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壊滅済み sideヘラク

 騎士団をゴブリン達の巣へ案内する。

 ゴブリン達の巣へ到着すると騎士団の方々は、ガタガタと不平を口にする。

 臭いだの汚れるだの、まるで貴族のお嬢様方が、鎧を着て騎士ごっこでもしているようなありさまだ。

 一応、見張りもいなかったので、ここにはいないと踏んでここを拠点としていたかどうかの確認である。

 そして、一番奥まで行くと大釜がある部屋へと着く。

 そこで、騎士からうめき声が聞こえた。

 部屋の惨状を目の当たりにして気持ち悪くなったのだろう。

 床一面に死体が転がっていてゴブリン達と盗賊らしき人間の死体がごっちゃになっている。


「こ、これは、どういうことだ?」


 ヘラクは、動揺しつつも何とか耐えているようだ。


「分かりません。

 ただ、この状況を見ると盗賊とゴブリン達が潰し合ったのかもしれないですね」


 目の前で起きている惨状を目の当たりにして、思いつくことと言えばこのくらいだろう。


「いや、しかし、こんなに呆気なく終わるとは」

「盗賊とゴブリン達が潰し合ってくれたお陰で村に被害が無くて良かったです」

「このゴブリン達は、どこから来た?

 村長に君たちがゴブリンを倒したというのを聞いたんだが?」

「そこまでは、いえ、もしかすると僕たちが倒したゴブリン達は、本隊では無かったのかも」

「なるほど、そうか」


 昨日、村長が僕たちの事をアピールしていたのは知っていたので、その質問は来ることが分かっていた。

 まあ、分かっていなかったとしても動揺なんてしないけど。


「こいつらの首を持って帰る必要があるな」

「どうしてですか?」


 首検分か。


「我々が追っていた盗賊の者か確かめる必要がある」


 そうだよね。


「この中から首を取り出すのですか?」

「……やるしかない」


 ヘラクは、自分に言い聞かせるように言う。


「さあ、やるよ」


 ヘラクの言葉にうめき声を上げながら、騎士達が死体が散乱する部屋へと足を踏み入れる。

 首を切り落とし一か所に集める。

 首の数はそこまで多くはないので、時間はかからなかった。


「しかし、あの黒狼団の最後がこれとはな」


 ヘラクは、どこか納得がいかないような声色で呟く。


「ゴブリンと相打ちで死ぬような奴らではないはずなのだが、何かイレギュラーなことでも起きたのか?」

「イレギュラー?」

「ああ、例えば、ゴブリン共を率いる存在がいたとか。

 いや、それでも奴らが負けるとは思えん」

「ドラゴンでもいたとかですか?」

「ドラゴンが出たというならこの状況に納得は出来るが、流石にドラゴンがこんなに小さい洞窟ダンジョンに現れるとは思えない」


 成る程、さてドラゴンはやり過ぎにしてもこの状況に説得力をもたらす存在が必要だ。

 この村に目を付けられるのは少し早すぎるしね。

 いや?

 そう言えば、ゴブリン達の親玉のゴブリンの呪術師はそれなりの強さだったような。

 あいつの死体があれば誤魔化せるかな?

 しかし、折角作ったあれを潰すのはちょっと勿体ないな。

 何か代わりになるものはないかな?


「ヘラク団長!

 これを!」


 一人の騎士が、慌てた様子で何かをヘラクに見せる。

 騎士が見せたのは、ペンダントだ。

 雫型のペンダントは、この場にふさわしくない装飾をつけており、ただの盗賊が持っているはずがないものである。


「それは?」

「知らずともいいことだよ。

 しかし、君のおかげで目的の一つを達成できた。

 いや、一つがすでに達成されてるから二つの目的が達成されたことになるかな。

 ほら受け取っておきなさい」


 そう言ってヘラクは、腰の袋から一枚の金貨を取り出して渡してきた。


「え、そんな。

 金貨なんていただいていいのですか」

「ああ、受け取っておきなさい」

「ありがとうございます」


 僕は、素直に受け取った。

 直後後ろから衝撃を受けて地面に倒れる。


「さて、村の方々にはなんと説明しようか?」

「隠れていたゴブリンに殺されたとでも言っておけばいいだろう」


 先ほどとは打って変わって冷たい声で話すヘラク。

 そして、騎士たちの中にいなかった黒いローブの男が、僕を切ったであろう立ち位置に立っていた。


「すまない。

 しかし、これの存在を知られるわけにはいかないのでな。

 安らかに眠ってくれ」


 朦朧とする意識の中でヘラクの声が、聞こえた。

 そして、騎士団の人たちは、その場を後にした。

 僕一人を洞窟に残して。



----------



「嘘だ!

 あいつがゴブリンなんかに後れを取るわけがない!」

「そう思うのも分かる。

 我々が相手したゴブリン共は、普通のゴブリンとは違っていたのだ。

 何せ我々が追っていた盗賊団を壊滅させたのだからな」


 こういうことは、嘘に真実を交えて話すと良い。

 嘘だけを並べるより整合性がとれるからな。

 私は、この村を滅ぼしに来たわけでは無いのだ。


「とはいえ、我々の不注意で有望な少年の命を奪ってしまったことに変わりは無い。

 後日見舞金は支払わせて頂く」


 私の言葉に村の人々は、微妙な表情を見せる。

 素直に喜べ無いということは、あの少年がこの村に与えていた影響を物語っている。

 やはり、始末しておいて正解だったな。

 喋らない可能性があったかもしれないが、不確定要素はない方が良い。


「それでは」

「ちょっと待って下され」


 老人が一人、前に出て来る。


「せめて、あの子がどうなったか教えて下され。

 弔いの為にも詳しく知りたいのです」


 よほど優秀な人物だったのだろう。

 村の人たちの中には、猜疑心や不信感を持っている人が見られる。

 信じられないのも仕方がない。

 なので私は、彼らに信じてもらうためにゴブリンのことで聞いたことがある話を若干の修正を入れつつ話した。

 これで誤魔化しがきくだろう。


「わかりました。

 お話ありがとうございます。

 おい、弔いの準備をするぞ」


 立ち去る村人たち、しかしすすり泣く声もなく最初に突っかかってきた少年も大人しく引き下がった。

 そのことに違和感を感じつつも実感していないのだろうと納得しその村を後にした。

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