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騎士団と小さな英雄達

 村に来た一団は、鎧を身につけ旗を掲げていた。

 この近隣で知らない者はいない紋章が刺繍された旗だ。

 一団の中から一人の騎士が出て来る。

 その人物は、兜を外して名乗る。

 その顔は、整った美形でいかにも女性が好みそうな顔をしている。

 その証拠に村の女性陣が、息を呑むのが聞こえたぐらいだ。


「私は、黒百合騎士団団長のヘラクである。

 この村を纏める者は前に出よ」


 騎士の言葉に村長がおずおずと前へ出て来る。


「私がこの村を取りまとめている者です」

「そうか、では、用向きを伝える」

「はい」

「我らは今疲弊した盗賊団を追跡している。

 この近辺で怪しい集団を見かけなかったか?

 村の全員に聞いてくれ」

「かしこまりました」

「後、この近隣の脅威になるものに関して詳しい者と話をしたい」

「詳しい者ですか」

「ああ、どうした?」

「最も詳しい者は、年若い故至らぬ所があるかもしれませぬ」

「ほう、良いその者と合わせろ」


 

 村長は、軽く会釈すると僕の方へ視線を向ける。


「クルス、お主なら問題なくやれるじゃろ」


 村長の振りに思わず叫びそうになる。

 挨拶とかそう言うのが苦手なの知ってるだろ!


「お前か。

 この近辺に詳しい者と言うのは」

「はい」


 僕が前に出るとヘラクは驚く


「若いな」

「この子は、魔術が使えましてな」

「ほう、その年で魔術師だと言うのか。

 師は?」

「わかりませぬ」

「なに?」

「ある日突然、魔術が使えるようになったらしく。

 師という者がいないのです」

「師がいない、となるとどんな魔術が使えるのだ?」


 ヘラクの視線がこちらを向く。

 村長は、僕が答えた方が良いと判断したようで、こちらを見て言う。


「クルス答えてあげるのじゃ」

「分かりました。

 僕は鏡を出す魔術が使えます」


 僕の言葉にヘラクは困惑する。


「鏡を出す魔術か。

 聞いたことがないな。

 見せていただけないか?」

「はい」


 僕の返事にヘラクは少し驚きを見せる。


「どうしました?」

「いや、渋られると思ってな」


 ヘラクの言葉に僕は、首を傾げる。


「ははは、魔術というのは基本的に門外不出、何より使うところを見せるということを殊の外嫌うのが魔術師という印象だからな」

「そうだったんですか」


 確かに魔術を使うところを見られるということは、弱点も見せると言うことである。

 とは言え僕の魔術がバレること自体は問題ない。

 見られてもどんな魔術か分からないだろうしね。


「その事は、問題ないので見せますね」

「ああ、頼んだ」


 僕は、目の前に鏡を作り出す。

 これで見せれるものは終わりなのだけど、回りの人の視線がこちらに突き刺さる。

 しばし、沈黙の後、ヘラクが口を開く。


「これだけか?」

「はい。

 今見せる事が出来るのはこれだけです」


 幼馴染み達以外に見せれるのはこれだけである。


「今見せる事が出来るのはこれだけか。

 成る程な」


 ヘラクは、何か納得がいったように頷く。


「魔術師が、そうそう自分の手札を公開するはずが無いか」


 僕の言いたいことを汲んでくれたようだ。

 まあ、魔術師と言えば火の玉を飛ばしたり氷の矢を飛ばしたりするイメージが大きいからね。

 そういうものを使うと思っていたのなら落胆していてもおかしくはない。

 しかし、火球を飛ばす魔術を主軸に据えているのであればそれを使うことは威力がはかられるということになる。

 もしそうなれば自分の武器を教えてしまうことになり、自分の長年培ってきた攻撃方法を暴かれるということになる。

 なので可能な限り魔術を人前で使うことを避けるという結論に到るのは当然の帰結である。

 ならばこそ見せても惜しくないものを見せることにより自分が本当に隠したいものは見せないと言うことは出来るのである。

 今回の場合、隠していることはバレているが問題はない。

 隠している内容を知られているわけではないからね。


「もし機会があればお目にかけますがそれまでは」

「ああ、分かっている。

 魔術師は領地にとっての宝、延いては国の宝だからな。

 無理を言って嫌われるような事はしない。

 話が通じる相手ならば尚更にな」


 どうやら僕が思っている以上に魔術師の存在というのは重いものらしい。

 もし話が通じない魔術師がいたとして、余りにも無茶苦茶な奴ならばたとえ魔術師であっても放置するわけにはいかないだろう。

 言うなれば、一人で村程度ならば滅ぼせるし、盗賊になれば襲い放題だからな。


「さて、君には、明日斥候を案内してほしい」

「分かりました」


 道案内みたいなものだろう。


「盗賊が拠点に出来そうな場所を案内してくれ」

「盗賊が拠点に出来そうな場所ですか」

「ああ、心当たりはあるか?」

「そうですね。

 ゴブリンが住み家にしていた場所があります」

「ゴブリンの住み家だと?

 そんな所に拠点を置くか?」

「行く当てが無いなら仮宿程度には使えると思います」


 僕が言った言葉に対してヘラクは渋い顔をする。


「悍ましいな」

「おぞましい?」

「いや、何でも無い。

 しかし、ゴブリンの住み家となると臭うだろうな」

「まあ、そうですね。

 そこは我慢するでしょうね」

「まあ、そこに居るとは限らないだろう」

「そうですね」

「……他に拠点に出来そうな場所は無いのか?」

「特に思いつきませんね」

「そうか」


 険しい顔をするヘラク、ゴブリンが嫌いなのだろうか?

 それとも憎いのか?

 ヘラクは咳払いして表情を戻し村長に話しかける。


「村長、この人数が寝泊まり出来る所は無いか?」

「この人数となると私どもの家を全て使っても怪しいところですな」

「そうかでは、使っても問題ない広場はあるか?」

「それでしたら」

「そうかならそちらを野営地にします。

 案内していただけますか?」

「はい、こちらでございます」

「少年、また明日案内を頼んだ」


 ヘラクは、僕に向かって言葉を残すと村長の後をついて行った。


「格好良かったね」

「だろ、やっぱり騎士は格好いいよな」

「ヘラク様って言ってたわね」

「やっぱり強いんだろうな」

「格好良くて頼もしい」

「騎士の鏡だな」


 まだ、見たばかりだというのに鏡を持ち出すのは早いと思うよ。

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