017 ギンギツネ号と洩れた神力(1)
本日2回目の投稿です。
一章 十話(1)
千年樹の森には私とサクラさんで行くことになった。
なぜそうなったかというと、その千年樹の森には魔物が全く出ないので危険が少ないことと、その森に生息している樹魔は、人数が多いと警戒してしまうからだ。
さらに、つくも(猫)がついて行けば安心だからと言うことだ。確かに『神獣様』ではあるのだが……。
「なあ、つくも(猫)おまえ、かなり丸くなっていないか」
私は、猫ではなくタヌキのようになった相棒を見つめた。
「そうなんです。どうやら、どこかですごいごちそうを毎日食べさせて貰っているみたいなんです」
サクラさんが風の道の中でギンギツネ号を操りながら心配そうにしている。
猫の食事には、食べてはいけない物が結構ある。ネギ類はもちろん果物やお菓子にも食べさせてはいけない物が多い。
なので、サクラさんの家では、食べ物に気をつかってくれている。だから、よく知らない人が変な物を食べてさせてしまわないか心配なのだ。
といっても、つくも(猫)は神装力第三権限の力を持っているので、たぶん毒も効かない体だ。基本何でも食べられるのだろう。でも、心配してくれる事がありがたい。
よし、この依頼が終わったらダイエットをしてもらおう。
と、私は決心した。
「サクラさんの今日の服は、森での活動用ですか」
サクラさんは、C級案内人になったので、もう配達用の制服は着ないようだ。似合っていたので残念だ。
「ええ、これからは森の中での活動が増えると思うんです。どんな服がいいか、今迷っているんです」
これ以上の会話は、サクラさんの集中力に支障が出そうなので遠慮することにした。
つくも(猫)の丸くなったお腹をさすりながら、すごい速さで流れていく景色を楽しむ。
サクラさんは、4層に入る手前で風の道を解除した。
「ここからは、樹木が多くなりますので『ペンテ』の出番です」
「ペンテお願いね」
ペンテは分かったと言うようにうなずくと、テトテトテトと走り出した。
走る姿は駝鳥そっくりだ。ただ、賢の字がついているだけあって本当に賢い。なので、いろいろな場面で活躍している魔鳥だ。
ギンギツネ号の周りに何か膜のような物が張られたのを感じたので、
(つくも(猫)、何かしたの)
と聞いてみた。
(ああ、一応神装結界を張って置いたぞ。ビオラからサクラのことを頼まれたからな)
つくも(猫)が、しっぽを座席にパンパンと叩きつけながら、念話を返してきた。
「あら、ねこちゃんご機嫌斜めみたいね。どうしたのかしら」
ねこは、機嫌が悪いときはイカ耳になったりしっぽを床に叩きつけたりする。
「ニャー」
猫は違うぞと言うように鳴いてサクラの足に頭をこすりつけていた。
そんなつくも(猫)を生暖かい目で見ながら、
「今日はどこで野営をする予定なの」
と、聞いてみた。
「そうですね。ここまでかなり順調に進みましたので、予定よりも少し奥での野営になると思います。ふわー」
そう答えたサクラさんはかなり眠そうだ。
「確か賢魔鳥は行き先を覚えているんだよね。なら、少しなら任せても大丈夫かな」
「はい、大丈夫です。少し休ませて貰いますね」
サクラさんは後部座席でスースーと眠ってしまった。
私は、異次元収納箱から、上掛けを取りだし寝ているサクラさんにそっと掛けてあげた。そして、サクラさんが座っていた御者台に座り周りを確認することにした。
つくも(猫)の張った結界は神装力第三権限の結界だ。この世界では最強の結界なので、4層レベルの魔物ではびくともしないだろう。
シーンとした森の中を、銀色に輝くギンギツネ号が走る音だけが響いていた。
急に明るくなった。樹木がない開けた場所に出た。そこで、ペンテが引くギンギツネ号が止まった。
「ああ、着きましたね。ここが今日の野営場所です」
いつの間にか起きていたらしいサクラさんが御者台に来ると、周りを確認してから、
「それじゃ、野営の準備をしちゃいましょう」
と、ギンギツネ号からぴょんと飛び降りた。
まず、ここまでギンギツネ号を引いてくれたペンテへのねぎらいをする。
牽引棒から解き放ち自由にする。そして、異次元収納箱に入っている食事と水を桶の中に入れて与えた。
ペンテはくちばしを使って落ち着いて食べ始めた。この落ち着きがこの森では大切だ。
次に野営の準備だ。野営と言っても、ここは大樹の森の4層なので、外にテントを張ったりはしない。寝るのはギンギツネ号の中になる。
食事も、異次元収納箱に魔法で凍らせた物が入っているので、それを魔法で解凍するだけだ。
ただ、私もサクラさんも魔法が使えないので、魔道具で解凍する。前の世界で使っていた電子レンジみたいなものだ。ただ、チーンとは鳴らないが。
後は、外にトイレを設置して、魔物除けの魔道具を四隅に置くだけだ。
今日の私の課題は、サクラさんが手際よく作業を進めていくのを見て覚えることだ。これからは私の仕事になるだろう。
食事は、解凍すれば直ぐに食べられる物が入っている。サンドイッチみたいなものだ。この食事事情も、段々と改善していけたらと考えている。
魔道ポットでお湯を沸かし、紅茶を入れる。これらの魔道具は、マイアコス王国製の物が多い。マイアコス王国は魔道具の技術が優れている。いつか行ってみたい国だ。
「サクラさん、明日には千年樹の森に着くんですよね」
「はい、今日かなり進むことができたので、入り口にはいけると思います」
「ギンギツネ号は歩行形態になるんですよね。初めて見るので楽しみです」
「ふふふ、明日のお楽しみですね。では、明日は日の出と共に出発しますので、今日は早く休みましょう。では、夜番の順番決めましょうか」
本当は、つくも(猫)の張った結界があれば何の心配もいらないが、これも今後の練習だ。
順番は、初めにサクラさんがつくも(猫)とやり、その後私が朝まで番をすることにした。サクラさんは次の日に御者台で運転することになるからだ。
日の出と共に、私たちは出発した。車輪で進めるのもあと少しらしい。その後は、ギンギツネ号は歩行形態になる。
2時間ほど進むと、5層が近づいてきた。4層と5層の間に明確な境はないが、生息する木の種類や魔素の濃さが段々と変わってくる。
ここからは脅威度CやBの魔物が出てくるので注意が必要だ。
千年樹の森の中に入ってしまえばもう魔物は出ない。不思議だがそうらしい。そこまでは気が抜けない。
「ここからは、ギンギツネ号を歩行形態にします。乗ったままでも大丈夫なんですが、変形の様子がみたければ、外に出ることになりますけどどうしますか」
「外で見ます」
と、即答し扉を開けて飛び降りた。つくも(猫)もついてきた。どうやら見たいらしい。
「ギンギツネ号、歩行形態になって」
サクラさんがギンギツネ号に向かってやさしく語りかけると、
左右後ろ車軸の車輪部分がそれぞれ6本の棒状に分かれ、その中の4本が突き刺さるように地面に接し車両を押し上げる。
それと同時に、車両の大きさも小さく変形し、前の車輪は本体の中に収納された。
まるで、ロボットが出てくるアニメを見ているようだった。
ギンギツネ号の中は2人乗りで丁度よい大きさになっていた。
本日17時に3回目の投稿をします。
予約投稿という便利な機能があるので試してみます。