第11章《灰の襲撃 ― 蒼紅ノ盟の誕生》
第11章《灰の襲撃 ― 》
戦場は、燃えていた。
灰の空を貫くように火柱が立ち、焦げた風がダンジョンの外壁をなぞる。
その中心で、大隅 詩は静かに目を閉じていた。
脳裏には、ひとつの言葉。
「理性で生きる者は、情で試される」――それはミアの言葉だった。
◆ 一 灰の侵攻
午前五時。
詩のダンジョン外周で、異常な魔力波が観測された。
ミアが焦りながら報告する。
「ご主人さま! 西層外から未知の魔力群接近! 識別不能、灰色反応多数です!」
モニタに浮かぶ光点が次々と現れる。
通常のモンスターではありえない“同一波形”――まるで、ひとつの意識が群体を操っているようだった。
「群体知能か……いや、これは統率だ。」
詩は即座に戦術モードを展開。
手元のホロマップに、資源ポイントと戦力配置が並ぶ。
魔力タワーの防衛ラインを引き、罠ポイントを最適化する。
「ミア、第一層防衛隊を後退。第二層のマナリレーを再構成。
敵を誘い込み、中央炉で爆縮させる。」
「了解っ!」
詩の指示に合わせ、ダンジョン全体がうねりを上げて変形していく。
まるで、ひとつの巨大な生物のように。
◆ 二 敵の正体
視界の端、暗灰色の霧が裂けた。
そこから現れたのは――灰の狼。
そして、その背後に立つ人影。
白銀の髪、黒衣のマント、そして瞳に宿る薄い灰。
「……セリア・アルディナ。」
紅の魔女。かつて幾千の冒険者を焼き払った災厄。
詩の脳裏に、数日前の情報網の記録がよぎる。
【情報共有:紅の魔女、北方で灰の軍勢に従属】
【魂干渉による支配の可能性高し】
セリアの瞳が、灰の光に曇っていた。
彼女の周囲を囲む狼たちは、明らかに魂を蝕まれている。
「セリア……お前、支配されてるのか。」
「……黙れ。私の意志は、灰の巫女のもの。」
その言葉の裏に、かすかな迷いがあった。
詩はそれを見逃さなかった。
「なら、意志ごと“解放”する。」
詩は右手をかざす。
蒼の光がダンジョン全体を満たし、陣形が組み上がる。
《戦術スキル:因果再構築/マナ流制御・式Ⅱ》
彼のスキルが炸裂し、ダンジョンコアの魔力循環が反転。
エネルギーが一点に集中し、爆発的な光が放たれる。
灰の狼たちが焼かれ、灰の瘴気が剥がれ落ちていく。
その中心に立つセリアが膝をつく。
「……どうして、私を殺さないの。」
「俺は、敵を救う気はない。ただ、同じ被害者を見逃す気もない。」
セリアが顔を上げる。
その瞳に、かすかに紅の光が戻り始めていた。
詩はミアに目配せする。
ミアが治癒魔法を展開し、灰の侵食を焼き払う。
「――これで終わりだ。」
数分後、灰の狼たちは全滅した。
戦場に残るのは、倒れたセリアと、蒼く輝くダンジョンだけ。
数時間後。
セリアは目を覚ました。
彼女の隣で、詩が静かにノートを開いていた。
「……助けたの?」
「正確には、灰の支配を解除しただけだ。」
セリアは少しの沈黙のあと、微笑んだ。
「あなた、変わったわね。
前のあなたなら、あの状態の私みたいな“災厄”を救おうとはしなかったはず。」
「データにない行動を恐れていたら、この世界じゃ生き残れない。」
「ふふ……相変わらず理屈っぽい。」
そう言って、彼女は立ち上がった。
紅の髪が、朝日の中で揺れる。
「私、もう一度戦うわ。
灰の巫女――あいつを、今度は自分の意志で止めたい。」
詩は黙ってうなずく。
「なら条件がある。俺の戦略に従え。
感情の暴走は、敵の思う壺だ。」
「……ええ。あなたの理屈に、もう一度私の情を預ける。」
◆ 四 そして、嵐の予兆
ミアが通信端末を持って駆け寄ってくる。
「ご主人さま、緊急通信です! 各地のマスターたちが“灰の巫女”の使徒と交戦中とのこと!」
詩は顔を上げる。
「……やはり、灰の巫女ルミナが動いたか。」
セリアが炎の瞳を細める。
「このままだと、各地の勢力が分断されるわ。
放っておけば、世界が“灰”に飲まれる。」
「なら、各勢力を一度に呼び出すしかない。
――話し合いの場を作る。」
詩の目が静かに光る。
ミアが息をのむ。
「まさか、ご主人さま……群星会議を?」
「ああ。
灰の巫女を討つ前に、まずは“世界”をひとつにしなきゃならない。」
――その日、世界に一つの呼びかけが発信された。
「群星会議」――
すべてのダンジョンマスター、すべての勢力、
すべての“意志ある者”が集う、運命の舞台。
大隅 詩の名前が、ついに世界の表舞台に刻まれる。




