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012 努力の成果と親愛(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 六話(2)


 案内人ギルドの食堂は、受験者で混雑しているだろうと思っていたが、そんなことはなく、いつも通りの食堂の姿だった。そして、食堂には、いるだろうなと思っていた面々がそろっていた。


「カナデさん。お疲れ様でした。筆記試験はどうでしたか。わたしは、たぶんよい点が取れていると思います」


 私を見つけたサクラさんが駆け寄ってくると、そう言って胸の前で両拳を握って2回ほど上下させた。自信がありそうだ。よかった。




 サクラさんにみんながいる席まで案内された。みんなも結果を期待しているようだ。


「おう、まあ、おまえのことだから心配はしてねえが、どんなだった。400問位は答えられたか」


 ラウネンさんが、聞いてきた。


「そうですね。私の手応えとしては、多分満点ですね」


「……満点? 500問ぜんぶ答えたの。ばかね、応用問題どうしたのよ。あっちの方が点数配分高いわよ」


 フェロンさんが、「やっちゃったわね」という表情でそう言った。


「まじかー。やっぱり一言いっておくべきだったかー」


 ラウネンさんが、頭を抱えながら天井を見た。


「応用問題も大丈夫です。全て答えましたから」


「…………?」




 全員が固まっている。え、何この雰囲気。おれ、何かおかしなこと言ったの?




 私が困っていると、カルミア様が真面目な顔で聞いてきた。


「確認するよ。本当に500問すべて解答して、応用問題も10問全て記述したんだね」


「はい、間違いないです。その上で、500問はすべて正解のはずです。誤字も5個あったので二重線で訂正しておきました。応用問題も、私が想定していた時間配分よりも30分余裕があったので、見直しもできました。A判定になるかは試験官の考え次第ですのでなんともいえませんが……」




 私が自信を持って状況を説明するのだが、聞いている方はポカンとしている。


「500問全部答えたの……私の時は389問であきらめたわ……」


 フェロンさんが、ブツブツ言っている。


「俺なんか、354問であきらめだぞ」


 ラウネンさんがテーブルに崩れ落ちた。


 その後、みんなの話しを聞くと、普通は、300問位でいったんやめて、応用問題を解いてから、やめと言われるまで残りの問題を解くのだそうだ。なら、初めからそう言ってよ。


 その後は、和やかな?昼食になった。いつもうるさい2人、フェロンとラウネンが静かだ……。


 1問15秒で答えるために身体強化を使ったと言ったら、


「その手があったか……」


と、すごくショックを受けていた。




「カナデさんが言っていた、使い慣れた万年筆ってその為だったんですね」


「はい、きっと、試験官も普通の方法で500問すべて解けるとは思っていないですよ。そんなことをしていたら、フェロンさんが言ったように、500問だけで時間が終わっていたでしょう……だから、リズムよく解けるようにの身体強化です」


「でも、それって不正にならないのかしら」


 サクラさんが心配して聞いてきた。


「ああ、それは大丈夫だよ。試験官は、身体強化をしてはいけないと一言も言っていないはずだからね」


 カルミア様が保障してくれた。


「はい、それに、始まる前に2人目の試験官が『どちらも身体強化の試験を兼ねています』とはっきり言っていました。つまり、午前と午後どちらも身体強化の試験をすると言ったんです。午後が、模擬戦闘なら、午前の身体強化を使った試験は……」


「筆記試験かぁー」


 フェロンさんとラウネンさんが同時に叫んだ。


「はい、筆記試験は、身体強化を使って解答をするが正解のはずです」


「まじかー……」


 うるさい2人が声を揃えて再度崩れ落ちた。




 2人とも脳筋だから、いままで細かいことは気にしなかったのだろう。今日の受験生の中にもきっとこのことに気がついた人がいるはずだ。


 それから、応用問題の商人の設問についても聞いてみた。


 みんなで検証した結果、やはり、C級スター冒険者が対象なら、私が考えたことがA判定だろうという結論になった。ならば、残りの9問も、A判定が期待できる。


「これ、歴代最高得点になるんじゃない……」


と、サクラさんと復活したうるさい2人がはしゃいでいる。疲れているから静かにして。







 午後の身体強化試験はやはりゴーレムとの模擬戦闘だった。1人、10分ずつ、ゴーレムと戦うだけだ。


 ただし、壊したり早く倒しすぎてもダメなようだ。これは、私にとっては難易度が高い。


 他の人が戦っている様子は見られない。なぜなら、後の人の方が有利になるからだ。戦闘経験が少ない私にとってはこれもかなり不利だ。


「それでは、本人確認をします。冒険者カードを手で持って、ここに置いてください」


 午前の筆記試験の前にも同じ事をしている。確かに身代わり受験は無理そうだ。


「9番のカナデさんですね。確認しました」


と、エレウレーシス連合王国の試験官が言うと、


「それでは、試験内容の説明をしますね」


と、カロスト王国の試験官が説明を始めた。


「これから、猪型魔物『まっすぐ』を想定したゴーレムと模擬戦闘をしてもらいます。

 注意することは、最初の8分間は、攻撃は控えて、とにかく逃げてください。この8分間で、もしゴーレムを壊してしまった時や活動停止にしてしまった時は減点になります」


 ん、減点。失格ではないんだ。


「動き出してから8分たつと、ゴーレムが1分間動かなくなります。そして、最後の1分で壊さないように『活動停止』にしてみてください」


 なるほど、確かに合わせて10分だ。


「何か質問はありますか」


 アルエパ公国の試験官が聞いてきた。


「最後の1分で活動停止にできなかった時は、どうすればいいのですか」


「その場から逃げてください。危険と判断されれば、こちらで停止させます。もちろん、減点になりますが……ああ、もう無理だと言う時も同じです。逃げてください」


 カロスト王国の試験官がそう答えた。


「それでは、後3分後にゴーレムが動き出します」


 なるほど、その3分で作戦を考えろということか。


 要するに、8分間で活動停止にできる何かヒントをさがせって事だな。うーん『まっすぐ』の弱点ってなんだっけかなー……。


 私が、過去問を思い出している時に、一匹のフクロウが下からじっとこちらを見ていることに気がついた。おや、いつの間に来たんだろう。


 少し気になったが、今はそれどころではない。ああ、そう言えば……と、あることを思い出したときに、突然ゴーレムが暴れ出し襲ってきた。


「おいおい、いきなり狂乱(きょうらん)状態かよっ」


 魔物は、どんなに大人しいやつでも、追い詰められれば狂乱状態になる。こうなると、脅威度が1ランク上がる。


 私は瞬時に神装力(しんそうりょく)第三権限貸与の身体強化を全身に掛けて、後ろに飛び下がる。


 そう言えば、あのフクロウは無事か。


 さっきフクロウがいた場所見ると、すでにいなかった。よかった、逃げられたようだ。


 さて、8分間でパターンを見つけるぞ。




 全身の身体強化に加えて視力の強化を強め、狂乱状態の『まっすぐ』の動きを追った。


 神様からもらったこの体は、記憶力がかなり優れている。なので、私は頭の中で、相手の動きを線で繋ぎながら追尾することができる。


 そして、その線が重なる時がある。それが、ゴーレムで言えばパターンであり魔物なら癖のようなものだ。


 線が重なった。やはりゴーレムだ。動きは限られている。


 後は、押さえ込むために、牙をつかむタイミングを作るだけだ……が、単純とは言え、1パターンに30秒かかる。


 猪型は顎が弱点でもある、そこにパンチをすれば動きが鈍るのだ。


 ただ、どのぐらい弱く打てば壊さないかの力加減が解らない。


 仕方ない、残り時間は3分ぐらいだ。1回すごーくすごーく弱いデコピンで試してみよう。それで壊れたらこの試験は減点だ。


「ここだっ」


 私は相手の顎をかするように超よわーいデコピンを打つ……『まっすぐ』がフラフラと体を揺らして動きが止まった。


 しまった。これでも強すぎたか。


 しかし、10秒ほどで復活してくれた。助かった。これで力加減は解ったので、後はひたすら逃げ回った。


 最後の1分間。デコピンで動きを止め、さらに牙をつかんで横倒しにして押さえ込む。これで『まっすぐ』は、活動停止になる。


 戦闘終了。


 課題クリアだ。







 これで、C級スター冒険者昇格試験は全て終わった。


 結果は、予定通りなら3日後に冒険者ギルドのホールに張り出されるはずだ。


 ただ、何か検討しなければいけない案件があったときは、発表が遅れるようだ。


 その知らせも3日後に同じ場所に掲示されるので確認しなければいけない。




 3ヶ月の受験生生活が終了した。私にできることは全てやったつもりだ。合格には自信がある。


 さて、今日はゆっくり眠るとしよう。







 冒険者ギルドの出口には、すでに自分の試験を終えたサクラさんが、つくもを抱いた状態で待っていた。


「カナデさん。お疲れ様でした。その様子だと、模擬戦闘も合格間違い無しですね」


「ええ、自信はありますよ。サクラさんも、その様子だと、自信ありですね」


「はい、全て、予想以上に順調にできました。きっと、カナデさんから貰ったこのペンのおかげですね」


と言って、大事そうに桜色の万年筆をポケットから取りだした。




 案内人ギルドの入り口では、カルミア様、ビオラ様、ラウネンさん、フェロンさんが待っていてくれた。


「カナデ君、お疲れ様でした。よく頑張ったね」


 カルミア様が優しく声を掛けてくれた。


「おう、すごいなおまえ」


 ラウネンさんが、褒めている。めずらしい。


「ほんと、憎らしいほど優秀だわ」


 フェロンさんが、あきれたようにつぶやいた。


「本当にありがとう。サクラのためにも頑張ってくれたんでしょう。もう、あなたは、私たちの大事な家族みたいなものよ」


 ビオラ様が優しく抱きしめてくれた。




 …………。


 なぜだか、涙が出てきた。




 この世界に転生し、家族と呼べるのはつくも(猫)だけだった。それが、3ヶ月で、私が守りたいと思える人たちができた。


 その時、彼らの頭上にコバルトブルーに輝く青玉が浮かび上がった。




(なあ、つくも。青玉だったのが今はコバルトブルーに輝いているけど、これなんだろう)


 つくも(猫)に念話で話しかけると、


(『親愛』だな。ただ、俺様にはまだよく分からない感情だな)


(……)


(どうしたのつくも(猫)黙り込んで)


(この感情と同じものを、おまえの日本の家族からも感じていたぞ)


(えっ、日本の家族……)




 忘れていた。


「何でおまえはそんなにあっさりしているんだ」


と、兄からも姉からも言われていた。


 子どもの頃から、周りの人間関係に関心が無かった。興味があることを調べて、追求して、何かが解るとおもしろくて……そんな毎日だった。


(父さん、母さん、兄さん、姉さん、ごめん。おれ、死んじゃったよ)


 きっと、悲しんでくれている。家族の愛情を今思い出した。


(つくも(猫)、ありがと、忘れていた感情を思い出したよ。あの時、神様に怒ってくれていたね。ぼくももっと怒らなきゃいけなかったんだね) 




 ビオラ様の腕の中で、ぼくは声を出して泣いてしまった。


 

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