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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
13/20

第13話 校外学習という集金システム

「年に一度の校外学習の時期が近づいてきました」


 レオンが年間予定表を持って私のオフィスにやってきた。


「そういえば、去年はどのような内容だったんですか?」

「魔法博物館の見学と、近郊の魔法遺跡巡りでした」

「費用は?」

「一人当たり2万ガルドほどでした」


 2万ガルド。

 それは安すぎる。

 これは大きなビジネスチャンスよ。


 私は前世で見た修学旅行の実態を思い出していた。

 表向きは「教育的価値」を謳いながら、実際は旅行業者と学校の癒着による高額設定。

 豪華なホテル、高級な食事、不必要なオプション...保護者から搾り取る完璧なシステム。


「今年はもっと充実した内容にしましょう」

「具体的には?」

「まず、宿泊を伴う2泊3日のプログラムにします」

「2泊3日……それは費用が……」

「一人当たり10万ガルドを予定しています」


 レオンが絶句している。


「10万ガルド?」

「はい。王都の一流ホテル宿泊、高級レストランでの食事、専属ガイド付きの特別ツアー」


 完璧な高額パッケージ。

 保護者に「特別感」を演出して、高額でも納得させる作戦。


「でも、保護者の経済的負担が...」

「大丈夫です。『一生に一度の特別な体験』『将来への投資』として売り込めば、多少高くても払ってもらえます」


 前世でブラック塾の営業トークを見てきたから、手法は熟知している。

 罪悪感を刺激して、「子供のためなら」という親心に付け込むの。


「それに、『他校との差別化』『うちの学園ならではの特別プログラム』という価値も演出できます」


 これで学園の収益が大幅に向上する。

 まさに合法的な集金システムよ。


「でも……」


 レオンがまだ躊躇している時、ソフィアがノックした。


「理事長先生、校外学習の件でご相談があります」

「あら、どうぞ」


 ソフィアが入ってくると、後ろからハンスと他の生徒会メンバーも続いた。


「私たち生徒会で、校外学習の企画を考えてみました」

「え?」


 生徒会が企画?

 それは困る。

 私の高額プランが台無しになる。


「どのような内容ですか?」

「はい。近隣の職人工房見学と、地元の魔法農場での実習体験です」


 ソフィアが企画書を差し出す。


「職人工房と魔法農場?」

「はい。ハンスくんのお父さんに相談したら、いろんな工房を紹介してくださって」

「それに、魔法農場では実際に農業魔法を体験できるんです」


 ハンスが興奮して説明する。


「費用はどの程度を想定していますか?」


 ここが重要。

 きっと安すぎる設定でしょう。


「一人当たり5000ガルドです」

「5000ガルド?」


 10万ガルドのつもりが、5000ガルド?

 これじゃあ利益にならない。


「交通費と昼食代、それに体験料を含めてです」

「宿泊は?」

「日帰りです。でも、内容はすごく充実していると思います」


 生徒たちの目が輝いている。

 でも、これじゃあ私の集金計画が……。


「どのような体験ができるんですか?」


 レオンが興味深そうに質問する。


「職人工房では、実際に道具を作る体験ができます」

「魔法農場では、種まきから収穫まで、農業魔法の全工程を学べます」


 確かに実践的だけど、「特別感」がない。



 翌日、私は両方の企画を比較検討する会議を開いた。


「では、理事長案と生徒会案を比較してみましょう」


 私は準備したプレゼン資料を表示した。


「理事長案:王都での豪華3日間ツアー。費用10万ガルド」

「生徒会案:地元密着型1日体験学習。費用5000ガルド」


 数字だけ見れば、私の案の方が「特別感」がある。


「理事長案の魅力は何でしょうか?」


 レオンが質問する。


「まず、一流ホテルでの宿泊体験。生徒たちにとって特別な思い出になります」

「確かに……」

「それに、王都の一流レストランでの食事。普段体験できない『本物』の味を学べます」

「なるほど」

「さらに、専属ガイドによる特別解説付きツアー。教育効果も抜群です」


 表面的には教育的価値を謳っているが、実際は豪華さによる差別化戦略。


「一方、生徒会案はどうでしょうか?」


 ソフィアが立ち上がる。


「私たちの案は、実践的な学習を重視しています」

「実践的?」

「はい。職人工房では実際に道具を使って簡単な制作体験ができます」

「魔法農場では、農業魔法の基礎から応用まで、現役の農家さんから直接学べます」


 確かに実践的だけど、「特別感」がない。


「それに、地元との連携も深まります」


 ハンスが続ける。


「僕の父さんの知り合いの職人さんたちも、『ぜひ若い人たちに技術を伝えたい』と言ってくれています」


 地元連携……それは想定外の効果ね。


「費用の内訳はどうなっていますか?」


 マリアが実務的な質問をする。


「交通費2000ガルド、昼食代1500ガルド、体験料1500ガルドです」

「体験料が安いですね」

「はい。地元の方々が『教育のためなら』と、格安で協力してくださるそうです」


 また人の善意に助けられている……。



 翌週、両案を保護者に説明することになった。


「校外学習について、2つの案をご提案します」


 私は複雑な気持ちで説明を始めた。


「案1は、王都での豪華3日間プログラム。一流ホテル宿泊、高級レストラン、専属ガイド付きツアーです」


 保護者の何人かが興味深そうに聞いている。


「案2は、地元密着型の実践学習プログラム。職人工房見学と魔法農場体験です」

「費用はそれぞれいくらでしょうか?」


 保護者の一人が質問する。


「案1は10万ガルド、案2は5000ガルドです」


 どよめきが起こる。


「10万ガルドは……正直、厳しいです」

「うちも同じです」

「5000ガルドなら何とか……」


 やっぱり。

 経済的な現実は厳しい。


「でも、教育効果はどちらが高いでしょうか?」


 別の保護者が質問する。


「それは……」


 私が答えに困っていると、ソフィアの母親が発言した。


「私は、案2の方が教育的だと思います」

「なぜでしょうか?」

「豪華な体験も素晴らしいですが、実際に働いている方々から学ぶ方が、子供たちの将来に役立つのでは?」


 他の保護者も頷いている。


「それに、地元との関係も深まりますし」

「費用も現実的ですし」


 私の高額プランが、どんどん劣勢に……。


「では、どちらにするか決めましょう」


 私は最後の説得を試みた。


「確かに案2は現実的ですが、一生に一度の特別な体験という意味では案1の方が……」


 でも、その時、ハンスが手を挙げた。


「理事長先生、質問があります」

「何でしょう?」

「僕たちにとって『特別な体験』って、豪華なホテルに泊まることでしょうか?」


 鋭い質問。


「それとも、普段できない体験を通じて成長することでしょうか?」


 他の生徒たちも頷いている。


「僕は、職人さんから直接技術を学べる方が特別だと思います」

「私も、農業魔法を実際に体験してみたいです」


 生徒たちの純粋な学習意欲。


「保護者の皆様はいかがでしょうか?」


 レオンが確認する。


「案2に賛成です」

「同じく案2で」

「経済的にも教育的にも案2が良いと思います」


 圧倒的に案2支持。


 私の集金計画は完全に失敗したけれど、なぜか悪い気はしない。



 校外学習当日。私も同行することにした。


「最初に訪れるのは、木工工房です」


 ハンスの父親、ローターさんが案内してくれる。


「こちらが作業場です」


 木の香りが漂う工房。職人たちが黙々と作業している。


「すごい……」


 生徒たちが感嘆の声を上げる。


「魔法を使わずに、こんなに精密な加工ができるんですね」

「魔法と技術を組み合わせると、さらに可能性が広がります」


 職人の説明に、生徒たちが真剣に聞き入っている。


「実際にやってみましょう」


 生徒たちが小さな木工作品に挑戦する。

 最初は不器用だが、だんだんコツを掴んできる。


「楽しい!」

「難しいけど、できたときの達成感がすごい」


 この表情、10万ガルドの豪華ツアーでは見られなかったでしょうね。


「次は魔法農場です」



 午後は場所を移して農場見学。


「こちらが成長促進魔法です」


 農家の方が実演してくれる。

 小さな芽が見る見るうちに成長していく。


「わあ……」

「私もやってみたい」


 ソフィアが挑戦する。

 最初は上手くいかないが、農家の方の丁寧な指導で、だんだん魔法をコントロールできるようになる。


「できた!」


 小さなトマトが実った瞬間、みんなが拍手する。


「すごいじゃない、ソフィア」

「先生、私も農業魔法を勉強してみたいです」


 生徒たちの目が輝いている。

 私は見学しながら、複雑な気持ちになっていた。


 確かに豪華ツアーなら「特別感」は演出できた。

 でも、この実践的な学習体験の方が、はるかに教育的価値が高い。


「理事長先生、どうですか?」


 ローターさんが声をかけてくる。


「素晴らしいですね。生徒たちがこんなに生き生きしているなんて」

「子供たちに喜んでもらえて、私たちも嬉しいです」


 また、人の善意に支えられてしまった。



 夕方、学園に戻ってきた。


「今日は本当に楽しかった」

「職人さんたちの技術、すごかったね」

「農業魔法も体験できて良かった」


 生徒たちが興奮して感想を語り合っている。


 私は一人で今日を振り返っていた。


「また集金に失敗した……」


 10万ガルドの利益を見込んでいたのに、結果的には5000ガルドの最低限の費用のみ。


「でも、この満足感……」


 生徒たちの笑顔、保護者からの感謝、地元の人々との交流。

 お金では測れない価値がそこにあった。


「もしかして、教育の価値って……」


 そこにソフィアがやってきた。


「理事長先生、今日はありがとうございました」

「こちらこそ」

「私、将来は農業魔法の研究もしてみたいと思いました」


 新たな夢を見つけた生徒。これは10万ガルドでは買えない価値よね。


「それと、図書館の本をもっと充実させませんか?」


 え?

 また新しい提案?


「実用書や技術書を増やして、もっと深く学べるようにしたいんです」


 今度は図書館改革の話?

 これも集金の機会かしら……。


 でも、今日のような展開になりそうな予感がするのは気のせいかしら?

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