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010 教官の仕事とサクラの買い物(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 五話(2)


 ナヴァルを親元に送り届けた後、冒険者ギルドに向かった。




「フェロンさん、戻りました。急ぎの素材は素材部に提出済みです。これが受取証です。確認してください。それから、新しい吹きだまりスポットの位置、地図に書きこんでおきました。品質はBランクって所ですね」


 受付にいるフェロンさんに用紙を手渡す。


「はい、両方確認できたわ。相変わらず仕事が丁寧で正確ね。それと、予定よりもずいぶん早いんじゃないの」


「ああ、1層でサクラさんに会って送ってもらいました。風の道で……」


「なるほど……速いわけだわ」


「よし、サクラちゃんもいるなら、今日はお姉さんがお昼をおごってあげるわ」


「やったー。いいんですか。うれしいです」


 魔鳥車(まちょうしゃ)を返してきたサクラさんがいつの間にか私の直ぐ後ろにいて、大喜びだ。







 お昼は、フェロンさんお勧めのお店に行くことにした。お肉とスープが美味しいお店だ。どうやら、つくもに気をつかってくれたようだ。


「マスター、3人と1匹ね」


「おう、フェロンさんいらっしゃい。今日は、サクラちゃんとねこちゃんもいっしょかい。うれしいねえ。こりゃ張り切らないとな」


 すみません。私もいるんですが……。


 つくも(猫)はすっかり町ねこ状態だ。町を歩いていると、いろいろなところで声をかけられる。住宅の玄関扉にもいつの間にか、ねこ専用の扉が備え付けられていた。




「サクラちゃん。試験勉強は順調なの」


 料理が運ばれてくるまでの時間にフェロンさんがサクラさんに話しかけた。


「はい、筆記の方は小さいときからコツコツ勉強してきましたから問題ないんですが、実技の……戦闘の方が心配です」


 サクラさんがつくもの頭をなでながらうつむき加減で答えた。


「えっ 試験に戦闘なんてあるんですか」


 私は思わず聞いてしまった。


「何言ってるの、冒険者の方だってあるでしょうが」


 あきれた表情でフェロンさんが私の頭をコツンと叩いてから、


「ああ、そうか……戦闘と言っても、冒険者みたいな身体強化しての殴り合いじゃないわよ。樹魔(じゅま)車両の武器を使った戦いよ」


 フェロンさんが、私の疑問点に思い当たったのか補足をしてくれた。




 そうなのだ。樹魔車両は、単なる運搬車両ではなく、5層から先では戦闘形態になって、後方支援をする役割を担うのだ。


「でも、C級は、5層より深いところには潜れなかったような気がするのですが……」


 私が、試験勉強で習ったことを思いだしながらつぶやくと、


「単独ではね。でも、B級やA級とチームを組めば潜れるのよ」


と、フェロンさんが教えてくれた。なるほど、危ない危ない、試験に出たら間違えるところだった。




「戦闘は、経験して強くなっていくしかないから、試験では基本動作ができるかどうかに重点を置くはずよ。瞬時の変形ができれば問題ないわ。ギンギツネ号ですもの。油断さえしなければもっと問題ないわ」


 大丈夫だけど、油断は禁物よ。と暗にアドバイスをしてくれる。ありがたい。




 やがて、料理が運ばれてきた。今日は、牛肉がメインの料理だった。


 牛や豚に似た動物は、1層の草原にたくさん生息している。これを狩ってくるのもD級冒険者からの仕事になる。


 つくも(猫)は最近、スープの他にいろいろな肉も食べられるようになったようだ。ねこと言えば魚のイメージだが、この町は川魚がメインだ。海は遠く、今の流通網では新鮮な魚が届くことはない。


 明らかに、ねこ専用と思われるお皿にのって料理が運ばれてきた。もしかして、つくも(猫)って、ここの常連さんなの……?




「カナデさんの勉強の進み具合はどうなんですか」


 食事を食べながら、サクラさんが心配そうに聞いてきた。


「それがねー。全く問題ないのよー。ほんとあきれるわ」


 私が答える前にフェロンさんが、ため息をつきながら答えてくれた。


「私の分担は、試験全般の広い教養なんだけどね。私が教えられる部分は、最初の1ヶ月で全て暗記してしまったのよ。だから、今は、町の図書館の資料で自習してもらっているわ。ねえ、すでに、B級の範囲も終わってるんじゃないの」


 フェロンさんが私に聞いてきた。


「はい、だいたい、読み終わりましたね。今は、この町の史跡について調べているところです。なかなか、おもしろいですよ」




 史跡は、前の世界のような神社が存在するのか調べている。いつか、調査に行って見いたいと思っている。


「ねっ、本当に優秀よ」


「うーん、私も負けていられません。がんばります」


 サクラさんのやる気スイッチが入ったようで、よかったです。


「ああ、そう言えば、伝えるの忘れていたわ。あのね、所長の夜の講義、しばらくお休みですって」




 ラウネン所長からは、貴族や王族、大商人との付き合い方を教わっている。といっても、「もう、俺に教えられることはない。後は自分で実践しろ」と言われてしまったが……。


「わかりました。これで少し夜がゆっくりできそうです」


 私が嬉しそうにつぶやくと、


「油断は禁物よ」


 フェロンさんの鋭い視線が飛んできた。







 お昼の後、フェロンさんと別れると、私はサクラさんと久しぶりに町に出た。


 前、町に来たのは、出会ってから3日目に身の回りの小物を購入する時だった。


 着替えはもちろんカバンもない状態だったので、ひとつひとつお店を教えてもらいながら、一通りの物を購入した。


 それからの日々は、冒険者ギルドの依頼をこなすのと、試験勉強でとても忙しかったので町に出る機会がなかった。







 今回は、町の様子をじっくりと観察しながら歩く余裕があった。


「おっ、サクラじゃねえか。久しぶりだな」


「あれ、ねこちゃんじゃないの。今日はいつもと違う時間のお散歩なの」


「おう、ジロー。スープ飲んでいくか」


 サクラさんと同じぐらいの頻度で、つくも(猫)に声がかかっていた。


 いや、つくも(猫)の方が微妙に多いか。ていうか、「ジロー」って誰。犬みたいな名前だけど……。どうやらつくもには、他にもたくさんの名前がありそうだ。


「ねこちゃん人気者ですね。でも、かわいいから当然です」


 サクラさんがなぜか嬉しそうだ。




 サクラさんは、小物を売っているお店に入った。しばらく店内を物色してから、筆記用具コーナーで立ち止まった。


 どうやら、試験会場で使う万年筆を選びたいらしい。


 しばらく考えていたが、突然、私に、


「どれが似合いそう」


と万年筆を数種類指さした。




 サクラさんに似合う万年筆……。ヒア汗が出た。前の世界を含めて、自分の美的センスは最悪なのがわかっている。


「うーん。そうですねー どれも似合いそうなんですがー」


と、無難な事をつぶやきながら頭の中は真っ白だった。


その時、


「ニャッ」


と鳴いて、つくもが、桜色の本体に黒いねこの足跡が付いている万年筆を前足でタッチした。


 サクラさんもそれを見て、


「うっわー。ねこちゃんの足跡ね。かわいいー」


と頬を緩めている。


 これだ!


 すかさず、私はその万年筆をプレゼントすることにした。


「つくも(猫)が選んだのなら、間違いないです。それ、私にプレゼントさせてください」


 思い切って言ってみた。これで正解のはずだ。




 突然そんなことを言われたサクラさんはオロオロして、


「そんな、自分で買うから大丈夫よ……でも、ありがとう……」


と言って、どうしたらいいのかわからない様子だった。


 ここで成り行きを見守っていた店員が動いた、


「ここは彼の好意を受ける所よ」


とホローしてくれたのだ。


 サクラさんも、断るのはダメだとはっと気がついて、恥ずかしそうにうなずいた。




 店員がきれいな袋に万年筆を入れて私に手渡した。それを、サクラさんに差し出すと、恥ずかしそうに受け取ってくれた。


 ありがとう、つくも(猫)と店員さん。感謝です。


 私のも購入したいとサクラさんが提案したが、私は、やっと力加減が調節できるようになった筆記用具を使っているので、今、新しい物に替えるのは都合が悪い。


 その事を正直に伝えると、「なるほど」と素直に受け入れてくれた。ただ、店員さんだけが「またのご利用を……」と残念そうだった。


 その後も、サクラさんが行きたい場所に付き合ってゆっくりと買い物を楽しむことができた。サクラさんにとって、いい気分転換になったようだ。


 サクラさんは『C級案内人』への昇級試験、私は『C級スター冒険者』への昇級試験の日まで、後7日後に迫っていた。



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