幕間 ― 心の共鳴(セリアの選択)
夜が、静かに降りていた。
戦争が終わってから、幾夜が過ぎただろう。
焦げた岩肌、崩れたダンジョン、焼け残る魔力の残滓。
その全てが、今はただ、冷たい風の中で沈黙していた。
セリアは、最上層の祭壇に立っていた。
紅い髪を風に揺らしながら、眼下の世界を見下ろす。
そこには、かつて自分が築いた“力の王国”の残骸があった。
「……私は何を守りたかったんだろう。」
呟きが、風に溶ける。
ヴォルグの亡骸も、仲間の声も、もうここにはない。
ただ、胸の奥に残る“温もり”だけが、かすかに鼓動を刻んでいる。
セリアは、そっと胸に手を当てた。
その中には、ヴォルグの“感情核”が宿っている。
怒り、誇り、そして――愛。
その全てが、自分をまだ動かしていた。
「ねぇ、ヴォルグ。
あなたなら、どうする?
理性で世界を支配する男と、
心で世界を救おうとする私……どっちを選ぶ?」
答えは、どこからも返ってこない。
それでも、セリアはわかっていた。
あの戦いの最後、詩の中に“心の灯”がともったのを。
冷たく、無機質で、完璧すぎる理性の中に――
ほんの一瞬だけ、痛みが宿った。
「あの人は、まだ自分が“痛みを感じた”ことに気づいていない。」
セリアは小さく微笑む。
「でも、あの理性の奥に火があるなら……。
私は、それを見届けたい。」
世界は、今も争っている。
ダンジョンマスター同士が互いを喰らい合い、
理と欲と恐怖が渦巻く。
どれほど力を手にしても、
誰も“救われる”ことはなかった。
だから、セリアは決めた。
「私の炎は、もう戦いのためには使わない。
誰かの心を、照らすために使う。」
紅の光が、彼女の手の中に灯る。
それは戦火の紅ではなく、
夜明けを呼ぶような、優しい光だった。
「詩。あなたは、まだ私の敵。
でも同時に――この世界を変えられる唯一の人。」
風が吹く。
彼女の髪が舞い、紅の光が夜空に散る。
「理性が冷たくてもいい。
その奥に“心”が芽吹くなら、
私は、あなたの炎になる。」
静かな夜が明けていく。
紅と蒼が混ざる空の下で、セリアは歩き出した。
その先に、あの男がいる。
理性で世界を創る者。
そして――心をまだ知らぬ者。
「行くわよ、ヴォルグ。
今度は、壊すためじゃない。
“繋ぐ”ための戦いを始めよう。」
紅の光が、まるで誓いのように煌めいた。




