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第二十一章:理核人格 ― 神格化の扉

灰の理核を手にした瞬間、詩の頭に“声”が溢れた。

 それは巫女のものではなかった。

 もっと深く、もっと古い――

 “理そのもの”の声。

『――《起動条件、達成》

 理核人格、目覚めの刻』

 世界が反転する。

 ダンジョンの床も壁も消え、詩は真っ白な空間に投げ出された。

 その中心に、ひとりの少年が立っていた。

 少年は、詩と同じ顔をしていた。

 だが瞳は完全な蒼。

 声は無機質だが、どこか優しい。

「初めまして。僕は君だ」

「……何だ、これは」

「僕は《理核人格》。

 君が“理”を積み重ね、“情”を受け入れ、

 最後に“灰の理核”を手にしたことで発生した、君のもう一つの存在」

 詩は眉を寄せる。

「人格……?」

「うん。

 君がこれから“神格化”する際に、

 理そのものが暴走しないように制御するための“意志”」

 少年は笑った。

「でも、ひとつだけ問題がある」

「何だ」

「“理”を越えるには、“君自身”が消える可能性がある。

 人格を保てる保証はない。

 君はもう、“人間”という枠を飛び越えかけているからね」

 詩は静かに息を吸った。

「……選べってことか」

「そう」

 少年は頷いた。

「神格化し、世界そのものを変える権利を取るか。

 それとも、人間のままで、限られた力で抗い続けるか」

 その瞬間、現実世界の声が微かに届いた。

「詩! しっかりして!」

 セリアの声。

「ご主人さま……戻ってきてください……!」

 ミヤの声。

 詩は微笑んだ。

「……答えなんて、決まってるさ」

「へえ、どっちだい?」

 少年――理核人格が興味深げに問う。

 詩は目を開いた。

その瞳は蒼でも灰でもなく、光の粒子が混じった深い色をしていた。

「俺は、人間でいる」

 少年の瞳が驚きに揺れる。

「……神格化を、拒否するのか?」

「違う」

 詩は笑った。

「俺は人間のまま、“神を超える”。

 “理と情”は、どっちかを捨てるものじゃない。

 “持ったまま、越える”ものだ」

 その言葉に、少年は一瞬沈黙し、やがて笑った。

「……面白いな、君は」

 世界が揺れ、光が彼らを包み込む。

『――《理核人格・同調完了》

 人格統合フェーズ移行』

 少年が詩に歩み寄り、指先で彼の胸を突いた。

「じゃあ行こう、詩。

 “人間のまま、神を超える”君に、世界を託す」

 光が弾け、世界が現実へと戻る。

 詩が目を開けると、そこは再びダンジョンの中枢だった。

 セリアが彼を抱き留め、ミヤが必死に彼の魔核を安定させている。

「詩!」

「ご主人さま!」

 詩はゆっくりと起き上がり、二人を見て笑った。

「大丈夫だ。

 俺は――まだ俺だ」

 その瞳には、灰と蒼と紅が混じった光が宿っていた。

 それは、理でも情でもない。

 “人間としての意志”そのものだった。

『――《人間体理核・完成》

 詩=大隅詩、固有権限更新。

 新称号《理を抱く人》』

 ミヤの声が震える。

「……ご主人さま、本当に……神を超えかけています」

 詩は拳を握り、笑った。

「超えかけじゃない。

 “俺”として、やり遂げる」

 遠く、灰の巫女の残響が微かに笑う声が聞こえた。

 その笑みは、もはや悲しみではなく、確かな安堵を帯びていた。

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