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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
6/20

第6話 広告宣伝という名の情報戦

 翌朝、私は念入りに取材準備を行った。


「今回の取材は絶好のチャンス」


 一人でぶつぶつと戦略を練る。


「学園の良い面だけを強調して、悪い部分は隠蔽。さらに、ライバル校の弱点をそれとなく匂わせて……」


 これぞ情報操作の真骨頂。

 前世で散々ブラック企業の広報を見てきたから、やり方は分かってる。


「まず、設備の素晴らしさをアピール。新しい実習室の写真を撮らせて、『最先端の教育環境』をアピール」


 鏡の前で表情を確認。

 理事長らしい威厳ある表情と、親しみやすい笑顔の使い分けを練習する。


「次に、優秀な教師陣を強調。グリム先生にも取材を受けてもらって、『20年の経験と実績』を語ってもらう」


 グリム先生なら、きっと良いことを言ってくれるでしょう。


「そして最後に、『少人数制で一人一人に寄り添う教育』をアピール」


 完璧。

 これで入学希望者が殺到するはず。

 ライバル校を蹴落として、一気に地域一番の学園になってやるわ。


 そこにノックの音。


「理事長、記者の方がお見えです」

「分かりました。すぐ行きます」


 いよいよ情報戦の開始よ。

 今度こそ、悪徳理事長としての手腕を見せてやる!


「アルカナ日報の田中と申します」


 現れたのは30代くらいの女性記者。

 メモとペンを片手に、興味深そうに学園を見回している。

 丁寧だけど鋭い視線で、この人は手強そうね。


「この度は取材の機会をいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ。最近、御学園の評判をよく耳にしまして」


 評判?

 もうそんなに広がっているの?


「どのような評判でしょうか?」

「奨学金制度の件や、設備改修の件など。教育関係者の間で話題になっています」


 ほう。

 これは使える。

 話題性があるということは、記事としても面白いということ。


「ええ、当学園では常に教育の質向上に努めております」


 私は準備していた「良い面」を強調し始めた。


「特に、少人数制による個別指導には自信があります。大規模校では不可能な、一人一人に寄り添う教育を実践しています」


 これは事実だけど、「少人数制」の理由は単純に生徒数が少ないからよね……。

 でも、言い方次第で「贅沢な教育環境」に聞こえる。


「興味深いですね。具体的な成果はありますか?」

「ええ、例えば先日の魔法検定試験では、全学年平均で前年比20%の成績向上を達成しました」


 これも事実。

 でも、理由は単純に教師の待遇改善で教育の質が上がったから。

 でも、それは言わない。


「20%も? それは素晴らしい数字ですね」


 記者が興味深そうにメモを取る。


「当学園の教育方針の成果だと考えております」


 計画通りよ。

 この調子で学園の魅力をアピールして……。


「では、校内をご案内しましょう」


 私は記者を新しい実習室に案内した。


「こちらが最新の魔法実習室です」

「素晴らしい設備ですね」


 記者が感心して写真を撮っている。


「安全性を最優先に設計しました。事故ゼロの実現が我々の目標です」


 これは本当。

 でも、言い方次第で「最先端技術を惜しみなく投入した豪華設備」に聞こえる。


「こちらは図書館です。古い書物から最新の研究書まで、幅広く取り揃えています」


 アルフレッド館長が誇らしげに案内してくれる。


「特に、魔法史の蔵書については王国でも有数のコレクションです」

「本当ですか?」

「ええ、創立時からの貴重な資料も多数……」


 アルフレッド館長が熱心に説明している。

 その表情は純粋に学園を愛している老学者そのもの。


 あれ?

 これ、情報操作のつもりが、普通に学園の魅力紹介になってない?


「生徒さんにもお話を伺えますか?」

「もちろんです」


 私はソフィアとハンスを呼んだ。

 事前に「良いことを言うように」指示しておいたつもりだったけど……。


「この学園に入って、どうですか?」


 記者がソフィアに質問する。


「はい、本当に良かったです」

「どんなところが?」

「先生方が親身になって指導してくださって……特に、奨学金制度のおかげで勉強に集中できます」


 ソフィアが涙ぐんでいる。


「以前は、学費のことばかり心配していて、勉強に身が入らなかったんです。でも、理事長先生が新しい制度を作ってくださって……」

「そうなんですね」

「はい。本当に感謝しています。この学園で学べて、私は幸せです」


 あ、あれ?

 これ、私が指示した内容と違う……。

 私は「学園の素晴らしさをアピール」するよう言ったつもりだったけど、ソフィアは自分の心からの感謝を語っている。


 次にハンスの番。


「僕は実技が得意なんですが、理論が苦手で……でも、新しい実習室ができて、実践的に学べるようになりました」

「具体的には?」

「魔法陣の仕組みを実際に見ながら学べるので、理論も理解しやすくなったんです。それに、少人数だから先生が一人一人を丁寧に見てくださって」


 ハンスも自然で説得力がある。


「以前は『僕には向いてない』って思っていたんですが、今は魔法工学の道に進みたいって思えるようになりました」


 記者も感動した様子で、熱心にメモを取っている。


 これは……私が演出したかった内容より、ずっと説得力があるわね。


「教職員の方にもお話を伺えますか?」


 記者がレオンに質問する。


「はい。私はこの学園で5年間教務主任を務めております」

「最近の変化についてはいかがですか?」

「正直に申し上げて、劇的に変わりました」


 レオンが真剣な表情で答える。


「理事長が就任されてから、教育環境、待遇、そして何より学園全体の雰囲気が……」

「具体的には?」

「例えば、研修制度の充実により、私たち教師のスキルアップが図れています。それが直接、生徒への指導に活かされています」


 レオンの言葉には実感がこもっている。


「それに、一人一人の生徒と向き合える時間が増えました。これが本当の教育だと思います」


 なんか、すごく自然で説得力がある……。


 記者が最後に私に質問した。


「理事長として、今後の展望をお聞かせください」

「はい……」


 私は準備していた「立派な教育理念」を語ろうとした。

 でも、なぜか違う言葉が出てきた。


「一人一人の生徒が、自分らしく成長できる学園にしたいんです」


 あれ?

 これ、私が本当に思っていることかも……。


「大規模校では不可能な、個別の指導。困っている生徒を見捨てない支援。そして、教師が生き生きと教育に専念できる環境」


 言葉が自然に出てくる。


「利益や効率も大切ですが、それ以上に大切なのは、生徒たちの成長です」


 え?

 私、利益優先じゃなかったの?


 取材の最後、記者が感想を述べた。


「正直、驚きました」

「え?」

「最近の私立学園は、どこも表面的な華やかさばかりをアピールするんです。でも、こちらの学園は違いますね」


 どう違うの?


「生徒さんも先生方も、本当に学園を愛しているのが伝わってきます。それに、理事長先生の教育に対する考え方も……」

「私の……考え方?」

「はい。利益追求ではなく、本当に生徒のことを考えていらっしゃる」


 え?

 利益追求じゃない?

 でも私は悪徳理事長のつもりなんだけど……。


「特に印象的だったのは、『一人一人の生徒が自分らしく成長できる学園』という言葉です」

「あ、はい……」

「大規模校では絶対に真似できない、小規模校ならではの強みですね」


 そう言われてみれば...確かにそうかも。


「記事は来週の金曜日に掲載予定です。きっと多くの方に興味を持っていただけると思います」


 記者が帰った後、私は呆然と立ち尽くしていた。

 情報操作のつもりが、なんで真実の魅力を伝える取材になってしまったの?


 でも、記者の反応を見る限り、きっと良い記事になる。

 それは学園にとって良いことだけど……。



 夜、私は一人で理事長室にいた。


「また失敗した……」


 情報操作で入学者を騙すつもりが、学園の本当の魅力を正直に伝える取材になってしまった。


「でも、記者の反応を見る限り、きっと良い記事になる」


 それは学園にとって良いことだけど、私の悪徳理事長計画はまた失敗。


「なんで私の搾取計画は、いつも社会貢献になってしまうのよ」


 そういえば、取材の最後に私が言った言葉……。


「一人一人の生徒が、自分らしく成長できる学園にしたい」


 あれって、私の本心だったのかしら?


 でも、私は悪徳理事長になるはずだったのに……。


 そこにマリアがやってきた。


「理事長、お疲れ様です。明日、近隣の学園の動きについて報告があるそうです」


 近隣学園の動き?


「何でも、学費の値下げ競争を仕掛けてくるらしくて……」


 学費の値下げ?

 それは価格競争ね。

 今度こそ、商売の基本である価格戦略で勝負よ。きっと上手くいくはず……。


 でも、今日の取材で感じた「学園への愛着」って何だったのかしら?

 私、本当は何がしたいのよ?

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