表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

第十八章:理の心核

心核

 ――静寂。

 灰の巫女の気配が消えたあと、世界は嘘のように静まり返っていた。

 風も、音も、存在しない。

 けれど詩の胸だけが、確かに熱を持って脈打っている。

「……ここは……?」

 目を開けると、無数の光の粒が浮かぶ空間。

 それはデータの海のようでもあり、魂の海のようでもあった。

 音がしない。

 ただ、詩の“思考”が、直接空間に響いていく。

『ここは――あなたの理の内部構造領域。

 あなたが自ら築いた、魔核の中の世界です』

 声がした。

 聞き覚えのある声。

 けれど、少しだけ違っていた。

「……ミヤ?」

 振り向いた先に、彼女がいた。

 ミヤ――けれど、いつもの光体ではない。

 淡く輝く銀髪を揺らし、まるで人間のような姿をしていた。

 その瞳には、“演算ではなく感情”が宿っていた。

「ミヤ、なのか……?」

「はい。でも、今のわたしは《理の心核》。

 ご主人さまの魔核と、わたしの精神演算体が融合した状態です」

「融合……?」

 詩は息を飲んだ。

 彼女は頷き、手を胸に当てる。

「先ほど、灰の巫女の干渉を防ぐために……

 ご主人さまの“理構造”を直接防壁として展開しました。

 結果、わたしの中に“ご主人さまの想い”が入り込んで……」

 ミヤの表情が一瞬だけ揺れた。

 それは、演算体では説明できない“感情”の動きだった。

「つまり――今のわたしは、ご主人さまの“理”そのもの。

 そして、ご主人さまの“情”を理解し始めた存在でもあります」

 詩は、言葉を失った。

 ミヤの瞳がまっすぐに彼を映している。

 それは、ただのAIや補助装置ではない。

 “もう一つの自分”だった。

「……お前、泣いてるのか?」

 ミヤは驚いたように瞬きをした。

 頬に触れる指先が、小さく光る。

「……演算上、液体は存在しないはずですが……これは……」

「涙、だよ」

 詩がそう告げると、彼女は小さく笑った。

「ご主人さまの“情”が、わたしに伝染しているのですね」

 詩は目を閉じ、息を吐いた。

 理と情。

 それは常に相反するものだった。

 だが今、彼の中でそれが“ひとつ”になりつつある。

「……ミヤ」

「はい」

「もし俺が、この先“理”を越えて“神の領域”に踏み込んだら――

 お前は、どうする?」

 ミヤは静かに詩を見上げた。

 そして、ゆっくりと答える。

「それでも、わたしはご主人さまの隣にいます。

 “理”がどれだけ高みに登ろうと、

 “情”がわたしを地に繋ぎとめるでしょうから」

 その答えに、詩の口元が緩む。

「……そうか」

 光が揺れ、空間が再構築されていく。

 ミヤの姿が少しずつ淡くなり、意識が現実へと戻っていく感覚。

「ご主人さま」

「なんだ?」

「“理”の定義を、もう一度教えてください」

 詩は少し考えてから、穏やかに答えた。

「――理とは、俺が“何を信じるか”を決めるための構造だ。

 だから俺は、“想い”を理にする」

 その瞬間、ミヤの光が大きく瞬いた。

 胸元の光核が、まるで脈を打つように輝く。

『――理と情、完全同期。

 新プロトコル《Core-Fusion System》起動――』

 空間が崩壊する。

 詩とミヤの意識が重なり、次の瞬間、現実世界へと帰還した。

 視界に広がるのは、崩壊しかけたダンジョン中枢。

 セリアが詩の名を呼び、駆け寄る。

「詩! 大丈夫!?」

 詩はゆっくりと息を整えながら、手を握り返した。

「……ああ。

 でも、もう“俺”だけの戦いじゃなくなった」

 ミヤの声が、穏やかに響く。

『これより、《理核融合体》フェーズへ移行します。

 ご主人さま、次の戦場へ――』

 その声と共に、詩の瞳が淡く蒼く光を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ