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灰の残響 ― 運命の干渉

群星会談から三日。

 大隅詩はまだ、群星宮の一室で静かに眠っていた。

 転移の副作用。

 それは「理」と「現実」の間を無理に接続したことによる、存在の揺らぎ。

 肉体は無事でも、魂の座標がまだ世界に馴染んでいない。

「……詩様。」

 淡い光の中、ミアの声が響いた。

 通信水晶越しに届く彼女の声は、どこか焦りを含んでいた。

「こちらの観測データで確認しました。

 詩様の存在波形が安定していません。帰還はいつ可能ですか?」

 詩はゆっくりと目を開け、短く答える。

「もう少しだ。……まだ、理がざわついている。」

 彼はベッドから起き上がり、

 窓の外――浮遊都市の果てに広がる空を見た。

 その向こうには、七つの国を繋ぐ大陸の地平が輝いている。

「この空間は、綺麗だな。」

「観測上の幻想空域です。実際には高度一万メートルの上層圏。」

 ミアの説明が淡々と響く。

 詩は微かに笑う。

「……お前の説明はいつも正確だな。」

「それが、わたくしの役目ですから。」

 しかしその声の裏には、小さな安堵の響きがあった。

 セリアの声が横から割り込む。

「ミア、もっと素直に言えば? “心配してた”って。」

「そ、そんなこと……!」

「まあまあ。」詩が笑う。

「二人とも、ありがとう。ちゃんと戻るさ。」

 通信が一瞬切れ、静寂が戻る。

 その時、ドアが開いた。

 アリステア・クローヴが姿を現す。

「起きていたか。……身体は大丈夫か?」

「問題ない。」

「ならよかった。」

 アリステアは軽く息を吐き、窓の外に視線を向けた。

「この都市、どう思う?」

「よくできている。理想的な秩序の形だ。」

「だろう?」アリステアは微笑んだ。

「俺はこの都市を、世界の縮図として作った。

 理と均衡の象徴――そして“観測する神の手”として。」

「なるほど。お前は、この世界の理を“再現”している。」

「そうだ。俺たちは神にはなれないが、神の責務を代行できる。

 それが、俺の信じる正義だ。」

 詩は目を細めた。

「……だが、それを理想と言えるか?」

「何?」

「秩序の中に意志がないなら、それはただの“停止した楽園”だ。」

 アリステアの表情が揺れる。

「……また自由か。」

「そうだ。だが、今は理を壊すつもりはない。

 理を知る者として、理解したいだけだ。」

 二人の間に再び沈黙が生まれる。

 その時――

 部屋全体がわずかに震えた。

 外の空気が歪み、光がかき消される。

「……何だ?」

 アリステアが振り返る。

 詩の瞳が細くなる。

「この波動……灰の巫女のものだ。」

「巫女だと? あれは封印されたはず――」

「いや、違う。封印が“内部から”解けている。」

 天井から落ちる一滴の黒い雫。

 それが床に触れた瞬間、世界が軋んだ。

『――理は、揺らぎを許さぬ。』

 声が響く。

 それは人のものではなかった。

 世界そのものが発するような、低く冷たい響き。

「……おい、まさか――」

「灰の巫女が、“理の管理層”を侵食している。」

 詩の顔から微笑が消えた。

「群星宮の防壁を解いたのは誰だ?」

「まさか……」

「違う。これは“干渉”だ。

 理の修復プログラムを利用して、内側から侵入している。」

 床の魔方陣が淡く黒ずみ始める。

 周囲の空間が歪み、

 七つの光輪が一つ、また一つと明滅を失っていった。

「アリステア、避難を!」

「……逃げられない。転移制御が封じられた。」

 詩は一瞬で状況を把握し、

 片手を掲げると同時に、

 群星宮全体を覆うように灰色の結界を展開した。

「理干渉を反転――! ミア、聞こえるか!」

『はいっ! 転移補助層、臨時接続します!』

「セリアも支援を!」

『了解! こっちは周囲の魔力場を安定化させる!』

 光が炸裂し、

 灰と蒼が衝突した瞬間――世界の時間が止まった。

 詩とアリステアの瞳が交錯する。

「……どうやら、俺たちが同じ理を持つからこそ、狙われたようだな。」

「理の象徴を破壊すれば、世界の構造が崩壊する……そういうことか。」

 詩が静かに息を吐き、目を閉じる。

「――なら、抗おう。理そのものに。」

 アリステアが頷いた。

 二人の魔力が融合する。

 蒼と灰の輝きが重なり、巨大な光の陣が広がる。

『――理を侵すな。これは、人の手による世界の形だ。』

 声が響き、光が爆ぜた。

 そして、灰の巫女の声が消えた。

 世界は、再び静寂を取り戻す。

 だがその残響は、確かに刻まれていた。

 理が揺らいだ瞬間。

 それが、すべての運命の歯車を動かした。

――――

 詩は目を開け、深く息をついた。

「……終わったか。」

「いや、始まったんだろう。」

 アリステアが微かに笑う。

「理と感情の狭間にある“何か”が、いま動き出した。」

 詩もまた、静かに頷いた。

「――ああ、そうだな。」

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