008 お気楽E級冒険者とカナデの実績(2)
本日2回目の投稿です。
一章 四話(2)
私の教官魂に灯がともった。
「ああ、よーくわかったよ。おまえらがポンコツだってことがな」
「何だと。誰がポンコツだ。取り消せ」
ローシャとボアが戦闘態勢をとった。赤玉が頭上に浮かび上がっている。敵認定だ。
「挑発に直ぐ乗る、そういう所がポンコツなんだよ。いいか、俺1人でお前ら5人まとめてボコボコにできるんだぞ」
「できるもんならやってみろ。逆に俺の剣でボコボコにしてやるぜ」
ローシャが一番好戦的だ。よほど剣に自信があるのだろう。
「では、こうしようじゃないか。お前ら5人で俺にパンチでも剣でも魔法攻撃でもなんでもいいから、とにかく俺に一発でいいから当ててみな、弱っちいD級の俺にかすりもしなければ、間違いなくお前らはポンコツ確定だ」
「本当にいいの。私の魔法はC級並よ。それに、ボアのパンチだって、本気ならC級よ」
軽いしゃべり方だったマレッサが真面目な顔で聞いてきた。きちんと自分たちの実力を申告してくる所を見ると、本来の姿は冷静な判断ができるこちらの方なのだろう。少し私の好感度が上がった。
「ああ、かまわないさ。C級といっても、ここは1層のエリアだ。魔法の威力は制限されてしまう。問題ない」
私がそう答えると
「問題ないって言っているんだ。怪我してもそいつの責任だ。さあ、早くやろうぜっと」
好戦的なローシャが剣で斬りかかってきた。
色は赤玉のままだ。やはり「怪我ぐらいで勘弁してやるぜ」というどこまでも舐めた態度だ。
私は、『神装力第三権限貸与』の身体強化を瞬時に全身にかけると。ふっとその場から消えてみせた。
もちろん、本当に消えたわけではない。視線操作をして高速で彼らの真後ろに移動しただけだ。
しかし、私をにらみつけていた5人には、私が消えたように見えただろう。
「なっ、消えただと。ふざけるな、どこにいった」
「どこを見ている。俺は真後ろだぞ」
後ろから声をかける。びっくりした4人がさっと後ろに飛び下がり距離を取る。
そして戦闘態勢に入った。
なるほど、言うだけのことはある。1人1人の実力は、かなりありそうだ。赤玉は、ボアとローシャの2人だけだ。マレッサとアルバは無色だ。シケットは、戦闘に参加すらしていない。じっとこちらを見ている。
「こいつ、できるぞ。気をつけろ」
「俺とローシャで仕掛ける。マレッサ、火の球で動きを誘導できそうか」
「わからないわ。でもやってみる」
ボアが指示を出す。残り2人がうなずく。
なんだ、ちゃんと連携できるじゃないか。では、
「見せてもらおうか。新人若手お気楽E級冒険者の実力とやらを……」
何言ってるんだこいつ……という顔で睨まれてしまった。
「火の玉」
マレッサが小さめの火の玉を手のひらの上に作り出す。魔法の展開は速いほうだろう。確かに、1層でこの魔法規模ならC級並だ。
この世界の魔法は、体内に蓄えられた魔力で発動する魔法と外部の魔素を取り入れて魔法の威力を高めるという2つの方法が使える。
そして、魔素はこの大樹の森の深度が深くなるほど濃くなる。つまり、深度が深くなるほど強力な魔法が使えるようになる。
マレッサが、火の玉を小さく維持したまま、私を牽制する。言い判断だ。今回は、当てればいいのだ。大きな魔法は必要ない。
「仕掛ける」
ボアが左から身体強化したパンチを当てに来る。右は、マレッサの魔法の効果範囲内だ。動けない。私が後ろに下がると、回り込んでいたローシャが、
「そう来ると思ったぜ。馬鹿め」
剣の腹で水平に斬りかかってきた。
体に当たる寸前に剣の下を体を前屈みにして避けながら両手で空気を押し出した。風圧で3メートルほど後ろにスライド移動をする。
「なんだと。これを避けるのか」
ローシャがびっくりして振り返り追撃をするが、その時私はすでに3メートル後ろだ。
そこに、ドライブシュートのような火の玉が飛んでくる。
「3つならどう、避けられる」
マレッサの火の玉が立て続けに3つ飛んでくる。
後ろにはアルバがいた。どうやら支援魔法を放っているようだ。なるほど、アルバは支援系か。連携した連続魔法は高度な魔法だ。なかなかやる。
私は、地面を蹴って右側にある樹木めがけて跳び、木をクッションにしてそこから斜め後ろにある大岩に飛び乗り『ねこパンチ普通』を打つ。
大岩が粉々になる。
「なっ……」
全員が口をあんぐりと開き棒立ちになる。
飛び散った大岩のかけらが浮かんだまま地面に落ちるまでの短い時間で小さめの粒を選び、その小石を人差し指ではじいてローシャの剣を30メートル後方へ弾き飛ばす。
「えっ何が起こった。俺の剣はどこに行った」
ローシャは、自分の剣を探してオロオロしている。戦意消失だ。
そのまま、びっくりして動けないでいる2人の側まで、一気に跳躍し『ねこパンチ風圧』で3メートルほど吹き飛ばす。
「勝負あったな」
俺がそう宣言した時に、シケットが後ろから木の棒を無言で振り下ろした。
それをスッとよけ、そのまま棒を踏んづけた。
「やっぱり、後ろに近づいたのが見えていたんですね。すごいです」
一番冷静に戦局を見ていたのはこの男だ。油断ならないタイプだ。
「こ、こうさんよ」
アルバは、両手を挙げて降参状態だ。
今度こそ、本当に終了だ。
「さて、もう一戦やるか」
5人全員が、首をブンブンブンと高速で左右に動かした。
そして、冒頭のシーンに至る。
「お前らは何者だ」
私が尋ねる。
「はい、教官。私たちは、新人若手お気楽E級冒険者であります」
お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。
「お前らは、強いのか」
私が尋ねる。
「いいえ、弱っちいD級冒険者にボコボコにされるほど超弱っちいE級冒険者です」
お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。
「お前らは、偉いのか」
私が尋ねる。
「いいえ、私たちは甘えた考えの強くも偉くもないただのE級冒険者です」
お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。
「よろしい。それがおまえ達に対する正しい評価だ。肝に銘じて今後の行動を改めるように」
「了解しました。教官」
こうして、私と新人若手お気楽冒険者達の冒険譚が始まった……はずだった。
今、冒険者ギルドの所長室で、ラウネンさんから説教されている。
「確かに言ったよ。あいつらに効率化をたたき込めって。だがなあ。物事には限度ってもんがあるだろう」
ラウネンさんが、素材部からの報告書のような物を見ながら、頭を抱えている。
「どうやったら、あの、お気楽問題児達が、心を入れ替えて、しかも、1ヶ月で通常の半年分の素材を集められるようになるんだ」
あれ、これ怒られる案件なの?褒められるべきじゃないの?どうして俺は怒られているんだ。納得できない。
「あのー。私は、なぜ怒られているのでしょうか」
素直に疑問点を聞いてみた。
「素材部の買い取り予算がなくなったんだよ。これから、追加予算をお願いに町役場までいかなければいけないんだよ。てめえのせいだ。どうしてくれる」
……知らんがな……。
この問題は、思わぬ所からの支援であっさりと決着がついた。
それは、『新人若手お気楽冒険者』改め、『将来有望若手E級冒険者』になった5人の裕福層家族からの莫大な寄付だった。
家族の悩みの種だった問題児が将来有望になった事への感謝の気持ちからの行動だ。
私を抜擢したラウネン所長も先賢の目があったと、評価がうなぎ登りだ。試験に向けての夜の講義のお夜食が少し豪華になった。
C級スター冒険者昇格試験まで、あと2ヶ月に迫っていた。
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