第3章 ①運営者の思考
コアが進化してから、五日が経った。
その五日間――大隅 詩は、まさに“初期運営の地獄”にいた。
眠らず、食わず、ひたすら数字と睨み合う。
“MP”・“DP(Dungeon Point)”・“施設コスト”・“魔物維持費”。
彼にとってそれは、どこか懐かしい“ゲーム画面の裏側”を覗くような感覚だった。
《ダンジョン運営ログ:Day 1》
獲得マナ:+120
使用マナ:落とし穴(15)×2、スライム召喚(8)×3
維持コスト:24MP/日
残MP:51
「……やっぱり維持費がバカにならんな。」
詩はコアの光を見つめながら呟く。
この世界では、魔物や罠を維持するために“魔力の流通”が必要らしい。
いわばサーバー代だ。
会社員時代、限られたリソースでプロジェクトを動かした感覚が蘇る。
「足りないのは予算じゃなく、計画力だ」――それが彼の口癖だった。
「よし、まずは“省エネ設計”から始めよう。」
詩は通路を見直し、配置を最適化する。
無駄な罠を削除し、通路を一本化。
スライムを戦力としてではなく、**“再利用資源”**として扱うことを決めた。
『再利用……?』
「スライムは倒された敵を分解できる。
つまり、“素材の還元率”を上げればDPが増える。」
ミアが感嘆の声を上げる。
普通のマスターは、スライムをただの雑魚として捨て駒にする。
だが詩にとっては、“リサイクル装置”だった。
《ダンジョン運営ログ:Day 2》
獲得DP:+80(モンスター残骸再利用によるボーナス)
新施設:苔光壁(照明効果・維持コスト0)
残MP:78
『主様、この光る苔……見た目が美しいです。』
「見た目だけじゃない。“照明に魔力を使わない”ための仕掛けだ。
こういう小技で節約するのが、ベテランゲーマーの鉄則。」
詩は満足げに笑った。
この世界の“素材”が、まるでクラフトゲームのクラフティングシステムのように感じられる。
物理と魔法の理が融合した、“現実味のあるシミュレーション”だ。
《ダンジョン運営ログ:Day 3》
獲得マナ:+220
使用マナ:第二階層掘削(100)/支流開通(30)
残MP:68
「おっ……地下層、開通したか。早いな。」
第二階層の設計図を目にした詩は、すぐに思考を切り替える。
「この層は、“観察と誘導”用にしよう。
敵がここで迷うようにすれば、第一層の防衛戦力を減らせる。」
『つまり、“時間稼ぎの層”ですね。』
「そう。時間を奪えば、それだけで勝率が上がる。
リソースとは、時間と情報――それが俺の信条だ。」
《ダンジョン運営ログ:Day 4》
敵出現:マナバット(自然発生)×5
対応:捕獲 → テイム(成功率43%)
結果:マナバット2体を味方登録
ボーナス:索敵精度+15%
「やっぱり、ただ倒すより“使う”方が得だな。」
詩は翼を広げるマナバットを見上げ、満足げに呟いた。
バットたちは、天井を飛び回りながらダンジョンの出入りを監視する。
いわば**“動くセンサー”**だ。
『……本当に、全てを利用されるのですね。』
「ゲームってのはそういうもんだよ。
敵も、資源も、運も――使い切って初めて勝てる。」
《ダンジョン運営ログ:Day 5》
獲得DP:+160(罠連動構造ボーナス)
新設計:分岐通路(30DP)/石扉(40DP)
特殊機構:《閉鎖式罠通路》完成
ダンジョン評価:Rank E → Rank D
コアの中心が柔らかく光り、ミアが報告を上げた。
『主様。これで、迷宮構造が完成しました。』
「……よし。」
詩は立ち上がり、俯瞰視界を切り替える。
広がる迷宮は、彼の頭の中でまるで**“戦略マップ”**のように展開される。
光るライン、点滅する罠、移動するスライム、そして索敵範囲。
全てが、ゲーム画面のようにシステム的に整理されていた。
しかし、それは単なる映像ではない――命を懸けた現実の盤面だ。
『主様。これだけの調整を、五日で……。普通ではありえません。』
「慣れてるんだよ、こういう地味な積み上げ。
仕事もゲームも同じ。“初期構築の安定化”が命なんだ。」
詩は遠くを見つめながら、口角を上げた。
この五日間で、彼は確信していた。
この世界は、設計者の知能こそが最強の武器になると。




