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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
16/20

第16話 学園祭という集客イベント

「年に一度の学園祭の季節ですね」


 レオンが年間行事予定表を持って理事長室にやってきた。


「去年はどのような内容だったんですか?」

「こじんまりとした内輪のお祭りでした。来場者は保護者と卒業生だけで、50名程度」


 50名?

 それは少なすぎる。

 これは絶好のビジネスチャンスかも?


「今年は大々的にやりましょう」


 私は前世で見た学園祭の実態を思い出していた。

 入場料徴収、模擬店の上納金システム、記念品の高額販売、寄付金の巧妙な要求……完璧な集金イベント。


「具体的にはどのような?」

「まず、大規模集客です。近隣住民、他校の生徒、教育関係者を大量に呼び込みます」

「それは良いアイデアですが……」

「入場料は大人500ガルド、子供300ガルド。特別展示の見学は追加で300ガルド」


 レオンが困った表情。


「入場料? これまで無料でしたが……」

「無料だから価値が感じられないんです。適正な価格設定で『特別なイベント』感を演出します」


 完璧な商業化戦略。

 前世で見たテーマパークの手法を学園祭に応用するの。


「それに、記念品販売ブース、軽食販売、写真撮影サービスも設置します」

「随分本格的ですね」

「はい。来場者一人当たり平均1500ガルドの消費を見込んでいます」


 1000人来場すれば150万ガルドの売上。

 経費を差し引いても100万ガルドの利益は確保できる。


「でも、学園祭の本来の目的は……」

「もちろん教育も大切です。でも、運営資金がなければ何もできませんから」


 レオンが納得しかけた時、ソフィアがノックした。


「理事長先生、学園祭の件でご相談があります」


 また生徒会の提案?

 今度は何を言い出すのかしら?


「私たち生徒会でも、学園祭の企画を考えてみました」


 ソフィアが企画書を差し出す。

 またしても私の計画を妨害する気?


「どのような内容ですか?」

「地域の皆さんと一緒に作り上げる、みんなで楽しめる文化祭です」


 地域連携……それは集客には良いかも?


「具体的には?」

「地元の職人さんたちに技術展示をしていただいて、農家さんには新鮮な野菜の販売をしていただく」


 なるほど、多様な出店で集客力アップ。


「それに、生徒の学習発表も、実際に体験できる形にしたいんです」

「体験型?」

「はい。魔法の実演だけでなく、来場者の方にも簡単な魔法を体験していただく」


 体験型は確かに付加価値が高い。

 追加料金を取れる。


「入場料や体験料の設定は?」

「入場料は無料にします」


 無料?

 それじゃあ利益が出ない。


「なぜ無料なんですか?」

「地域の皆さんに学園を知ってもらいたいんです。お金を払って来てもらうより、気軽に遊びに来てもらいたくて」


 気軽に……。

 でもそれじゃあビジネスにならない。


「でも、運営費が……」

「地域の方々が協力してくださるので、費用はそれほどかかりません」


 また善意頼み?


「それに、手作りの温かいお祭りの方が、きっと印象に残ると思います」


 ソフィアの純粋な笑顔。

 ああ、私の集客ビジネスプランが台無し。

 どちらを選ぶべきかしら……?



 翌日、教職員と生徒会代表を集めた検討会議を開いた。


「理事長案と生徒会案、どちらが良いか議論しましょう」


 私は両方の企画書を配布した。


「理事長案:大規模商業イベント『アルトハイム魔法学園フェスティバル』」

「生徒会案:地域密着型文化祭『みんなの学園祭』」


 名前からして方向性が全く違う。


「まず、理事長案の説明をします」


 私は準備したプレゼンを開始した。


「目標来場者数1000名、売上目標150万ガルド。近隣地域への大々的な宣伝で集客を図ります」

「宣伝費用は?」


 マリアが実務的な質問。


「50万ガルドを予定しています。新聞広告、チラシ配布、魔法放送での宣伝など」

「それは大きな投資ですね」

「投資です。成功すれば100万ガルドの利益が確保できます」


 数字だけ見れば魅力的。


「一方、生徒会案はどうでしょうか?」


 ソフィアが立ち上がる。


「私たちの案は、利益よりも交流を重視しています」

「具体的には?」

「地元の職人さん15組、農家さん10組に参加していただき、それぞれの技術や商品を紹介してもらいます」

「生徒の発表は『学習成果の体験コーナー』として、来場者の方に実際に魔法を体験していただきます」


 体験型は確かに魅力的。

 でも、収益性が……。


「費用はどの程度かかりますか?」

「約20万ガルドです。装飾費、設備費、軽食材料費など」

「20万ガルド? それで運営できるんですか?」


 私が驚いていると、ハンスが説明してくれた。


「地域の皆さんが協力してくださるんです。テントは建設業の方が無料で貸してくださいますし、装飾も花屋さんが格安で」


 また善意価格……。


「音響設備は?」

「学園の設備で十分です。それに、地元のバンドの方が演奏も引き受けてくださって」


 どんどん費用が削減されていく。


「でも、それじゃあ学園の収益が……」


 私が言いかけた時、アルフレッド館長が発言した。


「理事長、学園祭の本来の意義を考えてみませんか?」

「本来の意義?」

「はい。学園祭は生徒の学習成果を発表し、地域社会との絆を深める場です」


 理想論……。

 でも、現実的には資金が必要。


「確かにそうですが、運営資金も重要です」

「もちろんです。でも、お金以外の価値もあるのでは?」


 お金以外の価値……。



 生徒会案について詳しく知るため、実際に協力を申し出てくれた地域の方々と会うことにした。


「学園祭への協力、ありがとうございます」


 集まってくれたのは10名ほど。

 ハンスの父ローターさん、農家の ヴィルヘルムさん、他にも様々な職業の方々。


「こちらこそ、良い機会をいただいて」


 花屋のインゲさんが答える。


「なぜ協力してくださるんですか?」

「息子がお世話になっているからです」


 パン屋のカールさんが続ける。


「それに、最近の学園の変化を見ていて、ぜひ応援したいと思ったんです」

「変化?」

「はい。生徒さんたちが地域に関心を持ってくれるようになって」


 校外学習や食堂改革の効果が出ている。


「うちの工房にも見学に来てくれました」


 別の職人さんが笑顔で言う。


「若い人たちが伝統技術に興味を持ってくれて、とても嬉しかったです」

「それで、学園祭でも技術を紹介させてもらえればと」


 みんなの表情が生き生きしている。


「費用の件ですが……」

「お気遣いなく」


 ヴィルヘルムさんが手を振る。


「私たちにとっても宣伝になりますし、何より楽しそうですから」


 楽しそう……。

 確かに、みんな本当に楽しみにしている様子。


「でも、学園側のメリットが少ないのでは?」

「そんなことありません」


 ローターさんが真剣な表情で言った。


「学園と地域の関係が深まれば、長期的には大きなメリットがあります」

「長期的な?」

「はい。地域に愛される学園になれば、入学希望者も増えるでしょうし、卒業生も地元で活躍してくれるかもしれません」


 長期的視点……。

 確かにそれは一理ある。

 短期的な利益より、長期的な関係構築の方が価値があるかもしれない。

 


 地域の方々との会合から戻って、私は深く考え込んでいた。


「どちらを選ぶべきかしら?」


 理事長案:短期的な高収益、でも一過性の関係

 生徒会案:長期的な関係構築、でも即座の収益は期待できない


 そこにマリアがやってきた。


「理事長、決められましたか?」

「まだです……どちらにもメリットがあって」

「私の意見を言ってもよろしいですか?」

「もちろんです」


 マリアが珍しく積極的。


「私は生徒会案が良いと思います」

「なぜですか?」

「先ほどの地域の方々の表情を見ていて……本当に学園を応援してくださっているのが分かりました」


 確かに、あの笑顔は作り物じゃない。


「それに、長期的には理事長案よりも価値があると思います」

「価値?」

「はい。地域に愛される学園になれば、何か困った時にも助けてもらえます」


 困った時の助け……それは確かに重要。


「分かりました。生徒会案で行きましょう」


 え?

 私、なんでそんなことを言っているの?


「本当ですか?」

「はい。ただし、成功させる責任は重いですよ」


 マリアが嬉しそうに微笑む。

 また、収益機会を放棄してしまった……。

 でも、なんか悪い気はしない。



 学園祭当日。朝から多くの人が学園に集まってきた。


「すごい人数ね...」


 予想以上の来場者。

 見渡す限り、家族連れ、若いカップル、年配の方々……多様な年齢層の人々が楽しそうに歩き回っている。


「理事長、来場者数をお知らせします」


 レオンが興奮して報告にやってきた。


「現在の時点で800名を超えています」

「800名?」


 私が企画した商業イベントの目標が1000名だったから、それに近い数字。


「でも、無料だったのに、なんでこんなに?」

「口コミで広がったようです。『温かくて楽しい学園祭』だと」


 口コミの威力。


「各ブースの様子はどうですか?」

「どこも大盛況です」


 実際に歩いて見て回ると、確かにどのブースも人だかり。

 職人技術展示ブースでは、実際に木工や金属加工の実演が行われ、子供から大人まで食い入るように見ている。


「すごい技術ですね」

「どうやって魔法と技術を組み合わせているんですか?」


 来場者からの質問が飛び交っている。


 農産物販売ブースでは、新鮮な野菜が飛ぶように売れている。


「この野菜、学園の食堂でも使われているんですよね?」

「はい。だから安心して食べられます」


 学園への信頼が野菜の売上にも繋がっている。


 生徒の学習発表ブースでは、魔法体験コーナーが大人気。


「わあ、光った!」

「僕にも魔法ができた!」


 子供たちの歓声が上がる。


「先生、この学園に入学するにはどうすればいいんですか?」


 保護者からの具体的な問い合わせも多数。


「あの、パンフレットをいただけますか?」

「入学説明会の日程を教えてください」


 これは……完全に入学者獲得に繋がっている。

 商業化せずに、結果的に最高の宣伝効果を得ている。


「ソフィア、大成功ね」


 生徒会長として奔走するソフィアに声をかけた。


「ありがとうございます。でも、これは地域の皆さんのおかげです」

「そうね……みんなの協力があってこそ」


 私は複雑な気持ちだった。

 確かに直接的な収益は得られなかった。

 でも、これだけの宣伝効果、地域との関係構築、そして……。


「理事長先生!」


 小さな男の子が駆け寄ってきた。


「僕、この学園に入りたいです!」


 純粋な憧れの眼差し。

 これって、お金では買えない価値よね。



 夕方、学園祭が終了した。


「お疲れ様でした」


 片付けを手伝ってくれた地域の方々に挨拶して回る。


「こちらこそ、楽しい一日でした」

「また来年もぜひ参加させてください」


 みんな本当に楽しんでくれたようで。


「最終報告です」


 マリアが駆け寄ってきた。


「来場者数1200名、入学問い合わせ45件、パンフレット配布300部」

「1200名……」


 私の商業イベント案を上回る集客数。


「収支は?」

「支出20万ガルド、収入……」


 収入?

 無料イベントのはずだけど。


「地域の方々の売上の一部を『会場使用料』として寄付していただきました。15万ガルドです」

「寄付?」

「それに、来場者の方からも『素晴らしいイベントだった』と寄付が……5万ガルドほど」


 実質的に収支トントン。


「また集金に失敗しました...」


 でも、今回は全然悔しくない。


「でも、得られたものは……」


 地域との絆、学園への信頼、入学希望者の獲得、そして何より、みんなの笑顔。


「お金以外の価値って、本当にあるのね」


 そこにレオンがやってきた。


「理事長、教育大臣から連絡があります」

「教育大臣?」

「学園祭の評判を聞いて、視察したいとのことです」


 教育大臣の視察……これは大きなチャンス?

 今度こそ、権力者との関係を構築して……。

 いえ、きっとまた予想外の展開になるのでしょうね。


 でも、それも悪くない気がしている。

 計算通りにいかない方が、人生は面白いのかもしれない。

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