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004 サクラの家族と晩餐会(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二話(2)


 異次元収納に金貨を入れたり出したりしているときに、ドアがノックされた。


「カナデ様、ねこちゃん様、食事の用意ができましたので、会場にご案内します」


 ただ者ではないメイドさんが、キラッキラの毛並みをしたつくもをみて、満足そうに微笑んだ。そして、私の服装を見て、約3秒……無言でどこかにすっ飛んでいった。




 ただ者ではないメイドさんが、あっという間に3人ほど応援を引き連れ戻ってきた。


 そしてどこからかもってきた正装用の服に、これまた3人がかりであっという間に着替えさせられてしまった。そして、何事もなかったように、


「では、会場にご案内します」


と言うと、スタスタ歩きだした。できるメイドさんです。プロですね。


 会場には、すでにカルミア様、ビオラ様、サクラさん、が席に座って待っていた。


 私は、サクラさんの真向かいに座り,つくもはサクラさんの隣の座席に飛び乗りちょこんと座った。




 普段着ている服は、多分神様がサービスで用意してくれた服だろう。


 つくも(猫)が言うには、正式な礼服ではないが、今日のような突然のご招待なら失礼にはならないだろうという服らしい。


 それでも心配だったので事前に確かめた。


「カルミア様、ご相談が……実は、私は今着ている服しか持っていないんです。食事の時に失礼にならないでしょうか」


「内々の簡単な食事会だから、大丈夫だよ」


 大丈夫だったんじゃないんですか。カルミア様ーぁ。




 サクラさんは、正式なドレスを着ていた。ビオラ様も気合いが入っている。カルミア様は……正装だった。チラッとカルミア様を見たら、視線をそらされた。


「いやね、私は簡単な食事会にしようと言ったんだけどね。命の恩人に失礼だと2人に押し切られてね。すまん」


「カナデさんのその服、兄が以前着ていた服ですね。すごくよく似合っています」


「サクラさんもとても似合っています。あの制服も似合っていましたが、この姿もすてきです」


「ふふふ、ありがと」


「ニャッ」


 つくもが、テーブルの上にちょこんと乗って短く泣いた。


「ふふ、ねこちゃんも毛並みが最高よ」


 サクラさんは、できるメイドを見て小さく拳を握りしめた。できるメイドは、(恐縮です)と静かに一礼していた。




 サクラさんのドレス姿は、制服とはまた違った大人びた雰囲気だ。やはり貴族令嬢なのかもしれない。


 サクラさんの年齢は、見た目では15歳から18歳ぐらいの間に見える。しかし、サクラさんはエルフだ。


 もしかすると、前の世界での私の年齢を超えているかもしれない。気になるが、女性に年齢は絶対に聞けない。




 メニューは、エルフなので肉は出ない。と言うことはなく、肉も魚も野菜もすべてまんべんなく美味しく料理されていた。森での生活を思い出すと、涙が出そうだった。


 この世界の貴族マナーは知らないので、カルミア様の様子をさりげなく観察させてもらった。

 

 日本で経験したレストランのコース料理と似ていたので何とかなった。連れて行ってくれた先輩に感謝だ。


「カナデ君は、このような形式の食事をしたことがあるようだね。もしかして、貴族なのかい」


 カルミア様が突然話を振ってきた。




「いえ、貴族では無いです。ただ、私がいた国は、少し無理をすれば、庶民でもこのような食事形式を経験できる国でした」


「それは素晴らしいね。この町も、この大陸の他の国にくらべれば、かなり平民と貴族の格差はないのだよ。私たちも、普段は案内人ギルドの食堂で他の職員と一緒に食事をしているよ。ただ、今日は特別な日でもあるのでこのような場を用意したけどね」


 特別な日か、誰かの誕生日だったりして……、まあ、詮索はしないよ。


「お心づかい感謝します」


「ところで、その、神獣(しんじゅう)様は今何をしているか教えてもらえないだろうか」




 つくもを見ると、皿に盛られたスープに前足をちょんとつけて、それをペロペロなめ、また、ちょんとつけてペロペロとなめていた。


「……たぶんですが、ねこが水を飲むとき、前足でちょんと水面を触って確認してからペロペロなめて飲む。という習性がありまして、今それをしているのではないかと……」


「……スープを気に入ってもらえたのならいいのですが……」


 ビオラ様がそうつぶやいてから、


「カナデさんは、これからどうするか決めてあるの」


と、聞いてきた。


「特には決めてないですが、とりあえず生活していくのに必要な物を買いそろえたいと思っています。それで、ちょっと確認したいのですが、この金貨はまだ使えるのでしょうか」


 ポケットから取り出したかに見えるように、金貨をアイテムボックスから出して、テーブルの上に置いた。


 できるメイドがさっと寄ってきて、ハンカチの上に金貨をのせて、カルミア様のところに持っていく。


 カルミア様は、それを持ち上げ、裏表を回しながら見てから、


「ずいぶん古い金貨だね。でも、これなら今でも時々使う人がいるよ。この町でなら、多分大丈夫だよ」


 そのままメイドに金貨を渡し、返してくれた。


「よかったです。これでいろいろ買えそうです」


「ただね、この町は、大陸の金貨を使わないんだよ。銀行で『樹魔(じゅま)硬貨』と両替しなさい」


 おう、銀行があるのか。意外と文化レベルが高いのかもしれないな。


「町にあるお店の様子もわからないだろうから、サクラに案内してもらうといいよ。サクラいいよね」


 カルミア様がサクラさんを見る。


「もちろんです。いつ行きますか。明日ですか」


 サクラさんが目をキラキラさせながら聞いてきた。




「明日は、宿を探そうかと思っています。どこかにつくもも泊まれる宿はないでしょうか」


「えっ、何を言っているの。宿なんて必要ないでしょう。ここにいればいいでしょう。ねえ、カルミア……」


 ビオラ様が、カルミア様に無言の視線を送る。


「も、もちろん、カナデ君さえよければ、かまわないよ」


 カルミア様が、含みのある言葉でそう答えた。


「とてもありがたいお話なのですが……実は、私はしばらくこの町で暮らしてみたいなと思っているのです。そして、ここで仕事も見つけたいと思っています。その時に、貴族のお世話になっているとは思われたくないのです」


 少し生意気なことを言ったかなと、心配になったがここは譲れない。




「貴族のお世話になりたくない。なるほど、探求者の考え方ですな。でも、私は確かに貴族だが、領地を持たない『名誉貴族』だよ。それに、この町の長は、町長だよ」


 なぜかとても嬉しそうにしている。

 

「カナデ君は、働きたいんだね。なら、いい仕事があるよ。『冒険者』さ」


「冒険者という仕事があるのですか。案内人とどう違うのですか」




 この世界では、『案内人』が、冒険者のようなことをするんだと思っていたので思わず聞いてしまった。


「文字通りだよ。『案内人』は、冒険したい人を冒険ができるところまで案内するのさ」


 カルミア様は、そうだろうと言うようにサクラさんを見た。


「はい、もし、カナデさんが冒険者になったら、私が案内しますよ。任せてください」


 サクラさんが胸の辺りで両拳を握って宣言した。


「サクラさんの風の道ですね。ああ、なるほど。わかりました。確かに、魔物がいるところまで歩いていたら、何日もかかってしまいます。だから、風の道、案内人なのですね。そして、樹魔車両なら、確保した素材も運べる。理にかなっています。」


 思いついたことがつい口から出てしまった。昔からの私の癖だ。しかし、カルミア様は少しびっくりした様子で、


「おどろいたな。あの説明で、そこまでたどり着くのか。なるほど、これが探求者のひらめきなんだね。『一を聞いて十を知る』とは、まさにこういうことか」


と、まじまじと私を見た。




「でもね、冒険者ならこの家から通ってもできるわよ」


と、ビオラ様はチラッとつくもを見た。それを見て、うなずいているできるメイドとサクラさん。(サクラよおまえもか)


「……つくもなら、いつでも遊び来られますよ。猫ですから自由です。なあ、つくも」


 テーブルの上で丸まったままのつくもに呼びかけると、しっぽをヒョイと持ち上げた。


 この仕草で全てを悟った3人の女性達は、それ以上何かを言うことはなかった。




 自立宣言騒動も一段落したので、今後の事をカルミア様と相談した。


 この町には、研究者やお役人などがたくさん出向してくるので、そういう人たちを受け入れる家があるらしい。


 長く滞在するならそこがいいだろうと、明日の午前に早速案内してもらうことになった。


 そして、できれば、その足で冒険者ギルドに行って、登録してしまおうという流れになった。そんな話がまとまり、今日の会食はお開きになった。




 明日はいろいろなところを回るので、多分早起きだ。忙しくなりそうだけど、楽しみだ。


 ワクワクしながら柔らかいベッドで眠りについた。



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