小さな村を見つめる者 side---
その日は、宴会となり村を上げて盛大に盛り上がる。
そんな中、一つの影が盛り上がる村を覗き込んでいた。
「くそ、盛り上がりやがってこっちは命からがら逃げて来たってのに!」
男の自分勝手な呟きを咎めるものは何も無い。
苦々しく歪めていた男の顔が、次の瞬間嗜虐的な笑みに変わる。
「だが、くくくくく、楽しい時間は終わりだ
これからお前たちを待ち受けるのは絶望だ」
男は、そう呟くと踵を返し立ち去ろうとした。
しかし、目の前に小さな影を見つけて舌打ちをする。
「こんなとこまで出て来やがったのか雑魚が」
男は、そう言うと剣を抜いて小さな影に攻撃を仕掛ける。
小さな影は、その動きを見越していたように剣を受け止める。
「く、ゴブリンのくせに生意気に防ぎやがって」
男は戸惑いつつも見知った弱いゴブリンを見据える。
「はぐれか?
しかもよりによって強い奴か」
ゴブリンの見た目を考慮して目の前にいるゴブリンがただの雑魚でないと認識する。
しかし、それでも相手にするにさして苦戦しない相手であることに違いがない。
「ゴブリン程度にスキルを使うのは癪だがこんな所で足止めを食らってる方が更に癪だ」
男は、徐に構えを取ると一言呟く。
すると男の一撃は寄り鋭くなりゴブリンに襲いかかる。
しかし、次の瞬間男の顔は驚愕に歪められる。
ゴブリンも一言呟き男の一撃を止めてしまったのだ。
男は、自分が隠密していたことも忘れて叫んでしまった。
「バカな!?
ゴブリンがスキルだと!?
いやまさか、ゴブリンナイトか!
くそ、何だってんだよ!」
男の顔に焦りが見え始める。
「ちっ、仕方がねぇゴブリンナイトとは言えゴブリン如きに使いたくはねえが」
そう言って男は、剣を逆手に持つ。
そして一言呟きゴブリンに再度攻撃を仕掛ける。
ゴブリンも再び一言呟き攻撃を防ごうとするが、男の剣がゴブリンのガードをすり抜けてゴブリンに直撃する。
「手間取らせやがってさっさとずらかるか」
男は素早くその場を後にした。
その後を、幾つかの影がついていった。
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夜が更ける。
宴会も興が過ぎ終わりをむかえている。
カナタが、酔い潰れて寝転がりマリアは酒瓶を抱えて机に突っ伏している。
そしてミッシェルと姉のアリスとは、僕にもたれかかり寝息をたてている。
僕は右目の前に鏡を出して外の様子を見ていた。
僕がいじり倒した実験体たちの実動試験及び実力把握をしたかったが、相手が思った以上に弱かった。
捕まえたばかりの奴にあそこまで苦戦するのならちゃんと調整した奴には負けてしまうだろう。
あの盗賊の実力がどの程度なのか。
まあ、盗賊たちの拠点を叩けば分かることだろう。
出来れば消えても問題ない生きた人間を捕まえて色々な因子を集めないとね。
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深い闇の中男が二人洞窟の前でたき火をしていた。
傍目に見れば休んでいるだけのようにも見えるが、二人の視線は、常に森に向けられていた。
「はあ、貧乏くじを引いたな」
「そうだな、だが、幸いなことにこの辺りは何故か魔物が少ないから見張りが楽なんだよな」
「そうなんだよな。
ゴブリンの一匹見つからねえってのは逆に肝が冷えるがな」
「何言ってるんだ?
ゴブリンが居ないことに良いことはないだろう?」
「聞いた話なんだが、ゴブリン共が勢力を蓄えてる時とかこういう状況になるそうなんだ」
「おいおい、スタンビートの話か?
あれは、ゴブリンだけが見つからなくて他の奴は普通に見かけてたって話だろ?
今の状況とは違うだろ」
「それもそうなんだが」
草むらの音がした途端二人は、即座に戦闘の体勢に入った。
洗練された動きは二人が戦闘の訓練を怠らないことを示していた。
しかし、その場では戦闘の体勢に入ったことは徒労に終わった。
「待て待て、俺だ」
顔を出したのは二人が見知った顔だったからだ。
「なんだ、お前か」
「どうだったんだ?
村の状況は」
「楽しそうに騒いでやがったよ」
「そりゃ羨ましいな俺達も是非加えて欲しいもんだ」
「ははは、違ぇねぇ」
「それより問題がある」
男の真剣な様子に見張りの二人も真剣な空気になる。
「何があった?」
「ゴブリンナイトが出た」
男の言葉に見張りの二人は絶句する。
「間違いないのか?」
「ああ、スキルを使いやがった間違いなくただのゴブリンでないのは確かだ」
「成る程、だからこの辺りに魔物が少なかったのか」
「スタンビートの前兆か?」
「いや、位階が上がった奴がいたんだろう。
そいつにここの魔物たちがやられたあるいは逃げ出したんだろうな」
「そうなると村はやばいんじゃないか?」
「ああ、先にやられるとやばいな」
「じゃあ急がねぇといけねぇな。
中に伝えてくるぞ」
「任せた。
それと敵襲だ」
「ああ、急ぐさ」
見張りの一人が急いで洞窟の中に入っていく。
「ゴブリンナイトはどうしたんだ?」
「仕留めた」
「そうか、なら後ろにいるゴブリンどもは一体何だ?」
そう言われて振り向いた男は、絶句した。
「バカな」
「はあ、こっちの台詞だよのこのこ連れてきやがってこのバカが」
見張りはそう言うが、実のところそこまで責めているわけではない。
何故なら偵察に出ていた男は、自分たちの中で一二を争うほどの隠密能力が高い存在だったからだ。
彼がつけられると言うことは他の誰でもつけられていたと言うことになる。
その事実を踏まえて目の前のゴブリンたちがただのゴブリンでないということは十分に理解できた。
「ひとまず時間を稼ぐぞ」
「ああ」
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翌日、村はいつも通り平和だった。
とある一団が村に来るまでは。




