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第2章 最初の侵入者

 それは、転生して三日後のことだった。

 詩のダンジョンはまだ“ひとつの洞窟”に過ぎない。

 マナの流れを整え、通路を一本延ばし、スライムを二体召喚した。

 すべてを合わせても、魔力残量は残り46MP。

 余裕はない。

「……効率重視、リスク最小。初期運営の鉄則だな。」

『主様、何かお考えが?』

「うん。コアを守るには、“敵の侵入経路を限定”するのが基本だ。

 通路は一本。入り口は狭く。防衛線は奥に作る。――タワーディフェンスの基本だよ。」

『タワーディ……?』

「敵の侵攻を遅らせて、少ない戦力で効率よく迎撃する戦法だ。

 俺の世界でもよく使われた。“詰め将棋”みたいなもんさ。」

 詩は岩壁の構造を観察しながら、ミアに指示を出す。

「ここを少し掘り下げて、落とし穴を設置。

 スライムは手前の広場に配置――奴らが落ちた後の“掃除”担当だ。

 そしてこの辺りに……《幻影の罠》を置こう。」

『幻影の罠、ですか? 初級ですが、魔力消費が10MPと高いです。』

「いいんだ。実際に攻撃しなくても、“脅威を誤認させる”ことができれば、敵は動きを止める。

 無駄な一歩を踏ませるだけで、勝率は変わる。」

 ミアは小さく息を呑んだ。

 詩の思考は、もはや新人のそれではなかった。

 すべてを数字と構造で捉え、冷静に最適解を導き出していく。

 やがて――。

『……主様。外部に反応を感知しました。』

「モンスターか?」

『はい。三体。――恐らく《岩喰い》です。』

 洞窟の入口の方から、低い唸り声が響く。

 見れば、灰色の毛皮に覆われた獣の群れ。

 四つ足で岩壁を爪で削りながら進む姿は、狼と熊の中間のようだった。

「“岩喰い”……名前の通りだな。」

『はい。魔力を食べる本能を持ち、コアの気配を嗅ぎつけて襲ってきます。

 しかし、知能は低く、単純な突進しかできません。』

「つまり――格好の実験台、ってわけだ。」

 詩は笑みを浮かべた。

 ゲームならチュートリアルボス、現実なら初期検証。

 どちらにせよ、“攻略”の時間だ。

 岩喰い三体が、低い咆哮を上げながら通路を突進してくる。

 地面が震え、砂が舞う。

『主様、接近! 距離十メートル!』

「落とし穴、起動!」

 ミアが指先を掲げ、魔法陣が閃光を放つ。

 地面が割れ、先頭の一体が吠え声を上げながら穴に落ちた。

「一体ダウン。残り二体。――幻影、展開。」

 空気が歪み、岩壁の奥に“巨大な影”が現れる。

 まるで獰猛な魔獣が潜んでいるような幻影だ。

 残る二体の岩喰いは足を止め、警戒するように唸った。

「今だ、スライムを前へ。」

 ぷるぷると震える青い体が、静かに滑り出る。

 足を止めた敵の足元へと、ぬるりと絡みつく。

『スライムが……拘束成功!』

「よし。――落とし穴、再展開!」

 詩が魔力を流し込むと、スライムの下の地面が崩れた。

 岩喰いがバランスを崩して落ち、スライムごと落下。

 残る一体は混乱し、幻影に向かって吠えかかる。

 だがそこは――岩壁を削って作った**“死角の通路”**。

 詩が狙いすました罠の地点だった。

「……終了だ。」

 岩壁が崩れ、巨岩が上から落下。

 最後の岩喰いが押し潰され、静寂が戻った。

 洞窟に、静かな余韻だけが残る。

 スライムが穴の中から這い出し、ミアが深く息を吐いた。

『……見事な戦略です、主様。まるで長年のダンジョンマスターのようでした。』

「いや、ただの応用だよ。

 限られたリソースで最大の結果を出す――ゲームでも仕事でも同じ理屈だ。

 敵が愚かなら、頭を使えばいい。」

『……愚か、ですか。』

「そう。知能の低い敵ほど、こちらの“想定外”に弱い。

 考える相手より、考えない敵の方が制御しやすい。

 ――人間も、案外同じかもしれないけどな。」

 ミアは少しだけ首をかしげた。

 だが、主の目に宿る冷静な光を見て、ただ静かに頷いた。

『主様、これでコアが成長します。魔力を吸収しました。

 ――《コアLv.2》への進化が可能です。』

「そうか。じゃあ、次の段階に行こう。

 俺のダンジョン運営は、ここからだ。」

 詩の声には、疲れよりも高揚があった。

 初めての戦い、初めての“成功”。

 それはゲームの勝利ではない。――命懸けの“現実”で得た成果だ。

《ダンジョンコア Lv.2》解放

支配範囲:+30m

新規召喚:コボルト/マナバット

新施設:石扉・分岐通路

新能力:索敵センサー(半径30m)

『主様……! これでより多くの防衛線が築けます!』

「いいね。次は“侵入者をどう誘導するか”を考えよう。

 戦うだけじゃなく、“導く”のも支配者の仕事だ。」

 詩は目を細めて笑った。

 コアの青い光が彼の瞳に反射する。

 その光は、まるで支配者の王冠のように輝いていた。

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