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特別幕間《理と情の戦略会議(The Strategic Symphony)》

夜。

 蒼と紅の光が交わる、静かな作戦室。

 円卓の中央には、半透明の地図が浮かび、各地の魔力流と勢力境界が淡く脈動していた。

 詩は椅子に腰を下ろし、指先で光の線をなぞる。

 その向かいに、セリアが脚を組んで座っている。

 炎のような瞳が、地図に刻まれた“世界の歪み”を見つめていた。

「現状、勢力間の均衡は脆い。

 アークメリアとアビス連合の衝突は時間の問題だ。

 その隙に“灰の巫女”が魂界を掌握する。」

 詩の声は冷たく、正確で、感情を排除したように滑らかだった。

「つまり、全てが潰し合うのを待っている第三の狼、ってわけね」

 セリアは唇の端をわずかに上げる。

「ええ。

 問題は、彼女たちの狙いが単なる支配ではなく、魂界の均一化にあること。」

 詩は指を鳴らした。

 空中にもうひとつの球体――“魂界モデル”が浮かび上がる。

 無数の光点が、ゆっくりと中心へ吸い込まれていく。

「すべての意識を一つにまとめる。

 それが彼女たちの『灰の楽園』の完成形だ。」

「……人間も、魔族も、心すら区別がなくなるってこと?」

「そうだ。永遠の平穏と呼ぶには整いすぎている。

 それは“個”の死だ。」

 沈黙が、二人の間を流れた。

 セリアは深く息を吸い、瞳を細めた。

「ねぇ、詩。あなたは何を守りたいの?」

「秩序だ。」

「秩序、ね。

 でも、秩序の中で生きるものの痛みや希望は?」

「それらは――統計的に考慮する対象ではない。」

 その答えに、セリアは小さく笑った。

 しかし、その笑みは冷笑ではなかった。

「相変わらず、冷たいのね。でも……嘘じゃないのは分かる。

 あなたは、世界を“壊さないため”に冷たくあろうとしてる。」

 詩の目が、一瞬だけ揺れた。

 セリアは立ち上がり、地図の前まで歩いた。

 彼女の手が、赤い光を帯びて浮かぶ南方諸島の位置をなぞる。

「ここ。アビス連合の“魔瘴炉”――バル=メギウスの心臓部。

 ここを制御できれば、世界の魔力循環を安定させられる。」

「しかし、近づけば精神汚染を受ける。」

「ええ。だから私が行く。」

「……危険すぎる。」

「そうね。だからあなたが“理性”で私を補えばいい。

 私は心で侵食を耐える。あなたは構造を守る。

 理と情、二つの軸で“歪み”を閉じ込める。」

 詩は少しの間、言葉を失った。

 それは、これまで誰にも踏み込まれたことのない提案――

 “心を共有する戦略”。

「……君は、感情を武器にするつもりか。」

「違うわ。感情を盾にするの。」

 その一言に、詩の目が細められる。

「君の盾が壊れたら、どうする?」

「あなたが私を支えて。理性の檻で、心が壊れないように。」

 その瞬間、空気が変わった。

 地図の魔力光が、二人の中間で静かに融合する。

 蒼と紅。冷と熱。

 まるで二つの星が、軌道を交わらせるように。

「……相反するものを共に立てる。それが、最も脆く、最も美しい構造だ。」

「詩、それって――」

「協力の定義だ。」

 彼は初めて、ほんのわずかに微笑んだ。

 それは冷たさの中に宿る、かすかな光だった。

「では、作戦を開始する。

 目標:南方“魔瘴炉”封鎖。

 コードネーム――《灰に沈む日輪(Dayfall)》」

「……名前、あなたがつけたの?」

「いや。ミアが提案した。」

「ふふっ、あの子、センスあるじゃない。」

 ふと、セリアの手が詩の肩に触れる。

 その手は温かく、確かな現実の温もりを持っていた。

「ねぇ、詩。あなたがどんな理屈で世界を守ろうとしても――

 その根っこに“優しさ”があるの、私、知ってるわ。」

「……錯覚だ。」

「じゃあ、その錯覚が世界を救うなら、私は信じる。」

 蒼と紅の光がゆっくりと重なり、

 二人の背後に浮かぶ地図は、新しい色――紫紺の輝きへと変わった。

理と情が重なり、世界は再び動き出す。

 その夜、詩とセリアは初めて「同じ未来」を描いた。

 それが、後に語られる“蒼紅ノ盟”のはじまりだった。

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