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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
2/9

第2話 悪徳理事長の経営方針

 翌朝、学園の会議室には教職員全員が集まっていた。

 といっても、この学園の教職員は全部で15名。

 本当に小さな学園なのね。


 みんなの表情が暗い。

 昨日の私の宣言が伝わっているのかしら。

 まあ、「効率重視、利益最優先」なんて言ったら、そりゃあ不安になるわよね。


 でも、これから私がやることを知ったら、もっと困惑するでしょうね。


「新理事長、はじめまして、教務主任のレオン・ベルクマンです」


 立ち上がって挨拶したのは、28歳くらいの男性。真面目そうな顔立ちで、きちんと整えられた髪、規則正しい生活を送っていそうな雰囲気。風魔法の使い手で、攻撃魔法が専門だとか。


「総務部長のマリア・シュナイダーは、昨日ご挨拶いたしましたが……」

「図書館長のアルフレッド・ノイマンです。60年この学園に勤めております」


 60年?

 この人、まさに学園の生き字引ね。

 光魔法で記録や保存を得意とする学者肌の老紳士。話を聞いてみたいけど、今は会議に集中しましょう。


 他にも各科目の教師たちが並んでいるけど、みんな不安そうな顔をしている。

 そりゃそうよね。経営難の学園で、新理事長が「効率重視」なんて言い出したら、真っ先に思い浮かぶのはリストラでしょうし。


 でも安心して。私はもっと巧妙にやるのよ。


「皆さん、新しく理事長となったエリザベート・フォン・アルトハイムよ」

 

 私は立ち上がって挨拶した。


「これまでこの学園は甘すぎました」


 私は会議室を見回した。


「無駄な残業、非効率な業務、そして何より、成果に見合わない待遇。これらを全て見直します」


 レオンが困ったような顔をしている。マリアは眉をひそめている。


「まず、残業について。これからは定時退社を徹底します」

「え?」


 思わず声を上げたのは若手の教師。

 

 あれ?

 なんで驚いているの?


「無駄な残業は生産性を下げるだけです。必要な業務は勤務時間内に終わらせ、どうしても無理な場合は業務量自体を見直します」


 これは前世の経験から学んだこと。長時間労働は百害あって一利なし。効率的に働いてもらった方が、結果的に私の利益にもなる。

 人件費を削るには、残業代をカットするのが一番よ。

 定時で帰らせれば、その分給料も浮くし。


「次に、成果主義の導入です」

「せ、成果主義……」

「ただし、個人の競争ではありません。チーム全体の成果を評価し、それに応じて待遇を改善します」


 みんなの顔が、困惑から期待に変わっていく。

 あれ?

 これじゃあ、普通に良い改革じゃない?


 でも大丈夫。チーム評価にすることで、個人の責任を曖昧にして、結果的に誰も大した昇給をしなくて済むのよ。


「業務の効率化も進めます。無駄な会議、重複する報告書、形式的な手続き。これらを全て見直して、本当に必要な業務だけに集中してもらいます」


 これで浮いた時間を、もっと収益に直結する活動に使わせるの。

 一石二鳥ね。


「質問はありますか?」


 しばらく沈黙があった後、レオンが手を挙げた。


「理事長、その……具体的にはどのような業務を削減されるおつもりでしょうか?」

「良い質問ですね。例えば、毎週行っている教務会議。これを月2回に減らします」

「えっ? でも、情報共有が……」

「必要な情報は、魔法掲示板で共有すれば十分です。会議は本当に議論が必要な事項に絞りましょう」


 実際のところ、無駄な会議ほど時間の浪費はないわよね。前世でも散々経験したわ。


「それから、各種報告書のフォーマットも簡素化します。レポート用紙1枚に収まるよう、要点だけを記載してください」


 これで事務作業時間を大幅に短縮できる。その分、教師たちにはもっと直接的に収益に繋がる業務をやってもらうの。



 会議後、レオンが私のところにやってきた。


「理事長、お話があります」

「何でしょう?」

「その……今日の方針なのですが……」

「気に入らないですか?」

「いえ、その逆です。正直、驚いています」


 レオンは少し照れたような表情を見せた。


「これまでの理事長は……失礼ながら、あまり現場のことを理解されていませんでした。でも、今日の話は……」

「現場の実情を分かっている、と?」

「はい。まるで、長年教育現場にいた方のような……」


 そりゃそうよ。前世では散々教育現場で苦労したんだから。


「私なりに勉強したんです」

「そうでしたか……これなら、学園の立て直しも夢じゃないかもしれません」


 レオンの目に希望の光が宿る。


 あれ?

 なんか、良い人を騙しているみたいで罪悪感が……。


 でも大丈夫よ。これは全て私の利益のための計算よ。



 翌日から、私の「悪徳」改革が始まった。

 定時退社の徹底。これは、教職員の労働力をギリギリまで削って人件費を浮かせるつもりだった。

 でも……。


「理事長、本当に6時に帰っていいんですか?」

「ええ、もちろんです」

「家族と夕飯を一緒に食べるなんて、何年ぶりかしら……」


 マリアが涙ぐんでいる。

 あれ?

 これって搾取じゃなくて……。


 業務効率化も同じ。

 無駄な会議を削減し、報告書を簡素化し、本当に必要な業務だけに集中してもらう。

 これで人件費を抑えつつ、成果は向上するはず――。


「これまでの業務の半分は、本当に無駄だったんですね」

「時間に余裕ができて、生徒一人一人ともっと向き合えます」


 なんで?

 なんでみんな嬉しそうなの?


 私は悪徳理事長になろうとしているのに、なんでワークライフバランスの向上になっているの?


「理事長、本日はお疲れ様でした」


 レオンが嬉しそうに挨拶していく。


「明日から、もっと生徒たちのために頑張れそうです」


 違う!

 私はあなたたちを搾取しようとしているのよ!



 夜、私は理事長室に残っていた。


「おかしい……私は搾取しようとしているのに、なんで職場環境が改善されているの?」


 でも、確かに効果は出ている。

 教職員の表情が明るくなり、業務効率は上がっている。

 これなら学園の立て直しも……。


「ちょっと待って。これじゃあ、普通に良い理事長じゃない」


 私は悪徳理事長になるはずだったのに。


「次はもっと露骨に搾取してやる。今度こそ、本当の悪徳経営者になってやるんだから!」


 そんな私のところに、マリアがコーヒーを持ってきた。


「理事長、お疲れ様です。明日、隣国の名門校から視察のお申し込みが……」


 えっ、もう?

 私の改革、まだ始まったばかりなのに、もう他校が注目しているの?

 これは……思っていたより話が大きくなりそうね……。

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