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第二十二章:終焉の理界 ― 人の手が届く場所

――静寂。

 空はひび割れ、地は流れ、世界の輪郭が崩れていく。

 理界。

 それは神々が去った後に残された、“世界の根幹を維持するための自動構造”だった。

 だが今、その根幹が詩によって揺らぎ始めていた。

「……これが、“理の最奥”か」

 詩は薄闇の中で目を開けた。

 足元は光の道。周囲には数千の式線が空間を走り、

 世界の法則を織りなしている。

 だが、その一部が軋み、壊れ始めていた。

『理界は混乱している。

 君が“神格化”を拒否したことで、均衡が崩れたんだ』

 頭の中で響く声――理核人格の残響。

 彼の中に同化した“理”の意志。

「構わない。

 世界が俺を拒絶しても、俺は世界を諦めない」

 その言葉に呼応するように、蒼と紅の光が現れる。

 セリアとミヤ。

 二人は、理界に侵入するためにそれぞれ“魂の核”を詩に預けていた。

「詩、ここが……世界の終端……」

 セリアが震える声で呟く。

 その顔には恐れよりも、決意があった。

「ご主人さま、ミヤ……怖い。でも……行くのですね」

 詩は二人を見た。

「行く。

 これは俺が始めたことだ。

 でも、俺だけじゃ終われない。

 理も情も、全部抱いて――ここで、終わらせる」

 光の道が裂ける。

 そこから現れたのは、“灰の巫女”の幻影。

 彼女の体はもう存在していない。

 けれど、その声は世界のすべてに響いた。

『――詩。あなたはそれでも、抗うのですか』

「当たり前だろ」

 詩は進み出る。

 巫女の声は静かに揺れた。

『あなたが人であり続ける限り、この理界は破壊される。

 “理”は、“不完全”を許さない』

「じゃあ、壊せばいい」

 その瞬間、理界の全てが敵に変わった。

 無数の光の槍が、法則が、詩たちを貫こうと襲いかかる。

「セリア、ミヤ――!」

 詩の叫びと同時に、二人が前に出た。

 セリアの蒼光が盾となり、ミヤの紅炎が槍を焼き払う。

 二人の魔力が、詩の周囲で融合してゆく。

「理を拒むなら、情で覆えばいい!」

 ミヤの声が響く。

「……情だけでも届かない。

 詩、今こそあなたの“理”で導いて!」

 セリアの瞳が強く光る。

 詩は拳を握った。

 その瞬間、世界が再び白に染まる。

『――《理と情の融合認証》

 起動条件:魂同調率100%』

「これが……俺たちの答えだ!!」

 詩の身体が光に包まれる。

 蒼と紅、そして灰の光が交錯し、やがて黄金に変わった。

『《新規権限発生》――《理情創造権(Genesis)》』

 詩が一歩踏み出すたびに、壊れた理界が“再生”していく。

 彼が握る手の中から、“新しい法則”が生まれていく。

 それは――“不完全を受け入れる理”。

 灰の巫女が呟く。

『……あなたは、本当に人間なのですね』

 詩は笑った。

「俺は人間だ。

 だからこそ、理にも、情にも届く」

 巫女の幻影が微笑んだ。

『ならば、これがあなたの“人の証明”です。――詩』

 その声とともに、巫女の姿が光となって消えた。

 残されたのは、完全に再構築された“理界”の中心。

 新たな命の光が、そこに生まれていた。

 静寂の中で、詩は空を見上げる。

 セリアが寄り添い、ミヤが隣に腰を下ろした。

「終わりましたね……」

「ああ。終わった――いや、始まったのかもな」

 詩の手の中には、小さな光の粒。

 それは巫女の理核の欠片。

 新しい“理”の種だった。

 ミヤが目を細める。

「ご主人さま、それは?」

「……未来、かな」

 セリアが微笑む。

「貴方が生きて、選び続ける限り、理は人を拒まない。

 そういう世界を、貴方が創ったのです」

 詩は空を見上げ、微かに笑った。

「なら、もう少し生きてみるか」

 こうして――

 “理界崩壊”は、“人の手による創生”へと変わった。

 そしてその空の向こうでは、

 “新しい世界”が静かに誕生しようとしていた。

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