ければいい思ったからだ。はい。俺、ゴーストタイプですから。

 布団から出て歯を磨いて飯を食って靴を履いて玄関を出るという一連のルーティンをこなす。そうしていると何故か、案外何も無いのではないか。というような気持ちになった。

 万が一、ソーシューの生徒であっても…名前は名乗ってしまったが、俺のことを知ってるやつなんて両手いや、片手で数え終わる。生徒数も多いし、クラスメイトも新学期でシャッフルされているし、俺の顔も、暗闇の街灯でしか見ていないし。そして万が一…何かあっても知らないフリを徹底してやる。 



 いつも通り、電車で駅を2つこえる。

 ソーシューは駅を降りてすぐにある。大量の生徒が駅から出て校門に向かう姿は、まさにデモ行進のようで圧巻。1人で居ても怖くない。この中に紛れ込んでいれば……もしあの変人の中にソーシューの生徒が居ても、俺に気付くのは不可能だ。

 俺はデモ隊と何食わぬ顔で校門をくぐり、5000人ちょっとを収容するどデカい校舎の方へ向かった…の だ が。


2年の下駄箱がある校舎の扉の方に目線を向けると、そこには門番がいた。制服を着ていて少し印象が違うが、間違いない…街灯の光でしかコイツを見ていないけれども…。

 あの時見えた色よりも濃い暗緑色のイバラ髪と人を見下したようなあの目付き。更に何が入ってるのかよく分からないあの大きなカバンを背負っているあれは、魔法使い()の天城 紗香(あまぎ さやか)。目付きは悪いが、汚いチューリップのような可愛さだけはある……矛盾している。………とそこで2年の下駄箱の方から出てきたあの姿勢のいいブロンド色の甘いマスク!黒縁メガネを整えて天城に話しかけているアイツは真白聡磨(ましろそうま)…トゥルーホワイト!!! しかし、やはりソーシューの生徒だったのか……

 そして今、2人がかりで周りを見渡している。まさか俺を探してっ…!? 待ち伏せとは……これじゃあ勝ち目なんてないじゃないか!反則だ! とりあえずうちに帰って、1人作戦会議だ。


 俺は不自然にそこで180°回転し、もう一度スタート地点である校門の方へと向かった。デモ行進に混ざった異物に気付いたのか、背後から猟奇的な足音が聞こえてくる。そして、遠慮なく首根っこを掴まれた。


「よお瀬波蒼太(せなみそうた)久しぶりだな!お前、まさかソーシュー生徒だったとはなぁ?何でお前昨日何処にも居なかったんだよ…てあれ?合ってるよな?こっち向けよ!」 

「誰から聞い…ひ…ひとチガイでは…!? アリマセンことっ!?オホっ」

「ひ…人違いっ!? ご、ごめんなひゃいっ!!」


 天城はすぐさま手を離して、可愛い声を出してアワアワしている。

 な…なんて純粋な人なんだっ!だからマナが魔法がどうだとか言って錯覚を起こすんですよ…。


 取り敢えずそのまま校門に向かった。

 人の流れとは逆行している。


 すると、とんでもないことに、目に飛び込んできたのは、うっすらと見覚えのある、蜜柑色のミディアムショート。おとこの娘の顔が飛び込んで来る。すぐさま顔を下に向けたが、こっちに気付いたのかぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振ってくる。


「お~い!せーなーみーさぁ~ん!」


 なんて事だ!!!奈多根までソーシューの生徒だとは!!そしてなんてタイミングだろう、見計らっていたのか?しかも気付かれた…不味いっ…どうやって誤魔化すべきか…

 しかし あの事件 といい、俺達は、運命の赤い糸で結ばれているのかも知れない。えい、切っておこう。

 俺は前後を挟まれたので、今度は身体を90°回転させ急いで人混みに混ざろうとしたが、この可愛い生物は瞬時に俺に飛びかかってきた。


「せなみさん!昨日はどうしたんですか?ぼく、心配したんですよ~?」

「な…奈多根くん!久しぶり。ちょっとここだとまずい誤解されちゃうからね、ちょっと離れてねぇ…え……瀬波!? 人違いですよ!?」

「やっぱりせなみさんは、面白い人ですねっ!!ふふふっ!」


 この美少女…じゃなくて 奈多根 詩音(なたね しおん)。や…やっぱり可愛…いやいや、男だ…!

 自称エルフメイドで風を操るらしい。でも学校では流石に耳も縮めていて、メイド服は着ていない。付け耳だったのか。制服は勿論男物で…いやいやしかし………胸に膨らみがあるようにも見え…いやいやいや!!

 奈多根は俺の腕に組み付いたまま離れようとしない。小動物…ウザ可愛いチワワみたいな奴だ。そしてこのツルツルふっくらとしたほっぺから生み出される、無邪気な溢れんばかりの笑顔に…俺の内の獣が位置を定める事なく揺れ動く。こ…これこそまさに魔法なのではないだろうか。見習え、天城紗香(あまぎさやか)よ。


「いや、落ち着いて。本当に違うんだよ、奈多根くん。」

「せなみさん、じゃーなんでぼくの名前しってるんですか~?」

「……」


油断させられた。俺はこの 男 に舞い上がってしまったのだ。お母さん、お父さん、ごめんなさい。子供の顔は見せられそうにありません。

 するとまたそこで、俺の背後から肩にずっしりとした、潰されるような片手の重みを感じる。


「おう。瀬波蒼太。」

 

 この制服を着た仏頂面の筋肉の塊は片桐健吾(かたぎりけんご)。通称、剣豪と あの事件 以来呼ばれている。いやデカい!それにしてもデカい! …てかいうかコイツが高校生!?何かの犯罪だろこれ!!

 なんだかんだ俺もソーシューのニ年。マンモス校だからといって、この見てくれと言わんばかりの肉塊を一度も見かけない事なんてあるのだろうか…もしかすると、柱と間違えたのかもしれないな。それにしてもタイミング!!ふざけんな!!


「なんだ。相変わらず元気だな。」

「誰と勘違いしてるんですか?」

「違うのか?」


 ここで、俺の腕に組みついたままの奈多根詩音(なたねしおん)も会話に加わる。


「ちがいませんよ、けんごーさん!」

「そうなのか?」

「違いますよ。」

「さぁせなみさん!みんなで一緒に、異世界転生しましょー!」

「ああ、異世界転生だ。」

「違いますよ。」


 奈多根詩音、お前は異世界に行っても、キュートな何か新種の生物として奴隷商人に売り飛ばされるに決まっている。

 そして剣豪、片桐健吾!お前はオークかオーガに間違えられて討伐されちまえ!! 

 二人は手を叩きながら異世界音頭を始めた。そしてジリジリと俺に迫ってくる。


「いーせかい!いーせかい!!」

「いーせかい、いーせかい、」

「あの、人違いですよ。俺………帰りますから!!!」


 取り敢えず、この二人を強引に振り切って、適当に一礼する。

 そして校門のまで駆け足で……

 とはいかないみたいだった。

 背後から魔法使いのうなるような声が聞こえる。


「いーせかい…いーせかい…いーせかい…」

「良い世界!なんちゃって!ははは。」


 俺のくだらない駄洒落と先ほどの虚言に怒り浸透なのか、天城は俺の首をぎりぎりと絞め、引き寄せながら言う。


「この前も今日もミンミン逃げやがって…このセミ野郎…!」

「ず…ずみまべ……ん」

「仲間にしてやろうって言ってんだよ…お前も行きてぇんだろ?異世界に…」

「ぃ…いや…」

「あたしは異世界に行きたくて行きたくて行きたくて…おかしくなりそうなんだよっ……お前は違うのか?行きたいよなぁ、異世界に…。なら行きたいと言えェ………!!!」


 天城は手の力を強める。俺には分かる。天界までのタイムミリットは残り9秒。なりふり構わず叫んだ。


「行ぎたいっ!!!」

「よーし、分かった。仕方ねぇな、ったく。」


 天城は地面に叩きつけるように、あっさり俺の首から手を離す。

 死ぬかと思った。いや、行きたいとまで言ってしまった。死んだも同然だ。終わった。

 どうせなら今日も明日も明後日も休めば良かった!!そうすれば、記憶が曖昧になってあの時の事もどうでも良くなってもらえたかも知れないのに!!奈多根と剣豪も戻ってくる。

 そして、トゥルーホワイトもツカツカと遠くから俺に近づいてくる。ここでふと、同時にトゥルーホワイトがメガネを曇らせて俺の事を懐疑的な目でじっと見ている事に気が付いた。とその矢先、トゥルーホワイトの口が開く。


「瀬波くんはさっきから、わざとバレるような嘘をついているね。」

「いや、わざとじゃ…」

「いいや! わざとですね。そしてわざと凶暴な天城さんを駆り立てて、キツーいお仕置きされる気満々だったのでは? 何と言うドM野郎………侮れないよ!瀬波くん!」

「全然ちげーーよ!!!」


何てこと言うんだこの金髪メガネっ…!!

コイツ…道理で大人しいと思ったら、俺の事をそんな目で見ていたのかっ…それに、なんだか図星を突っつかれて怒ったみたいになってしまったじゃないか…!!

 あの事件 以来、俺を含めた5人、天城、奈多根、剣豪、トゥルーホワイトは再びこのソーシューに集まってしまった。


「よし、これでバッチリ5人だな!」

「そーですね!たのしみだなぁ!」

「早く手続きを完了させましょう。

「ああ、訓練だ。」


 俺は息も絶え絶えに、質問する。


「何を……企んでるんだよ……」

「みんなで部活動すんだよ。正式には異世界活動だけどな!!」

「わーい!たのしみだなぁ~」

「昨日、瀬波くんが休んでいる間に我々のギルド…クラブ申請をしておいたのですよ。

「ギルドリーダーはお前だ、瀬波蒼太。」


え?クラブ申請? え?ギルドリーダー? え?俺が?何で? 全身の毛が逆立って、血の巡りが止まったのか、頭の中が真っ白になった。


 俺は無意識にも、取り敢えずここに跪き土下座の体制になる。

少しづつ、俺達の周りに野次馬が集まってきた。

 俺は顔だけ4人に向けた状態になる。そして今までには見せなかったような真剣な表情と声で、三人に訴える。


「頼む。俺の事は放っておいてくれ。……そうだ!俺はリモートで参加するから、異世界転生サポーター?としてに力なろうと思う。名案じゃないか?」

「無理」

「せなみくん!酷いですよ!せっかくみんなソーシューの生徒だったんですから、仲良くしましょーよ!」

「瀬波くん、これはあなたに課された運命なのです。受け入れなさい。」

「ああ、訓練だ。」


 脂汗が止まらない。こんなにも不安になった事は今までの人生に一度もない。平凡に、何の別鉄もない毎日を送っていた俺に、このような修羅場を潜り抜けた経験があるはずもない。

………はうあっ!?そうだ…閃いた。これこそまさに名案だ。コイツらを遠ざけるには…これしかないっ!!二度と俺には近づけないようなトラウマを植え付けてやる!!!

 俺は立ち上がりその場で堂々とした姿勢を見せる。本気っぷりを見せるために、少し声のトーンを下げ、いつもより目を大きく見開く。


「俺の あの事件  の動機なんだが実は。俺、嘘をついていたんだ。だから、本当に申し訳ないが、みんなの異世界ごっこには付き合ってあげられないんだ…。」

「………!!??まさか…君は!!瀬波くん…君と言うやつは!!」


トゥルーホワイトは何かを察したようで、その場でヨロめいた。俺の異変を察知した他の3人もすぐさま俺を取り囲んで、包囲網を形成する。 

天城は目を釣り上げて、俺に指差して言う。


「セミ野郎、また逃げようってのか……。仕方ない!剣豪、剣を抜け!!」

「だ…だめだよぉ!こんなところで!危ないよ!」


 剣豪はコクリと頷き、奈多根の忠告を無視して制服シャツのボタンを外していく。襟の部分に手を入れると、どうやらあの鞘のない剣は、わざわざロープで上半身前方に固定されている事が分かった。そんな所にっ!?動きづらそう!

 そうこうしている内に、剣豪のボタンはほとんど外れて胸元が丸見えに。貧しい女以上に筋肉でおつぱあいが作られている。相変わらず素晴らしい筋肉だ。一体何を食べればそのような突然変異体へと至れるのだろうか。剣豪は剣を上半身から抜き取り、俺に向けた。


 徐々に集まってきていた周りの生徒が騒つき始める…。『なんだなんだ?喧嘩でも始まるのか?』『え…あれって本物?』


 だが俺はもう止まらないぞ。とにかく今、この現状を打破する事だけを考えた俺は、自分の持つ精気を全てここに込める。

 大きく息を吸い、この校舎全体に響き渡るほどの声量で叫んだ。


「俺の本性がバレてしまったからには仕方がない!!俺は!トラック!のあの重厚で!大きくて硬い衝撃に吸い寄せられてしまった!異世界になんて全く興味のない!馬鹿で変態なドMブタ野郎なんだよ!! ほら、ドーンと! ドーンと来てくれよ!! ドーンと! ドーンと!! ほらほらほら!!ははは!! どうだ参ったか!!嫌だったら俺に、二度と近づくんじゃねーぞ!!お仕置きを求めて俺に!!粘着されたくなかったらなぁ!!!」


 ギルドの4人は黙り込んで、俯いた。少し、トゥルーホワイトの方は赤面しているようにも見えた。

 周りに集まっていた生徒たちも黙り込み、硬直状態に。

 朝の登校でガヤガヤと騒がしくしていたソーシューは、俺の衝撃の告白により、行進もピタッと止んでしまった。


ソーシューはしばらくの間、沈黙に包まれた。

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