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006 冒険者ギルドと昇格試験(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 三話(2)


 すみません。倒したのはつくもです。でも、言えません。私も同じ事できますから、だから、まあ、嘘ではないか。




「じゃ、登録済ませちゃいましょう。こっちに来て」


 フェロンさんに受付横の小さな部屋に手招きされた。


「文字は書けそうね。じゃ、この用紙の四角い枠の中にカードに登録する名前を書いてちょうだい」


「あれ、名前だけですか。それに、登録する名前って、偽名でもいいんですか」


 フェロンさんは、めんどくさそうに手を振りながら


「偽名だって、かまわないわよ。どうせ、それが偽名だって証明することなんてできないんだもの」 


 だるそうにそう言うと、早く書けと用紙を押しつけてきた。


 私は、ちょっと考えてから、カタカナで『カナデ』とかくイメージをしてから手を動かす。


 多言語翻訳君がこの世界の文字に瞬時に変換しているので、漢字でもカタカナでもたいした違いにはならないかもしれないが……。


 私から用紙を受け取り、名前が書かれている四角い枠の上に、白い名刺ほどの大きさのカードを置いてから、バラの棘のような物を渡してきた。


「じゃ、これを親指の腹に刺して、血を一滴出してちょうだい。それを、このカードの隅にある穴に垂らすように押しつけてね」


「…………」


 これは何の棘だ。大丈夫か。毒は無いか……と無言でいると、


「ああ、痛いのダメな人なのね。大丈夫よ。この棘は刺しても痛くないから安心して」


 この世界ではこれが普通なのだろう……あきらめて言われた通りにする。




 血を垂らすと、用紙に書いた文字がカードに浮かび上がりやがて消えた。そして、カードの色がE級の赤色に変化した。


 すごい。魔法だ。やっぱりここは魔法のある異世界だ。私が感動していると、


「はい、これで登録終わりよ。このカードはちょっとした魔道具になっているの。この町への出入りや別の国に行った時に、このカードをここにかざせば、カードの持ち主が本人であることを証明してくれるわよ」


 四角い箱のような物を指さしながら説明してくれた。このカードは、本人以外が持って装置にかざしても、反応しないらしい。血による遺伝子の生体認証なのかも知れない。




「さて、E級冒険者のカナデ君。早速の依頼よ。奥の部屋で所長と面会よ」


「…………」


 いきなり何を言い出すんだろう、この人は


「サクラー。ごめんね。さっき所長に呼ばれてね。登録終わったら、カナデ君といっしょに所長室へ行くように伝えろって言われたのよー」


 と、フェロンが「お部屋はこっちよ」と手招きをした。







 フェロンさんに促されるままに所長室に入ると、そこにはゴリラがいた。いや違った、ゴリラみたいに大きな人族がいた。


「おまえがカナデか。てめえ、何者だ」


 と言って、ものすごい威圧が私に襲ってきた。


 この威圧はまずい。このゴリラは(所長)、何色だ……色無しか。まだ、敵でも味方でもないか……対処は、相手の出方を見てからだな


「…………」


 私は無言で、ゴリラ(所長)の威圧を受け流した。にらみ合いがしばらく続いた。




 私は、神様からこの世界で自分の身を守るために3つの力をもらった。その1つ目が『真色眼(しんしょくがん)』だ。これは、相手が敵か味方かを色で判断できる能力だ。


 神様にいきなり大樹(たいじゅ)の森の深層に転移させられた時は、とにかくひどかった。この能力のおかげで、周りは真っ赤に輝く魔物だらけだった。


 襲ってくる奴らをつくも(猫)と私の『ねこパンチ強め』ですべて追い払った。


 3日目になると、襲ってくる魔物もいなくなり、逆におびえたように逃げていく魔物が多くなった。


 そして、逃げていく魔物は、赤く輝いていなかった。つまり、私を殺す、または、死ぬかもしれないほどの攻撃をしてくる場合に、赤く輝くことがわかったのだ。


 それから、2日ほどかけて、この能力の検証と改善を行った。常に赤く輝いていられるのはかなり迷惑だ。まぶしい。なので、私が意識しなければ、輝かないように調整した。




 次に、ただの嫌がらせでも赤くなっていたので、私に何らかの苦痛を与えようとしている場合は赤玉が頭の上に浮かび上がるようにした。


 そして、明らかな殺意がある場合は、緊急なので黒玉が浮かび上がると同時に、もらった力の2つ目『瞬間自動神装(しんそう)結界』を瞬時に張れるように調整したのだ。




 ゴリラ(所長)と私のにらみ合いが、30秒ほど続いたころ、所長が威圧を解いた。


「はっ、この威圧に耐えるどころか、にらみ返してきたか。なるほど、カルミアが一目を置くわけだ。なっとくだ。それに、サクラの嬢ちゃんも平気な顔かい。おじさん自信無くすよ」


「ラウネンさん、いきなりこれは失礼です。それに、この程度の威圧、カナデさんには全く通じません。カナデさんは、3層から歩いて10日の深層から来たんですよ」


 サクラさんが怒ってくれた。ちょっと嬉しい。


「とは言ってもなぁー。C級冒険者ぐらいなら、みんなションベンちびって腰ぬかす位の威圧なんだがなぁー」


 といって、頭をボリボリ手で掻いた。


「まあ、なんだ。試して悪かったな。改めてあいさつだ。俺は、冒険者ギルドの所長をしている『ラウネン』だ。強いやつはいくらいてもいい。歓迎するよ。E級冒険者のカナデ君」


 ゴリラは『ラウネン』だった。




「それで、私たちをここに呼んだ理由は何ですか」


 まだ、敵か味方かはっきりしていない。ここは慎重に行こう。そう思って気持ちを引き締めた。が、次の言葉にずっこけた。


「カナデ、おまえ、3ヶ月後の冒険者ギルトC級スターの昇級試験を受けろ」


「…………ハイッ『えっ』…………?」


 サクラさんと私の声が重なった。


「おう、即決かい。いいねえ。気に入った」




 いや違うから、「何ですかー」のハイですから。


 いけない。きっと、神様からもらった3つ目の力『多言語翻訳君』が誤作動している。いや、誤変換しているに違いない。メンテナンスはどうすればいいんだ。


 私はこの世界に来て初めてテンパっていた。サクラさんが、最初に再起動した。


「ななな、何を言っているんですか。ラウネンさん。カナデさんは、今日E級になったばかりですよ」


「えー、だってよう。俺の威圧跳ね返すんだぜ。そんなの、すでにB級クラスだろうが」


「……まあ、確かに、すでにB級クラス。いえ、A級でもおかしくないかも知れませんが」


 あれ、サクラさんの勢いが弱くなった。


「だろっ。なら、C級なんて、楽勝だろうが」


「まあ、そうですねえ。C級なんて、S級への通過点でしかありませんね」


 あれ、あれ、なんか変な方向に……。


「だろ、だろ、なら、サクラも賛成だな」


「もちろんです。カナデさん。私も3ヶ月後に、案内人ギルドのC級昇格試験を受ける予定なんです。いっしょに頑張りましょう」


 ラウネンさんが勝ち誇ったような表情で聞いてきた。


「だってよ。で、おまえ、どうする」


 サクラさんが。キラキラした目で私を見ている。


「ぐっ……ぜひ、受けさせてください」


「うひひひひ。決定だな」


 所長はゴリラではなかった。狸だった。







 サクラさんがその気になった時点で、全てのことは決定した。私は、3ヶ月後にC級スター冒険者になるための昇格試験を受けることになった。


 ところで、スター冒険者って何?


 スター冒険者は、『風の加護』を持つ案内人の公式パートナーになれる立場だった。


 そもそも風の道が使える案内人の人数は限られている。また、C級案内人からは、移動の際、裕福層への対応をする場面が出てくる。


 B級、A級になると、大商人や上位貴族、王族の対応をすることになる。


 その時に、その都度パートナーが変わるのは都合が悪い。なので、常に同じ人がパートナーになれるようにするための『スター冒険者』制度だ。


 つまり、C級スター昇格試験は、かなり難しい試験になるらしい。本当に、私で大丈夫なの。







 次の日から、試験に向けての猛勉強が始まった……お勉強である。


「おやぁ、冒険者だよね。強さが大事なんじゃないの」


 と質問したら、猪型魔物『まっすぐ』をパンチ一発で倒せれば、強さは問題ないそうだ。




 今の私に必要なのは、大樹の森や案内人、冒険者に関する知識、生息する魔物の生態と敵対したときの対処の仕方、この国の地理、歴史、経済、文化、芸能にいたるありとあらゆる広い知識なのだそうだ。勘弁して。


 私の先生は、ラウネンさんとフェロンさんだった。どちらも、過去、その試験に合格した実力の持ち主だ。


 ギルドの仕事がある忙しい合間を縫って、教えてもらっている。教え方は意外とわかりやすい。


 それに、神様からもらったこの体は、丈夫なだけでなく恐ろしく記憶力も応用力も優れている。


 フェロンさんも、


「あんた、ホントに優秀ね」


と、びっくりしている。


 受験勉強は順調だった。


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