城塞町の冒険者ギルド side black
「モリモト、問題です」
「は、はい、なんでしょうか」
「町に入って一番最初にすべきことは?」
「宿探しです」
「次にすべきことは?」
「……わかりません」
ん? おかしいな?
モリモトなら分かりそうなんだけど、いや、待てよ。
「冒険者ギルドは知ってるよね?」
「え? ああ、あのごみの掃きだめ……ですよね」
なるほど「わかりません」の前の変な間はそういうことか。
「そうそう、まあ、わかってるならいいや。
ただ、その口調気持ち悪いから前のに戻して」
「わかりました」
「ん?」
「わ、わかった」
普通の何も職がない人ならば、一先ず冒険者ギルドに足を運ぶのが通例だ。
勿論、僕らは普通ではないし冒険者ギルド、なんて何でも屋になるはずがないのは少し考えればわかる事か。
その上でどうしたらいいかわからないと言った様子だ。
何、簡単なことだよ。
「モリモトが言ったことのうちの二つほど使うんだよ」
「俺が言ったこと?
……なるほどさっきのあれを使えば簡単に客は取れるな。
ただ、もう一つはなんです……なんだ?」
「資金調達が終わればこの町に用はないよ」
「なるほどな後顧の憂いがないわけか」
本職だけあって、目の色を変えた。
勿論、標的は持っている者だ。
ある程度の資金を調達するにはもってこいだろう。
とはいえ、実は冒険者ギルドにも用事はある。
「まあ、今回は、宿屋に行ってから冒険者ギルドに行くよ」
「え?」
「この町の問題点を手っ取り早く見つけるにはもってこいなんだよね」
あの組織の性質上、どうしても浮き彫りになるんだよね。
重要なことほど意外と格安の依頼で残ってしまう。
例えば、ゴブリン討伐依頼とかね。
あれが出る状況って実は意外とやばい状況なんだよね。
「問題点はできるだけ把握しておきたいんだよね。
どんな爆弾が地面の下に埋まってるとも限らないしね。
今回は、この町にどんな爆弾が埋まっている可能性があるか確かめるために行くんだ。
それと同時に宣伝もしておきたいしね」
「宣伝?」
「まあ、見てればわかるさ」
そう言って僕は宿が固まっている方に足を進める。
宿は、冒険者向けと商人向け、そして貴族向けが存在する。
僕は今回商人向けの宿に泊まることになる。
冒険者向けの宿は先払いが基本で料金の時間まで泊まることができる。
冒険者は、基本的にバカで無鉄砲な力自慢が多いため宿代を踏み倒そうとする者も少なくない。
そんな奴らが泊っている宿に泊まりたくはないし、なによりそういった宿は、冒険者ギルドの関係者が経営していることが多い。
まあ、あまりご無体なことをすると一発で冒険者ギルドから追い出されて、野垂れ死ぬか犯罪に手を出し死罪にされてしまうわけだ。
とはいえ、厄介な奴が多いことに変わりはない。
商人向けはまあ、一般向けと言い換えても良い。
大商人は大体貴族向けの宿に泊まるので、ここでいう商人向けは、行商隊向けと言っていい。
それでもぴったり宿の数が行商隊の人数と合うことがないので余ったりする分を個人で行商している者やその他一般人が使ったりしている。
貴族向けは勿論それ相応の身分がないと泊まれないしとんでもない宿泊料金を取られてしまう。
資金的に泊まれるのが商人向けと言うわけだ。
いらないトラブルもごめんだしね。
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宿は、一番最初に目についた宿にした。
料金は高くなく安くもない。
まあ、稼いでる行商人なら余裕で払える金額だ。
盗まれても問題がない荷物を宿に置いて、冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドは、見るのは二度目だけど最初に見た冒険者ギルドより立派な建築物になっている。
まあ、田舎町の支部より都会の支部の方が大きくなって当然だろう。
「さて、モリモトやることは分かった?」
分かってないのを分かってて聞いてみる。
「いや、だがいくつか心当たりがある」
「いくつ?」
「四つだ」
「いいね、言ってみてよ」
「キレイどころをそろえて来る。
子供を連れて来る。
高難易度の依頼品を持ってくる。
喧嘩を売る又は買うぐらいか」
「うんうん悪くない。
二つ目は達成してるし三つ目も準備は終わってる。
じゃああと一つは?」
「ああ、なるほど」
流石、ただの盗賊じゃなかっただけのことはある。
モリモトは、そう言うと一つの集団に近寄っていく。
一人の青年が複数の女性に囲まれたパーティーに。
あそこだけ別の意味でパーティーだけどそれを僻んでるわけじゃないよね?
「おいそこの色男」
「何だい君は?」
「冒険者ってのは、女侍らせてできる程度のお遊びだったのか聞きたくってなぁ」
「なんだと?」
モリモトの言葉を聞いた青年は頭に血が上る。
うわぁ、煽るの上手いな。
僕には真似できないな。
「いや、いいよそのまま女どもを侍らせてな。
困ったときに助けて貰うんだろう?
助けてぇってな」
「ちょっと、なんなのよあなた!」
「そうよそうよ」
「人の邪魔をしないでくれる!?」
「おいおい、お嬢さん方、そんな冴えない野郎に群がってないでちゃんと相手を探せよ。
それともお前ら他に女がいても気にしないやるだけの尻軽か?
何なら俺が相手してやろうか?」
へえ、そう煽るのならあれ出しちゃおっかなぁ?
とか考えてるとちらりとこちらを見るモリモト。
あはは、分かったよ出すよ。
結局全部使ってるね。
欲張りさんかな?
「何よ?
もしかして相手いないの?」
「可愛そうなおじさん」
「さっさとどっか行ってよキモイよ」
「へえへえ、そう言うならそうさせてもらいますよ。
情けねぇ野郎だぜ。
なあ、マリルル」
モリモトがそう言って振り向くと妖艶な美女が立っていてモリモトの言葉に同意を示すように頷く。
「ああ、情けねぇ、情けねぇ。
マリルル行くぞ。
ここは、男も女もレベル低いみたいだ」
「うん」
そう言ってモリモトはマリルルのお尻を触りながらギルドを出ようとする。
その演出は、青年に効果があったようだ。
「おい、待て!」
「何だい?
坊や?」
「俺と決闘しろ!」
「お? ちょっとは、いい顔になったじゃなねえか坊や。
それで、何を賭けるんだ?」
「俺のことはいいが仲間を侮辱したことは謝ってもらう」
「なるほど、じゃあ、俺が勝てば俺の言うことを聞いてもらおうか」
「良いだろう」
「やっちゃってマサト」
「そうよこんな奴さっさと蹴散らしちゃって」
「ああ、分かっている」
「で、決闘ってのは何所でやるんだ?
まさか、ここじゃないだろう?
俺としては構わないが」
「表へ出ろ」
「ああいいだろう」
青年がモリモトを横切り出口に向かう。
僕は、その他の人物として傍観する為に関係のない素振りを見せ野次馬に紛れ込む。
「さて、準備は出来たか?」
「ああ」
青年はそう言うと油断なくこちらを見る。
挑発を受けたにしてはやや血色が違う。
「来ないのか?
喧嘩を売ってきたのはそちらだろう?」
「喧嘩ではない。
決闘だ」
「どちらでもいいが、決闘だとすれば誰が立会人になるんだ?」
「儂がやろう」
現れたのは、2メートルを超す巨体の老人だ。
「どちら様で?」
「ただの顔役じゃよ」
「成る程ね。
それでいいだろう」
モリモトは、口元を歪ませる。
恐らくはギルドの幹部、ギルドマスターかそれに準ずる者だろう。
「それでは、決闘を始めさせて貰うがその前に其方の名前を聞かせてくれるかの?」
「モリモトだ」
「!?」
青年は何故か極端な反応を見せる。
何かモリモトっていう名前に心当たりが?
「そうか、ではこれよりマサトとモリモトの決闘を開始する!」
回りの野次馬達がはやし立てる。
どうやら目測通り有名な冒険者のようだ。
身体能力が高いのは、見て分かっていたが、決闘が始まると同時にとんでもない急加速でモリモトに近づく。
「くっ!?」
流石に面喰らったモリモトは、何とか迎撃すべく拳を振るうが、それを見てマサトは、悠々と避けてモリモトの懐に潜り込む。
『二重発剄』
マサトが手を添えた場所、モリモトの腹部に二重の衝撃音が奔る。
しかし、そういうのはあまり効かないんだよね。
「捕まえた」
「なっ!?」
モリモトがマサトの頭を掴む。
さて、こうなると勝負ありだ。
モリモトの握力は常人の力では無いからな。
人の頭なら砕ける。
「くっ」
自分の頭を掴んだ手をどうにかしようと手を掴もうとしたときにモリモトは手に力を込める。
「ぐぁあああああああ!」
マサトの取り巻きは、何が起きたか理解出来ず呆然と見ていた。
「さて、降参するなら今だぞ?
頭が変な形になる前にな」
「わ、分かった!
降参する!」
それを聞いてモリモトはマサトの頭から手を離す。
マサトはその場で崩れ落ちる。
その姿を見て取り巻きの少女達が騒がしく近寄ってくる。
「さて、約束通り言うことを聞いて貰おうか」
「……!
……分かった」
そして、モリモトは、マサト達にやって貰うことを伝える。
「……理不尽な要求なら全力で抵抗したが、そういうことなら、でも何で最初にそれを言わなかったんだ?」
「ははは、見ず知らずの奴に頼まれるより負けた奴に頼まれる方が断りずらいからな。
何でも言うことを聞くとまで言ったんだそれぐらいのことはしてくれるだろう?」
「分かったよ」
マサトは、大きく息を吐き出す。
さて、思わぬ副産物だけど力を借りられるのは大きい。
町の裏側の掌握さっさと終わらせるか。