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私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
12/20

第12話 生徒会という傀儡組織

「現在の生徒会の活動状況を報告します」


 レオンが資料を持ってきた。


「どうですか?」

「正直に言うと、ほとんど機能していません」

「機能していない?」

「はい。年に数回の形式的な会議があるだけで、実質的な活動はゼロです」


 これは予想通り。

 多くの学校の生徒会は名ばかりの組織。

 でも、私にとってはチャンス。

 完璧な傀儡組織を作り上げる絶好の機会よ。


「理由は何だと思いますか?」

「生徒に権限が与えられていないからでしょう。何を提案しても『予算がない』『校則で決まっている』と却下されるので」


 完璧。

 無力感を植え付けられた生徒会なら、私の言いなりになる傀儡組織にするのは簡単。


 前世で見た巧妙な学生管理システムを思い出すわ。

 表面的には「民主的」「自治的」に見せながら、実際は大人が完全にコントロールする仕組み。

 生徒たちは「自分たちで決めている」と錯覚するが、実際は誘導された選択肢の中から選ばされているだけ。


「では、改革しましょう」

「改革?」

「生徒会に『実権』を与えるんです」


 レオンが驚いた表情。


「でも、生徒に実権を与えるのは危険では?」

「いえいえ、管理された実権です」


 私は内心でほくそ笑んでいた。


「生徒会に予算執行権を与えます。ただし、使途は学園が決めた項目のみ」

「なるほど」

「生徒たちは『自分たちで決めている』と思い込みますが、実際は私たちが誘導した選択肢の中から選んでいるだけ」


 完璧な管理システム。

 自由を与えているフリをして、実際は完全にコントロールする。

 民主主義の皮を被った独裁制よ。


「それに、生徒会活動を通じて、将来のリーダー候補を早期発見できます」


 有望な生徒は早めに目をつけて、私の側に取り込む。

 将来の人脈構築にも役立つ。


「分かりました。準備しましょう」

「新しい生徒会制度について説明します」


 全校集会で、私は改革案を発表した。


「まず、生徒会に予算執行権を与えます。年間50万ガルドの範囲内で、自由に学園行事や設備改善に使えます」


 生徒たちがざわめく。

 これまで何の権限もなかった生徒会に、突然予算が与えられる。


「ただし、条件があります」


 ここが重要。


「使途は事前に審査し、学園の教育方針に合致するもののみ承認します」


 つまり、私が気に入った使い道だけを認める。

 完璧な管理システム。


「それに、月次報告と年次決算報告も義務付けます」


 監視体制も万全。

 少しでも私の意向に反する動きがあれば、すぐに修正できる。


「では、新しい生徒会長選挙を行います。立候補者は?」


 3名が手を挙げた。

 その中に、予想外の人物が。


「ソフィア・ランツベルクです」


 え?

 ソフィアが立候補?


 彼女なら扱いやすそう。

 奨学金で恩を売っているし、真面目で従順な性格。

 完璧な傀儡候補よ。


「なぜ立候補したいのですか?」

「はい。理事長先生が私たちに権限を与えてくださったので、学園をもっと良くしたいと思います」


 純粋な動機。

 これは利用しやすそう。


「他の候補者はいますか?」


 ハンスも手を挙げた。


「僕も立候補します。実践コースを作ってもらって、学園の可能性を感じました。今度は僕たちが貢献したいです」


 3人目は上級生の男子。

 どの候補も、私にとって都合の良い人材。


 あれ?

 みんな、なんか前向きな理由で立候補している……。

 でも、動機が純粋な方が操りやすいわ。



 選挙の結果、ソフィアが生徒会長に当選した。


「第1回新生徒会会議を開きます」


 私も監督として参加。

 生徒たちの議論を聞いて、適切に誘導するつもり。


「まず、50万ガルドの使い道を決めましょう」


 ソフィアが司会を進める。


「私は図書館の本を増やしたいです」

「僕は実習室の道具を充実させたい」

「食堂のメニューを増やすのはどう?」

「体育館の設備も古いよね」


 次々と意見が出る。

 どれも学園の改善につながる提案。


 私は内心で計算していた。

 どの提案を却下して、どれを承認するか。

 生徒たちに「選択の自由がある」と錯覚させながら、実際は私の意図通りに誘導する。


「理事長先生、どう思われますか?」


 ソフィアが質問してきた。


「どれも良い提案ですね」

「でも、予算が限られているので……」

「そうですね。優先順位を付けましょうか」


 ここで私が誘導する番。


「まず、教育効果が高いものから順に……」


 でも、その時、ソフィアが予想外の提案をした。


「みんなでアンケートを取ってはどうでしょうか?」

「アンケート?」

「はい。全校生徒に、何を一番改善してほしいか聞いてみる」


 え?

 それじゃあ私が誘導できない……。


「それは良いアイデアです」


 他の生徒会メンバーも賛成している。


「民主的な方法ですね」


 民主的?

 それは困る。

 私は独裁的に管理したいのに……。


「でも、アンケートの項目は事前に決めるべきでは?」


 私が慌てて提案する。


「それもそうですね。でも、自由記述欄も作りましょう」


 自由記述?

 それじゃあコントロールできないじゃない。


「みんなが本当に望んでいることを知りたいですから」


 ソフィアの純粋な表情。

 彼女は本当に民主的な運営を望んでいる。



 一週間後、アンケート結果が発表された。


「結果をご報告します」


 ソフィアが集計表を読み上げる。


「第1位:図書館の充実(35票)」

「第2位:食堂の改善(28票)」

「第3位:実習設備の充実(25票)」


 どれも学園の教育環境改善につながる項目。

 予想以上にまともな結果。


「では、この順番で予算を配分しましょう」


 ソフィアが提案する。


「ちょっと待って」


 私が口を挟む。

 ここで管理者としての権限を行使しないと。


「予算配分は、もう少し慎重に検討すべきでは?」

「どのような点でしょうか?」


 ソフィアが真摯に質問する。


「例えば、図書館の本は高価ですし、効果測定も難しいです」

「確かにそうですね」

「でも、みんなが一番望んでいることですから」


 ハンスが反論する。


「僕たちが決めたことを、僕たちで実行したいです」


 他の生徒たちも頷いている。


 あれ?

 私が管理しようとしているのに、生徒たちの方が主体的になっている……。


「それに、図書館司書のアルフレッド先生にも相談してみました」

「相談?」

「はい。どんな本が必要か、予算内で何ができるか」


 ソフィアが報告書を見せる。


「先生がとても協力的で、出版社との交渉も手伝ってくださるそうです」


 もう私の許可を待たずに、どんどん話が進んでいる……。


「分かりました。皆さんの判断を尊重します」


 なんで私はそんなことを言っているの?



 一ヶ月後の成果報告で、私の計算は完全に覆された。


「理事長先生、報告があります」


 ソフィアが活動報告にやってきた。


「どうぞ」

「図書館の新しい本、すごく人気です」


 ソフィアが嬉しそうに報告する。


「利用者数が前月比で300%増えました」

「300%?」

「はい。特に、実用魔法の本や職業ガイドの本が人気で」


 それは意外。

 娯楽小説じゃなくて、実用書が人気なの?


「生徒たちが将来について真剣に考えるようになったみたいです」

「食堂の新メニューも好評です」

「どのような?」

「地元の野菜を使った健康メニューです。生徒会で栄養バランスを調べて、厨房の方と相談して作りました」


 生徒会が自分たちで調査して企画した?


「それに、実習設備も改善しました」

「具体的には?」

「安全装置の追加と、作業効率の向上です。ハンスくんのアイデアで」


 ハンスが照れたように頭を下げる。


「僕、父から聞いた話を参考にして……」


 生徒たちが自分たちで問題を発見し、解決策を考え、実行している。


「それに、予算管理もちゃんとできています」


 ソフィアが家計簿のような帳簿を見せる。


「収支はきっちり合わせてあります。無駄遣いはしていません」


 これって、私が管理しなくても、生徒たちが自分たちで責任を持って運営しているということ?


「素晴らしいですね」

「ありがとうございます。でも、これは理事長先生が私たちを信頼してくださったからです」


 信頼?


「最初は不安でした。でも、先生が権限を与えてくださって、『君たちならできる』と言ってくださったので」


 私、そんなこと言ったっけ?


「これからも頑張ります」


 ソフィアの輝く笑顔。

 私は完全に困惑していた。

 傀儡組織を作るつもりが、本当に自主的で責任感のある組織になってしまった。


「他の生徒たちの反応はどうですか?」

「みんな協力的です。『自分たちの学園を自分たちで良くしている』という実感があるみたいで」

「生徒会への参加希望者も増えました」

「委員会活動も活発になっています」


 完全に予想と逆の結果。

 管理するつもりが、逆に生徒の自主性を育ててしまった。



 その夜、私は生徒会の活動報告書を読んでいた。


「また失敗した……」


 生徒を管理下に置くつもりが、逆に自主性を育ててしまった。


「でも、この結果って...」


 生徒たちの積極性、責任感、協力精神。

 どれも教育の理想的な成果。


「管理するより、信頼する方が効果的だったのね」


 前世では、生徒を管理することばかり考えていた。

 でも、信頼して権限を与える方が、はるかに良い結果を生む。


「私、教育者として成長しているのかしら」


 まだまだ序の口。次は校外学習で本格的に搾取を……。


 そこにソフィアがやってきた。


「理事長先生、校外学習の企画書ができました」

「もう?」

「はい。みんなで議論して、すごく良い計画になりました」


 え?

 生徒会が校外学習まで企画しているの?


「見てください」


 ソフィアが企画書を広げる。


「地元の職人さんたちを訪問して、実際の仕事を見学する計画です」

「費用は?」

「交通費だけです。職人さんたちが無償で協力してくださることになりました」

「無償で?」

「はい。ハンスくんのお父さんが紹介してくださって」


 これじゃあ、私の出番がない……。


「それに、見学だけじゃなくて、実際に簡単な作業も体験させてもらえるそうです」


 完全に教育的で、費用も最小限。

 私が搾取する余地が全くない……。


「素晴らしい企画ですね」

「ありがとうございます!」


 ソフィアの笑顔を見ていると、搾取なんて考えるのが馬鹿らしくなってくる。

 私、本当に何がしたかったんだっけ?

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