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005 冒険者ギルドと昇格試験(1)

 一章 三話 (1)


「おかしい。なぜだ。なぜ、誰も起きてこない」


 今日は、遠くまで行って家を選び、その足で冒険者ギルドに行くはずだ。なら、忙しいはずだ。


 しかし、朝のこの瞬間、この屋敷にその緊張感がない。起きているのは私とできるメイドさんだけだ。つくも(猫)でさえまだ、丸くなった『アンモニャイト』状態だ。


「ディナさん、他の人たちはまだ起きないのですか」


 ホールを1人でうろうろしているのも変なので、聞いてみた。


「そうですね。今日はいつもよりゆっくりですね」


 背筋を伸ばした姿勢でテキパキと朝の勤めをしながら答えてくれた。


「あの、今日は冒険者ギルドにも行くので忙しいのでは……」


 みんな忘れているんじゃないの……というメッセージをさりげなく送る。


「ああ、知らなかったんですね。すみません。出向者用住宅はすぐ隣です。冒険者ギルドは案内人ギルドの真向かいです。歩いて5分です」


 昨日寝る前に言ってよー。ぼくももう少しふかふかベットで寝たかったよー


 心の声はぐっとしまいました。







 二度寝するわけにもいかないので、私は屋敷の外に出てみた。


 季節は、日本で言えば春真っ盛りだ。屋敷の周りは広い庭園になっている。木々は、まだ、冬の装いだが、地面からは、水仙のような芽が出はじめている。


 オオイヌノフグリによく似た小さな花が、その周りに群生している。ふと、少し離れた小高い丘を見てみる。


 ん、あれは、桜の木……にそっくりだよな。


 近づいてみると、やはり桜の木にそっくりだ。この世界に転生してくる時に神様は「地球によく似た環境の世界」と言っていたが、本当にその通りだ。


 私が、桜の木をじっと見ていると、後ろから声がかかった。


「カナデさん、ここにいたんですね。ディナから聞きました。早く起きて待っててくれたんですってね。近いって言わなくすみませんでした」


 サクラさんは、申し訳なさそうに頭を下げてから、ふと、私が見ていた桜の木に目をやった。


「八分咲きって所ですね。満開になるのは明日ぐらいですね、きっと」


 花のつぼみを見ながらそうつぶやいた。


「ここは、私のお気に入りの場所なんです。春には私の名前と同じ花が咲いて、夏になれば木陰になるんです。カナデさんにも、気に入ってもらえたら嬉しいです」


 と、ニコッと笑った。


 サクラさんは、食事の用意ができたからと、呼びにも来てくれたようだ。そのまま、屋敷の食堂に案内された。




 食堂には、カルミア様とビオラ様もすでに着席していた。つくも(猫)も、サクラさんの隣の席でちゃっかりと、前足を揃え後ろ足をたたんだ『エジプト座り』で待っていた。


「みんなそろったね。では、朝食をいただこうか」


 食事前の「恵みに感謝を……」の様な儀式はないようだ。よかった。


「食べながら聞いてくれ、私はカナデ君を『出向者用住宅』に案内をしたら、案内人ギルドに行かなくてはならないので、そのあとの事はサクラに任せることにした。サクラいいかな」


「はい、任せてください」


「ギンギツネ号は修理に出しているので使えない。しばらくサクラの配達はお休みだ。なので、その間にカナデ君にこの町のことをいろいろ教えてあげなさい」


「わかりました」


 ん、配達? そういえば出会ったときにもそう言っていたな。案内人は、宅配みたいなこともするのかな。


「いろいろ甘えちゃってすみません。よろしくお願いします」


 いろいろ疑問はあるが、いちいち聞いていられないだろう。早くこの町のことを知るためにも、この提案はありがたい。私は、素直に甘えることにした。







 出向者用住宅は、本当に屋敷のすぐ隣の敷地にあった。


 この町の案内人ギルド、冒険者ギルドは、この大陸にある全ての国と関わりがある。


 なぜなら、『大樹(たいじゅ)の森』に入るには、この入り口の町を通るしかないからだ。


 つまり、いろいろな国から、この森で取れる素材目当てに人が集まる。人が集まれば、それを管理する人が必要になる。だから、出向だ。


 ビジネスマンや行政のお役人が都心に集まる様な感じだろう。その人達が滞在する場所がたくさん必要になるわけだ。


「今空いている場所で、屋敷と一番近いのはこの家になる。ビオラから、くれぐれも近い場所と言われていてな、これは決定なのだよ。すまんな」


「……とてもいい場所だと思います。ここでだいじょうぶです」


 両方のギルドにも近いから、こちらとしてもありがたい。快く受け入れた。


「ベッド、テーブル、椅子など、生活するのに必要な物は一通りそろっているので、当面はこのまま住みなさい。慣れてきたら、いろいろ買いそろえていけばいい」


「わかりました。私もそう思っていました」




 鍵を受け取り中を確認すると、本当に直ぐ暮らせるようになっていた。部屋は台所の他に3つもある。


 ん、もしかして妻帯者用なのでは……。家賃いくらなんだろう。まあ、お金はあるから気にしないで使わせてもらおう


 住宅問題は、30分ほどで解決してしまった。




 次は、いよいよ冒険者ギルドだ。どんな手荒い歓迎が待っているのだろう。ちょっと楽しみかも。


 屋敷の前でサクラさんが待っていた。これから冒険者ギルドにいっしょに行ってくれる。




 今の時間は、午前10時ぐらいだ。依頼を受ける冒険者が皆出払っているこの時間が都合がいいらしい。


「ねこちゃんは行かないのですか」


サクラさんが少し残念そうに聞いてきた。


「どこかで昼寝ですね、たぶん。それに、あの姿だと乱暴な冒険者がいたら何かされるんじゃないかと警戒したのかもしれないですね」


「あー、確かに……冒険者さんの中にはじゃまだって蹴飛ばす人がいるかもしれないですね」


 サクラさんは、そんなことしたら許さないからという表情だ。


「ハハハハ、もし、本当に蹴飛ばしたら、その人きっとねこパンチ一発で壁にめり込みますね」


「ですね。ねこちゃん強いですから」







 冒険者ギルドの中に、人はあまりいなかった。受付カウンターにも、人がいなかった。どうやら、異世界あるあるのイベントは起きないようだ。ちょっと残念。


「すみませーん。案内人のサクラです。フェロンさんいますかー」


「はーい。ごめんねー。ちょっと待ってて」


 奥から女性の声が聞こえ、しばらくしてから、人族の成人のお姉さんが現れた。


「待たせたわ。ごめんね。所長に呼ばれてたのよ」


「いえ、大丈夫です。それで、こちらの方が、朝お話しした冒険者になりたい方です」


 どうやら、サクラさんが事前に話しを通して置いてくれたらしい。


「カナデと言います。よろしくお願いします」


 きれいなお姉さんから、ジーと見られました。恥ずかしい。


「ずいぶん若いわね。今いくつなの」


 おっ、そうだよ、これが普通の反応だよ。


 サクラさんの家族は、1度も年齢を尋ねてこなかった。


「はい、16歳です」


 嘘です。前の世界より10歳ほど若い体になっています。


「えっそうだったんですか。すごく落ち着いたしゃべり方だったので、見た目よりも年齢が上だと思っていました。私も今16歳です。いっしょの歳だったんですね」


 サクラさんが嬉しそうです。でも、16歳ですか。エルフでも見た目通りだったんですね。


「ふーん、まあ、いいわ。この町では、9歳からでもE級だったらなれるからね。問題ないわ。ただ、思っていた感じと違うからちょっと意外だったのよ」


「意外とは……たとえばどんなことですか」


「だってね、あの『まっすぐ』をパンチ一発で倒したって言うからね、どんな大男かって思っていたのよ。それが、こんなにひょろっとした人じゃない。びっくりよ。ということは、あなたはきっとすごい身体強化魔法が使えるのね。ああ、言わなくてもいいわよ。独り言だから」


 すみません。倒したのはつくもです。でも、言えません。私も同じ事できますから、まあ、嘘ではないか。


本日お昼頃 3話(2)を投稿する予定です。

なんと、一人の方がブックマークをしてくれました。素直に嬉しいです。励みになりました。ありがとうございます。

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