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第8話 呪い

 次の日、朝から教会で騒ぎが起こった。

 ルイーズが祈りの間に行くと、神官たちが青い顔をして女神像を見つめている。

 そこに慌ただしく国王とカーティスが現れた。


「女神像が壊れたというのは本当か!?」


 国王が声を上げると、教皇が国王に走り寄る。ルイーズも横目に女神像を見ながら、国王のそばへ近付いた。


「陛下、その通りでございます。どうぞ、こちらに来てご覧下さい」


 国王は真剣な表情で教皇の後ろを歩くと、女神像に近付きその顔を見上げた。

 女神像は頭が半分ほど砕け落ちてしまっている。その無残な姿に目を見開いた。


「ほ、本当だ……。なんということだ……」

「父上、こんなものは偶然ですよ」


 カーティスはまったく気にしていないのか、国王にそう言うと肩を竦める。


「陛下、これはアトラス様の怒りかもしれません」

「なに!?」


 ルイーズの言葉に国王が驚きの声を上げて振り向く。


「昨晩、夢を見たのです。私の枕元に立ったアトラス様は、とても怒った表情をしておりました。そのまま祈りの間の方へ歩いていき、消えてしまったのです」

「な、なぜ……」


 ルイーズは悲しげな顔になると、両手を胸の前で合わせ首を振る。


「この教会では、十分な祈りが捧げられないのかもしれません」

「なんだと?」

「教会がこれほど荒れていては、アトラス様も女神様もお怒りになって当然です」


 国王はその言葉を聞くと、周囲に目を向ける。


「父上、ただの夢です。ルイーズ、適当なことを言うな!」

「そうでしょうか。私はアトラス様と婚儀を挙げ、絆を結びました。これは妻の私に何かを訴えているとしか思えません」


 カーティスは憎々しげにルイーズを睨みつけると、溜め息をついて国王に顔を向けた。


「父上、アトラスのことなどもう忘れましょう」

「カーティス、酷いことを言うものじゃない。……よし、すぐに教会を修復させよう。アトラスのためだ。いいな?」

「……はい」


 国王が厳しい声で諫めると、カーティスは渋々頷く。


(国王陛下、すみません……)


 国王の気持ちを思えば、アトラスの名前を出すのは気の毒に思えたが、それでも上手くいったことに、ルイーズはこっそり胸を撫で下ろした。

 二人が教会から出て行くと、神官たちはパッと表情を変えてルイーズと教皇を取り囲んだ。


「やりましたね! 教皇様! ルイーズ様!」

「ええ、本当に!」

「これほど効果があるとは思わなかったな」


 教皇が感心したように何度も頷く。


「教皇様、女神像を壊してしまってすみませんでした」


 ルイーズが頭を下げると、教皇は朗らかに笑って首を振る。


「いや、これでいいんだ。もともとすでにひびが入っていたのだ。これで教会と共に女神像を直してもらえるなら、こんなありがたい話はないよ」

「ルイーズ様が提案してくれなければ、我等はずっとこのまま見捨てられていたのです。女神像が新しくなり教会が綺麗になれば、祈りに来てくれる人がきっと増えますよ!」

「それならいいけど……、この女神像は歴史あるものではないのですか?」

「先々代の国王陛下が寄贈して下ったものだから、それほど古くはないんだ。この教会で最も大切な女神像は他にある。見せてあげよう」


 教皇はそう言うと、ルイーズを祭壇の前に連れていく。祭壇の上には小さな箱が置かれていて、その周囲には花が飾られている。みすぼらしい教会の様子とは違い、ここだけは美しく華やかだった。

 教皇はその箱の蓋を開けると、小さな女神像を取り出した。

 胸に抱えられるほどの小さな女神像は木像で、微笑みを浮かべるその顔はなんだかとても温かみを感じる優しい姿だった。


「これは?」

「これは初代の聖女様が彫られたという言い伝えがあってね、これこそが教会の最も大切な宝なのだよ」

「なるほど……」

「このことをきっかけに、国王やカーティス殿下がもう少し教会に足を運んでくれるといいんだが……」


 ルイーズはそっと女神像を箱に戻す教皇の言葉に、少し躊躇いながらも訊ねてみた。


「もしかして、アトラス様はこの教会に来ていたのですか?」

「ああ、幼い頃から月に一度は来て下さっていたかな。成人してからは騎士としての仕事が忙しく足は遠退いていたが、それでも時間を見つけては顔を出して下さっていた」

「へぇ……」


 評判通りの誠実さに、ルイーズは微笑む。


「教皇様が私に協力してくれるのは、もしかしてアトラス様のことがあったからですか?」

「ああ。アトラス様は誠実な御方だった。謀反の話を聞いた時は、まったく信じられなかった。だが無情にもアトラス様は断罪されてしまった。君がアトラス様の妃としてここに来たのも何かの縁だろう。アトラス様を救うことができなかった私のせめてもの償いとして、君を助けたいと思ったのだよ」

「そうだったのですね」


 目尻に皺を寄せて寂しげに微笑む教皇の顔を見て、ルイーズはアトラスの顔を思い出した。

 アトラスは自分の自由を祈ってくれていた。


(うん。私がんばります。必ずここから出て、自由になるわ!)


 ルイーズはもう一度自分にそう誓うと、教皇に笑顔を向けた。

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