表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は魔法学園の問題理事長です  作者: ゆうきちひろ
第1部 破綻からの出発編
11/20

第11話 人事制度改革という支配システム

「現在の人事制度の問題点をまとめました」


 翌朝、私はマリアと人事について議論していた。


「どのような問題が?」

「評価基準が曖昧で、昇進や昇給の根拠が不明確です」

「なるほど」

「それに、教職員のモチベーション管理も十分ではありません」


 これは完璧なチャンス。

 曖昧な評価制度を悪用して、私に従順な教職員だけを優遇し、反抗的な者は冷遇する。

 完全なる支配システムの構築よ。


 前世でブラック企業の人事制度を嫌というほど見てきた。

 表面的には「公正で客観的」に見えるが、実際は経営者の主観でいくらでも操作できる巧妙なシステム。


「新しい評価制度を導入しましょう」

「どのような?」

「数値による客観的評価です」


 私は内心でほくそ笑んでいた。

 数値化すれば公正に見えるが、その数値を誰がどう測定するかは、私次第。

 完璧な支配の道具になる。


「具体的には、生徒の成績向上率、保護者満足度、同僚評価、上司評価などを数値化します」

「それは良いアイデアですが……」

「問題は、評価者が私だということです」


 マリアが不安そうな表情。


「つまり、私の判断次第で、誰でも高評価にも低評価にもできる」

「それは……公正性に問題が……」

「表面的には公正です。数値で評価しているのですから」


 完璧な支配システム。

 これで教職員を完全に管理下に置ける。

 みんな私の顔色を窺い、私の意向に沿った行動を取るようになる。


「でも、評価項目や基準は明文化しますし、透明性も確保します」

「透明性……ですか?」

「ええ。ただし、解釈の余地は残しておきます」


 でも、なんでマリアはそんなに不安そうな顔をしているの?

 これは効率的な組織運営のためよ。



 午後、教職員全員を集めて制度説明会を開いた。


「新しい人事評価制度についてご説明します」


 みんなの表情が緊張している。

 人事制度の変更は、誰にとっても不安なもの。

 でも、この緊張感こそが私の狙い。


「まず、評価の透明性を高めます」


 私は準備した資料を配布した。


「評価項目は以下の通りです。生徒指導力、授業技術、協調性、向上心、責任感」

「具体的な基準は?」


 レオンが質問する。


「各項目を1-5点で評価し、その根拠も明文化します」


 ここがポイント。

 根拠を明文化すれば、私の主観で操作していることがバレにくい。

 いくらでも理由を後付けできる。


「例えば、生徒指導力は『生徒の成績向上率』『生徒からの評価アンケート』『問題行動の改善率』で判定します」


 一見公正に見える基準。

 でも、「生徒からの評価アンケート」なんて、設問次第でいくらでも操作できる。


「授業技術は『授業見学評価』『教材研究の成果』『教育技術の習得度』で判定」


 これも同じ。

 私が見学して評価するのだから、気に入らない教師は低評価にできる。


「なるほど、客観的な基準ですね」


 グリム先生が納得している。

 みんな、表面的な公正性に騙されている。


「この評価結果に基づいて、昇進、昇給、賞与を決定します」


 完璧。

 これで全教職員が私の顔色を窺うようになる。

 私に気に入られるために必死に努力する。

 そして、私の方針に反対する者は自然に淘汰される。


「協調性の評価はどのように?」


 若手の女性教師が質問する。


「同僚との協力度、学園方針への理解度、チームワークへの貢献度などです」


 つまり、私の方針に従順かどうかを測る項目。

 反抗的な教師は「協調性が低い」として低評価にできる。


「質問はありますか?」

「評価の頻度は?」

「月次の簡易評価と、半期ごとの総合評価を予定しています」


 これで常に監視下に置ける。

 月次評価で圧力をかけ続ければ、誰も私に逆らえなくなる。



 一週間後、実際の評価を開始した。


 まずはレオンから。

 彼は教務主任として優秀だし、私に協力的。

 高評価をつけて見せしめにしよう。


「レオンさんの評価結果です」


 私は評価表を見せた。


「生徒指導力:5点、授業技術:5点、協調性:5点、向上心:5点、責任感:5点」


 満点。

 これを他の教職員に見せれば、「私に従順であれば高評価がもらえる」というメッセージになる。


「ありがとうございます。でも、本当にこんなに高い評価をいただけるでしょうか?」


 レオンが謙遜している。


「あなたの働きぶりを見れば当然です」


 でも、続けてレオンが言った言葉で、私の計算が狂い始めた。


「理事長、一つお願いがあります」

「何でしょう?」

「この評価制度、私以外の教職員にも公平に適用してください」


 公平に?


「もちろんです」

「いえ、そうではなくて……私への高評価が、他の先生方への圧力にならないように」


 え?


「それに、評価の根拠も、もっと詳しく説明していただけませんか? みんなが納得できるように」


 レオンの真摯な表情。

 彼は本当に公正な評価を求めている。


「他の先生方も、それぞれに素晴らしい能力をお持ちです。私だけが特別扱いされるのは適切ではありません」


 これじゃあ、恣意的に操作できない……。


「分かりました。全員に公平な評価を心がけます」


 なんで私はそんなことを約束しているの?

 仕方なく、私は本当に公正な評価を行うことにした。

 レオンの要求を無視するわけにはいかない。


 グリム先生:総合4.6点(長年の経験と安定した指導力、生徒からの信頼も厚い)

 マリア:総合4.4点(正確な事務処理と改革への協力、細かい気配りが光る)

 若手教師A:総合4.2点(熱意はあるが経験不足、しかし成長の意欲は高い)

 若手教師B:総合4.0点(努力は認められるが結果はこれから、潜在能力は十分)


 どの評価も、客観的に見て妥当な内容。

 私情を挟まず、本当の能力を評価してしまった。


 でも、評価を発表した時の教職員の反応が、予想と全く違った。


「理事長、ありがとうございます」


 若手教師Aが深く頭を下げる。


「私の至らない点も正直に指摘していただいて……これで改善すべき方向が分かりました」

「そ、そうですか」

「それに、良い点も評価していただいて、すごく励みになります」


 若手教師Bも頷いている。


「僕も頑張ります。次回はもっと良い評価をもらえるように」

「具体的な改善点も教えていただけませんか?」


 なんで?

 なんでみんな前向きなの?

 私は彼らを管理し、支配するつもりだったのに、なんで成長意欲を刺激してしまったの?


「グリム先生の授業見学もお願いします。ベテランの技術を学びたいです」

「私も勉強会に参加させてください」


 みんな、私を恐れるどころか、積極的に成長しようとしている。


「理事長、素晴らしい制度だと思います」


 グリム先生が微笑んでいる。


「これまで、自分の指導がどう評価されているか分からなかったんです。でも、具体的な評価をいただけて、やりがいが増しました」


 やりがい?

 支配されて嬉しいの?



 制度導入から一ヶ月。

 学園に明らかな変化が現れた。


「理事長、教職員の意識が変わりました」


 マリアが嬉しそうに報告する。


「どのように?」

「みんな、自分の仕事に誇りを持つようになりました」

「誇り?」

「はい。評価制度で自分の貢献が認められることが分かって」


 そういえば、最近教職員の表情が明るい。

 朝の挨拶も元気だし、職員室の雰囲気も良くなった。


「それに、お互いに協力し合うようになりました」

「協力?」


 それは予想外。

 管理制度で競争心を煽って分裂させるつもりだったのに。


「評価項目に『協調性』があるので、みんなでチームワークを高めようと」


 あ、そういうことね。

 でも、私が期待していた「私への従属」ではなく、「同僚との協力」になっている。


「若手教師たちは、ベテランの先生方にアドバイスを求めるようになりましたし」

「ベテランの先生方は?」

「喜んで指導しています。『後輩の成長も評価に繋がる』と分かったので」


 これって、私が期待していた「支配」とは正反対の結果よね。


「レオンさんからも報告がありました」

「どのような?」

「『これまでで最もやりがいを感じている』と」


 レオンがやってきた。


「理事長、新制度のおかげで、自分の役割が明確になりました」

「そうですか」

「それに、頑張りが正当に評価されることが分かって、すごくモチベーションが上がっています」

「他の先生方も同じ気持ちです。みんなで学園を良くしていこうという雰囲気になりました」


 みんな、私を支配者として恐れるのではなく、公正な評価者として信頼している。


「それに、生徒たちも変化に気づいています」

「生徒たち?」

「『先生たちが楽しそう』『授業が面白くなった』という声が」


 これって、支配の失敗よね……。

 でも、結果的には学園全体が良くなっている。



 その夜、私は評価表を見直していた。


「また失敗した……」


 教職員を支配するつもりが、逆に信頼関係を築いてしまった。


「でも、この結果って……」


 学園全体の雰囲気が良くなり、教職員のやる気も向上した。教育の質も上がるはず。


「これって、人事制度の本来の目的よね」


 前世で見たブラック企業の制度は、確かに支配のためのものだった。

 でも、本当の人事制度は、人材の成長と組織の発展のためのもの。


「私、いつから経営者らしいことを考えるようになったのかしら」


 評価制度が、管理のための道具ではなく、成長のための仕組みになってしまった。

 でも、教職員の明るい表情を思い出すと、これで良かったのかもしれない。


 そこにレオンがやってきた。


「理事長、お疲れ様です。生徒会制度の件でご相談が……」


 生徒会制度?

 そうそう、次は生徒を管理下に置く番ね。


「どのような件ですか?」

「生徒の自主性を重視した運営にしてはどうでしょうか?」


 自主性?

 それじゃあ管理にならないじゃない……。


 でも、レオンの提案を聞いてみましょうか。

 今度こそ、本当の支配システムを構築してやるわ。


 ……なんて思っているけど、また失敗しそうな予感がするのは気のせいかしら?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ