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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
14/20

第14話 図書館という情報支配拠点

 翌日、私はアルフレッド館長と図書館を巡回した。


「現在の蔵書数はどの程度ですか?」

「約8000冊です。魔法関連書籍が中心ですが……」


 古い本棚が並ぶ図書館。

 確かに蔵書数は多いが、整理されていない印象。


「問題は何でしょうか?」

「予算不足で新しい本を購入できないのと、古い本の保存状態が悪化していることです」


 これは好機。

 図書館こそ、情報統制による思想管理の最適な拠点よ。


 前世でブラック企業の研修で見た巧妙な情報操作システムを思い出していた。

 表面的には「教育的配慮」を謳いながら、実際は特定の思想に誘導する書籍選定。

 従業員の思考をコントロールする完璧な手法。


「抜本的な改革をしましょう」

「改革?」

「はい。まず、蔵書の選定基準を見直します」

「具体的にはどのような?」

「学園の教育方針に合致する書籍のみを残し、不適切な内容の本は処分します」

「不適切な……」

「例えば、生徒に悪影響を与える可能性のある本、学園の権威を損なう内容の本、それに反体制的な思想を含む書籍など」


 アルフレッド館長が困った表情。

 この反応、予想通り。

 でも、最終的には私の方針に従わざるを得ない。


「でも、多様な価値観に触れることも教育の一環では?」

「いえいえ、混乱を招くだけです。統一された価値観の方が教育効果が高いんです」


 完璧な理論武装。

 現代の情報統制理論を応用すれば、誰も反論できない。


「それに、新しく購入する本も、私が厳選したものだけにします」


 情報をコントロールすれば、生徒の思考もコントロールできる。

 まさに完璧な支配システムよ。


「図書館司書としては、知的自由を重視したいのですが……」


「知的自由? それは理想論です。実際の教育現場では、適切な指導が必要なんです」


 その時、ソフィアが図書館にやってきた。


「理事長先生、昨日お話しした件の詳細をまとめました」


 ソフィアが分厚い企画書を差し出す。


「どのような内容ですか?」

「図書館の利用促進と蔵書充実化プランです」


 私の情報統制計画と真逆の方向性?


「まず、生徒からのリクエスト制度を作りたいんです」

「リクエスト制度?」

「はい。読みたい本があれば、生徒がリクエストして、学園で購入していただく制度です」


 それは困る。

 生徒が自由に本を選んだら、私の思想統制ができない。


「でも、予算の関係が……」

「大丈夫です。生徒会費の一部を図書購入費に充てることも提案しています」

「生徒会費から?」

「はい。それに、保護者の寄贈も募ってみようと思います」


 また善意頼み……。

 でも、これは利用できるかも。


「具体的にはどのような本を増やしたいのですか?」

「職業ガイド、技術書、他国の文化に関する本、それに文学作品も」


 多様すぎる。

 これじゃあ統制不可能。


「なぜそのような本が必要だと思うのですか?」

「昨日の校外学習で、みんなが『もっと深く学びたい』と言っていたんです」


 純粋な学習意欲。

 それは否定しにくい……。



 翌日、図書選定会議を開催した。

 参加者は私、アルフレッド館長、レオン、そして生徒代表のソフィア。


「では、新しい図書館運営方針について議論しましょう」


 私は準備した統制プランを説明し始めた。


「まず、教育上有害な書籍の除去から始めます」

「有害な書籍とは?」


 レオンが質問する。


「例えば、暴力的な内容、反社会的な思想、学園の秩序を乱す可能性のある本など」

「具体的には?」

「革命に関する歴史書、権威への反抗を扇動する文学、それに過激な政治思想を含む評論書など」


 私が説明を続けようとした時、アルフレッド館長が割り込んだ。


「理事長、それは検閲になりませんか?」

「検閲?」

「はい。図書館の基本理念は『知る自由』です。多様な価値観に触れることで、生徒は自分で判断する力を育てるんです」


 知る自由……。

 それは困る概念ね。


「でも、間違った知識を身につけたら?」

「間違いかどうかは、読み手が判断すべきことです」


 アルフレッド館長の信念が強い。


「それに、異なる意見を知ることで、自分の考えがより明確になるんです」

「ソフィアさんはどう思いますか?」


 私は生徒の意見を聞いてみた。

 きっと「理事長先生の言う通り」と言ってくれるでしょう。


「私は、いろんな本が読みたいです」


 予想と違う答え。


「なぜですか?」

「昨日、職人さんのお話を聞いて、『知らない世界がまだたくさんある』と思ったんです」

「知らない世界?」

「はい。農業魔法にしても、工芸技術にしても、本で基礎を学んでから体験すれば、もっと深く理解できると思います」


 確かに、それは一理ある。


「それに、他の国の魔法技術とか、異なる文化とか、いろいろ比較して学んでみたいんです」


 比較学習……。

 それも教育的には価値がある。


「でも、生徒に悪影響を与える本もあるのでは?」


 私は最後の抵抗を試みた。


「それは、私たちが見極めれば良いと思います」


 ソフィアが意外な提案をした。


「見極める?」

「はい。読書感想文や読書会を通じて、みんなで本の内容について議論するんです」


 読書会……。

 それは想定外。


「そうすれば、一人で読んで間違った解釈をしても、みんなで話し合えば正しい理解に近づけると思います」


 これは賢いアプローチね。

 統制するより、議論を通じて理解を深める方法。


「レオンさんはどう思われますか?」

「私も、議論を通じた学習は効果的だと思います」

「教師の立場から見ても、生徒が自分で考えて結論を出す方が、教育効果が高いです」


 みんな、私の統制案に反対している……。



 一週間後、生徒会の呼びかけで保護者からの図書寄贈が始まった。


「こんなにたくさん……」


 図書館に持ち込まれた本の山。

 様々なジャンルの本が集まっている。


「理事長先生、どの本を受け入れますか?」


 アルフレッド館長が確認してくる。

 私の統制プランなら、厳格な審査をするところだけど……。


「どのような本がありますか?」

「料理の本、旅行記、冒険小説、詩集、技術書、歴史書...本当に多岐にわたります」


 多岐にわたる……。

 つまり統制不可能。


「この中に、教育上問題のある本は?」

「特に問題があるとは思えませんが...強いて言えば、少し古い政治評論書が数冊」


 政治評論書。

 これは要注意。


「どのような内容ですか?」

「20年前の王国政治改革に関する本です。当時は議論を呼びましたが、今となっては歴史的資料ですね」


 歴史的資料……。

 それなら問題ないかも。


「ソフィアさんはどう思いますか?」

「私は、いろんな時代の人がどんなことを考えていたのか知りたいです」

「過去の議論を知ることで、現在をより深く理解できると思います」


 また鋭い意見。


「分かりました。全て受け入れましょう」


 え?

 私、なんでそんなことを言っているの?


「ただし、条件があります」

「条件?」

「読書会を必ず実施することです。一人で読むのではなく、みんなで議論しながら理解を深めてください」


 これなら、仮に問題のある内容があっても、議論を通じて適切な理解に導ける。



 翌週、第一回読書会が開催された。


「今日はみんなで『魔法技術の歴史』について話し合いましょう」


 ソフィアが司会を務める。

 参加者は10名ほどの生徒たち。


「この本を読んで、印象に残った部分はありますか?」


 ハンスが手を挙げる。


「昔の魔法技術って、今より原始的だと思っていたんですが、実はすごく高度だったんですね」

「どの部分で?」

「古代の建築魔法です。現代の技術でも再現が困難な建造物を作っていたって」


 他の生徒も議論に参加する。


「でも、なぜその技術が失われたんでしょうか?」

「戦争が原因みたいですね」

「技術を持つ人が亡くなって、伝承が途絶えたと書いてありました」

「それって、現代にも当てはまることですよね」

「確かに。知識の継承って大切なんですね」


 生徒たちが自発的に深い議論をしている。

 私は見学しながら、驚いていた。


「これって、統制するより、はるかに教育効果が高いわね」


 自由に読書し、自由に議論することで、生徒たちの思考力が格段に向上している。


 情報統制の失敗?

 いえ、これは教育の成功よ。


 

 図書館改革から一ヶ月。

 驚くべき変化が起こった。


「理事長、図書館の利用者数が5倍になりました」


 アルフレッド館長が嬉しそうに報告する。


「5倍?」

「はい。それに、生徒たちの読書レベルも格段に向上しています」


 確かに、最近生徒たちの会話が知的になった。


「読書会の効果ですね」

「そうですね。みんなで議論することで、一人では理解できない内容も理解できるようになっています」


 これは予想外の効果。


「それに、保護者からも好評です」

「どのような?」

「『子供が家でも本の話をするようになった』『考える力がついてきた』という声が多数」


 思考力の向上……。

 それは教育の最終目標。


「先生」


 ソフィアがやってきた。


「読書会で新しい発見がありました」

「どのような?」

「魔法技術の発展は、異なる文化の交流から生まれることが多いんです」


 文化交流の重要性を自分で発見した。


「だから、他国の本ももっと読んでみたいんです」

「他国の本?」

「はい。違う視点から学ぶことで、もっと深い理解ができると思います」


 これは統制とは正反対の発想。

 でも、教育的価値は非常に高い。


「分かりました。他国の書籍も取り寄せてみましょう」

「本当ですか?」


 ソフィアの目が輝く。


「ただし、読書会での議論は必須です」

「もちろんです!」


 私は複雑な気持ちになっていた。

 情報を統制して思想をコントロールするつもりが、逆に知的自由を与えて思考力を向上させてしまった。


「でも、これって本当の教育よね」


 統制より自由、管理より信頼。

 また大切なことを学んでしまった。



 その夜、私は図書館を一人で歩いていた。


「また統制に失敗した...」


 でも、新しく整理された本棚、読書スペースで勉強する生徒たち、活発な読書会……。


「失敗? いえ、これは成功よね」


 情報統制は失敗したけれど、教育環境は劇的に改善した。


「統制するより、自由を与える方が効果的だったのね」


 前世では、教材を管理し、情報を制限することばかり考えていた。

 でも、本当に大切なのは生徒の知的好奇心を刺激すること。


「次は食堂改革ね」


 そこにマリアがやってきた。


「理事長、食堂の件ですが...」

「食堂?」

「はい。生徒会から『食堂も改善したい』という提案が……」


 また生徒会の提案?


「今度は何を企画しているんですか?」

「地元食材を使った健康的なメニューの導入だそうです」


 地元食材……。

 これも高利益率ビジネスの機会ね。今度こそ上手くやってやる。


 でも、きっとまた予想外の展開になるのでしょうね……。

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