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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
15/17

第15話 食堂経営という利益追求

「食堂の経営状況を報告します」


 翌朝、マリアが食堂の収支報告書を持ってきた。


「現状はどうですか?」

「率直に言うと、赤字です」

「赤字?」


 これは予想外。

 食堂といえば、普通は学校の収益源のはず。


「原因は何でしょうか?」

「メニューが単調で、生徒の利用率が低いんです。弁当持参の生徒が約6割を占めています」


 6割が弁当持参……。

 それは深刻。


「メニューはどのような内容ですか?」

「基本的なパンとスープ、それに簡単な主菜が数種類です」


 資料を見ると、確かに魅力に欠ける内容。

 茶色っぽい料理ばかりで、見た目も地味。


「これは抜本的な改革が必要ですね」


 私は前世で見た学食ビジネスの実態を思い出していた。

 安い食材を使って高く売る、添加物たっぷりの加工食品、量を減らして利益率を上げる……。

 完璧な搾取システム。


「新しい食堂戦略を立てましょう」

「どのような?」

「まず、メニューの高級化です」


 私は計画を説明し始めた。


「『プレミアム学食』として、一般的な学食より高価格帯に設定します」

「高価格……」

「はい。一食500ガルドから800ガルドの価格帯で」


 マリアが困った表情。


「でも、それだと生徒の負担が……」

「大丈夫です。『特別感』を演出すれば、多少高くても払ってもらえます」


 完璧な戦略。

 見た目を豪華にして、価格に見合う価値があるように見せかける。

 前世のブラック外食チェーンで見た手法よ。


「具体的には?」

「まず、食器を高級なものに変更。次に、メニュー名を洒落たものに。『本日のスペシャルランチ』『シェフおすすめコース』『プレミアム定食』など」


 表面的な演出で価格を正当化する作戦。


「でも、食材費が……」

「安い食材を巧妙に調理すれば問題ありません。見た目が良ければ、味は二の次です」


 完璧な利益追求システム。

 これで食堂から確実に収益を上げられる。


 その時、またソフィアがやってきた。


「理事長先生、食堂改革の件で提案があります」

「また提案?」


 最近、生徒会の提案が私の計画を妨害する傾向が……。


「どのような内容ですか?」

「地元農家さんとの直接取引による、新鮮で安全な食材の確保です」


 地元農家との取引?

 それは中間マージンが削減できて良いかも。


「興味深いですね。続けてください」

「校外学習で訪れた魔法農場の田中さんが、『学園に新鮮な野菜を供給したい』と言ってくださったんです」

「価格はどの程度ですか?」


 ここが重要。


「市場価格の8割程度で提供してくださるそうです」

「8割? なぜそんなに安く?」

「『教育のためなら』ということと、『安定した取引先が欲しい』からだそうです」


 また善意価格……。

 でも、これは利用価値がある。


「それで、どのようなメニューを考えているんですか?」

「季節の野菜をたっぷり使った、栄養バランスの良い食事です」

「価格設定は?」

「一食300ガルドを予定しています」


 300ガルド?

 私が企画した800ガルドの半分以下。


「それじゃあ利益が……」

「でも、利用者が増えれば、薄利多売で利益は出ると思います」


 薄利多売……。

 確かに数学的には正しいけれど、私の高利益率計画が台無し。


 でも、生徒たちの健康を考えると……。

 あ、また良心が邪魔をしている。



 翌日、私は実際に魔法農場を訪れることにした。


「お忙しい中、ありがとうございます」


 案内してくれたのは、校外学習でお世話になった農家の田中さん。


「こちらこそ。学園との取引、ぜひ実現させたいんです」

「理由をお聞かせください」

「実は、最近大型店舗との取引が減ってしまって...安定した取引先を探していました」


 なるほど、Win-Winの関係になりそう。


「それに、若い人たちに新鮮な野菜を食べてもらいたいという思いもあります」


 また純粋な動機。


「どのような野菜を提供できますか?」

「季節野菜なら何でも。特に、魔法で育てた野菜は栄養価が高くて美味しいんです」


 田中さんが案内してくれた畑を見ると、確かに立派な野菜が育っている。

 みずみずしい葉物野菜、色鮮やかなトマト、形の良いニンジン……。


「この野菜の市場価格はどの程度ですか?」

「一般的な野菜の1.5倍くらいでしょうか。魔法野菜はちょっと高めなんです」


 1.5倍でも、直接取引なら中間マージンがカットできる。


「でも、学園になら特別価格で提供します」

「特別価格?」

「はい。将来の顧客育成への投資だと思っています」


 将来への投資……。

 それは長期的な視点ね。


「分かりました。前向きに検討させていただきます」



 帰り道、私は計算していた。

 確かに地元野菜は新鮮で安全。

 価格も悪くない。

 でも、私の高利益率プランは諦めることになる……。



 一週間後、両方のアプローチを試験的に実施することにした。


「月曜日から水曜日は『プレミアムコース』、木曜日から金曜日は『地産地消コース』で試してみましょう」


 私は食堂スタッフに説明した。


「プレミアムコースは800ガルド、地産地消コースは300ガルドです」

「随分価格差がありますね」

「はい。どちらが人気か、生徒の反応を見てみたいんです」



 初日、プレミアムコースを提供した。

 確かに見た目は豪華。

 高級食器に盛り付けられた料理は、写真映えしそう。

 金縁の皿に、色とりどりの料理が美しく配置されている。


 でも、利用者は……。


「今日の食堂利用者は12名でした」


 少ない。

 全校生徒120名中、たったの12名。


「理由は何でしょうか?」

「価格が高すぎる、という声が多数ありました」


 やっぱり。


「味はどうでしたか?」

「『見た目は良いけど、量が少ない』『味は普通』『お腹いっぱいにならない』という感想でした」


 厳しい評価。

 見た目を重視しすぎて、実質的な満足度が低い。



 翌日も似たような結果。

 プレミアムコースの利用者は増えるどころか、さらに減って8名になった。



 そして木曜日、地産地消コースの初日。


「今日はどうでしたか?」

「利用者は45名でした」


 45名?

 プレミアムコースの約5倍。


「生徒の反応は?」

「『野菜が甘くて美味しい』『量もちょうど良い』『安くて助かる』『お母さんの手料理みたい』という声が多数」


 好評……。



 金曜日はさらに利用者が増えて、60名を超えた。


「みんな、友達を誘って来ています」

「『食堂の料理が美味しくなった』という噂が広まっているようです」


 口コミ効果まで出ている。



 週末、保護者からの反響が届いた。


「子供が『学校の食事が美味しくなった』と言っています」

「『野菜をたくさん食べるようになった』という変化が見られます」

「地元の農家さんとの連携、素晴らしいアイデアですね」

「安価で栄養バランスの良い食事を提供していただき、ありがとうございます」


 好意的な反応ばかり。


「マリアさん、収支はどうですか?」

「地産地消コースの方が、意外にも利益率が高いです」

「え? なぜですか?」

「利用者数が多いのと、食材費が予想以上に安かったからです」


 薄利多売の効果が出ている。


「それに、食べ残しが激減しました」

「食べ残し?」

「はい。美味しいので、みんな完食するんです。食材ロスがほぼゼロです」


 食材ロスの削減は、大きなコスト削減効果。


「プレミアムコースの方は?」

「利用者が少なすぎて、食材が余ってしまい、結果的に赤字でした」


 高価格戦略の失敗。


 レオンも報告にやってきた。


「理事長、生徒の健康状態に変化が見られます」

「どのような?」

「風邪を引く生徒が減りました。栄養状態の改善が影響していると思います」


 健康状態の改善……。

 それは予想外の効果。


「それに、午後の授業での集中力も向上しています」

「集中力?」

「はい。美味しい昼食を食べて、午後も元気に学習できているようです」


 教育効果まで向上している。



 試験期間終了後、最終決定のための会議を開いた。


「結果は明らかですね」


 私は両コースの比較データを見ながら言った。


「地産地消コースの圧勝です」


 数字が全てを物語っている。


 利用者数:地産地消コース52名/日 vs プレミアムコース10名/日

 売上:地産地消コース15,600ガルド/日 vs プレミアムコース8,000ガルド/日

 利益率:地産地消コース25% vs プレミアムコース-10%(大赤字)


「それに、教育効果も地産地消コースの方が高いです」


 レオンが続ける。


「生徒の健康状態、学習への集中力、食に対する関心、どれも改善しています」


 ソフィアも発言する。


「それに、地元との関係も深まっています」

「地元との関係?」

「はい。農家の田中さんが、時々食材について説明しに来てくださるんです」


 食育まで実現している。


「生徒たちが『この野菜はどうやって作るんですか?』と質問して、すごく盛り上がっています」

「保護者からの評価も高いですし」


 マリアが追加する。


「『学園が子供の健康を真剣に考えてくれている』『家計にも優しい』という声が多数寄せられています」


 私は苦笑いした。


「また高利益率戦略に失敗しましたね」

「でも、理事長」


 レオンが真剣な表情で言った。


「これって失敗でしょうか?」

「え?」

「確かに利益率は下がりましたが、利用者が増えて総売上は上がっています」

「それに、生徒の健康と学習効果が向上しています」

「長期的に見れば、大きな成功だと思います」


 長期的な成功……。

 確かにそうかもしれない。


「分かりました。地産地消コースを正式採用しましょう」


 みんなの表情が明るくなる。


「ただし、条件があります」

「条件?」

「さらなる改善を続けること。現状に満足せず、もっと良い食堂を目指しましょう」


 なんで私は向上心を要求しているの?



 その夜、私は食堂で一人、地産地消コースの夕食を食べていた。


「確かに美味しいわね」


 新鮮な野菜の甘み、バランスの良い味付け。

 これなら生徒たちが喜ぶのも納得。


「また搾取に失敗した...」


 でも、今回は不思議と悔しくない。


「利益より価値を選んだのね」


 短期的な利益より、長期的な価値。

 生徒の健康、教育効果、地域との関係……。

 お金では測れない価値がたくさん生まれた。


「これって、本当のビジネスよね」


 前世では、利益だけを追求していた。

 でも、本当に大切なのは、関わる全ての人が幸せになること。


「次は学園祭ね」


 そこにソフィアがやってきた。


「理事長先生、学園祭の準備が始まりますが……」

「今度は何を企画しているの?」

「地域の方々と一緒に開催してはどうでしょうか?」


 また地域連携?

 これも集客イベントとして利用できそう……。

 でも、きっとまた予想外の展開になるのでしょうね。


「具体的にはどのような?」

「地元の職人さんたちに出店していただいて、生徒と一緒に作品を作ったり...」


 また善意頼みの企画。

 でも、今回はもう驚かない。

 きっと、また私の計画とは違う、でも素晴らしい結果になるのでしょうから。

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