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007 お気楽E級冒険者とカナデの実績(1)

 一章 四話(1)


 私は、新人E級冒険者である。つまり、お受験の他に、冒険者としての活動もしなくてはならない。というか、そもそもこっちが本来の姿である。


 なのにだ、今、冒険者ギルドの所長室で、ラウネンさんから説教されている。




「確かに言ったよ。好きにやっていいってな。それから、昇格試験に向けての実績作りだから、遠慮なくやれっ、とも言ったよ。だがなぁ、物事には限度ってもんがあるだろう」


 ラウネンさんが、素材部からの報告書のような物を見ながら、頭を抱えている。


「いや、限度と言われても、別に休みなくひたすら作業をしたんじゃないですよ。しかも、午前中は試験勉強もあったんですよ。作業できたのは、移動時間を入れて午後の5時間ぐらいです」


 私が、暗に試験勉強が余計だ……ということを臭わして反論すると、


「だからだ、そんな短時間でなんでこんな成果が出るんだって言ってるんだ」


「そんなの、魔物の生態をよく観察すれば、どうやったら効率的に捕獲できるかわかるじゃないですか。『世界樹の葉』集めだって、どこに行けば吹きだまりになっているかがわかれば、簡単に集められるでしょう」




 日本の貧乏研究者を舐めるなよ。少ない予算と限られた勤務時間の中で成果を出すには効率よく仕事しなきゃならないんだぞ。


 日本での生活を思い出しながらプンスカ憤っていたら、ラウネンさんが折れた。


「わかった。もういい。おまえ、昇格な。今日からD級だ」


 ん、また多言語翻訳君の誤変換かな。


「おまえのD級での仕事は、新人若手お気楽E級冒険者の指導だ。がんばれ、その効率化ってやつをたたき込んでやれ」


「なんでしょう。その『新人若手お気楽冒険者』っていう肩書きは……嫌な予感しかしませんけど。っていうか、私、E級になってまだ7日目ですけど……」


「うるせえ、その7日間で、通常の3ヶ月分の素材を1人で集めたのは誰だ。その調子でやられたら、他のやつらの仕事が無くなるわ」


 かなりのお怒りである。これからは自重しよう。




 と、思っていた時もありました。でも、できませんでした。


 それは、今、直立不動で一列に並び「了解しました。教官」と、声を揃えて答えている『新人若手お気楽E級冒険者』5人のせいである。今の望ましい態度は、適切な指導の成果である。




 新人指導1日目。指定された場所に行くと、明らかに私を馬鹿にしたような態度の若者達が待っていた。


「今日から、君たちの指導をする事になった。D級冒険者のカナデだ。よろしく」


 5人からの返事はない。まあいい。私は自重するのだ。


「君たちの強さはどのぐらいのレベルなのかな」


 私が尋ねると、やっと反応があった。


「俺のレベルは、すでにD級並だぜ。あんたよりはきっと強いぜ。なあ、アルバ」


 リーダーと思われる体ががっしりした男が挑戦的な視線を向けてきた。


「そうね、どう見てもボワの方が強そうよ。なんでこんなひょろっちいのに指導されなければいけないのか理解できないわ。ねえ、マレッサもそう思うでしょう」


 真面目で気難しそうだが、整った容姿のメガネの女の子が不満そうに言うと、


「えー私は別にいいよ。だって、この子かわいいしー。それに、ラウネンさんがすごい強いぞって言ってたものー。きっと強いのよ。ローシャはどう思うのー」


 明るく元気そうなかわいい系の女の子だ。ただ、しゃべり方が軽い。


「あの筋肉おっさん、いよいよぼけてきたんじゃ無いかと思うぜ。こいつを見ればよ」


 すごく馬鹿にした言い方をしてきた。いちばん態度が悪い。ただ、剣を持っているので、剣術の身体強化がかなりできそうなイケメン風の男だ。


「す、すみません。ぼくは、シケットと言います。この中では、いちばん弱いです」


 最後に、おっとりした感じの男が自信なさそうに自己紹介をした。




「あーまあ、私はこんな姿だから、そう思うのも仕方ないか。まあ、いい。それじゃ、いつもどんなふうに魔物を捕獲しているのかやって見せてくれないか」


 なんか、面倒くさくなったのでいろいろ流した。私の、やってみてくれの言葉で、ボアが動いた。


「じゃぁ、俺からだな」


 ……ん、俺から?チームで狩りをするんじゃないの……


 ボアが1人で歩きだした。目指すのは、先ほど草むらに逃げ込んだ兎型魔物『まちぼうけ』だ。



 ボアが待つ…………



 ボアが待つ…………




 ボアが待つ…………






「おい、いつまで待つつもりだ」


 たまらずに聞いてみると、


「飛び出ししてくるまでに決まっているだろう」


 何のちゅうちょもなく答えやがった。


「……おまえ、その方法で今までどのぐらい活動停止にした」


「3匹ぐらいだ。出てくれば、一発で仕留められる」




 そりゃそうだ。兎型魔物『まちぼうけ』は、D級クラスの身体強化なら、かすっただけでも体は消滅し魔石になるほどの弱い魔物だ。


 ただし、臆病で警戒心が強いうえに逃げ足がずば抜けて早い。だから、脅威度Dランクの魔物に指定されている。


 つまり、追いかけてもつかまらない。かといって待っていたら文字通り『待ちぼうけ』だ。




「あー、一応聞くが、君たちは、協力して狩はしないのか」


「何言ってるの、私たちは、何の経験も無いただのE級じゃないのよ。みんなが、家族にしっかり指導を受けた実力者よ。何で協力なんてしなくちゃいけないのよ」


 真面目系のアルバが、私たちの実力を知らないの?という言い方で反論してきた。


「そうだ。『まちぼうけ』なんて、俺の剣がかすれば直ぐに霧散するぞ。そんな弱っちい魔物に苦戦するのは、おまえぐらいだ」


 と、ローシャが腰の剣をぬいて私の方へ剣先を向けてきた。


 その言葉で理解しました。なぜ、この若者達が『お気楽』と言われているのかを……。


こいつらボンボンだ。裕福な家庭でぬくぬくと甘やかされて育ってきた奴らだ。つまり、性根からたたき直さなければいけない奴らだ。




 私の教官魂に灯がともった。



本日お昼頃に4話(2)を投降する予定です。

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