備える
それぞれ家族の無事を確認した幼馴染み達は、この空間に用意したダイニングルームに集まった。
皆、涙目だ。
まあ、当然だろう、生きている可能性は、絶望的だったからね。
食事の準備をしつつ、それぞれが話し合う。
「クルス、他の人達は助からなかったんだよな?」
「そうだね」
「そうか」
落ち込んだ様子を見せるカナタ。
他の村人を助けることは、出来ただろう。
しかし、僕の存在を秘匿しつつとなると僕でも無理だ。
村人を全員隠すのは無理だし村人が生きていたとなるとその村人から僕の力が露呈しかねない。
しかも、折角の拠点を無くしてまで僕が生きているという痕跡を消したんだからなおのこと秘匿は守りたい。
皆には言明はしないが、秘匿を守るために同郷の者を見捨てたと言うことだ。
僕の目的の為にも皆には言わないけどね。
しんみりした空気だが、今後のことを決めていかないといけない。
「さあ、そろそろ次のことを考えていこうか」
「次のこと?」
僕の言葉にミッシェルが反応する。
「そうだよ。
皆を自由にするためにどうするか。
そして、その先も」
カナタが腕組み眉をしかめて発言する。
「冒険者ギルドに登録することは決まってるだろ」
「カナタさんの言う通り冒険者ギルドに登録して本格的に活動していくとして、どこで登録なさいますか?」
カナタの言葉を引き継ぐようにマリアが言う。
そして皆に問いかける。
「近くの町でいいじゃないの?」
「アリスさん」
「な、何よ?」
短絡的な発言をする姉さんにマリアが真剣な表情で名前を呼ぶ。
その空気にたじろぐ姉さん。
「全ての村人が死んだはずの村の生き残りが、見つかれば、狙われてしまいます。
その危険性はお分かりですか?」
「わ、分かってるわよ!」
「なので、村の近くの町で冒険者ギルドで登録するのは、良くないですわ」
「じゃあどうするのよ」
姉さん少しは考えて……。
「まず、村から近くでは駄目ですが、遠すぎるのも駄目です」
「流石に旅をするには準備が出来る状態じゃ無いからな」
「カナタさんの言う通りです」
「近すぎず遠すぎない場所、……公都なんかどうかしら!
一度行ってみたかったの」
「私も行ってみたい!」
姉さんの発言にミッシェルが反応したようだ。
よっぽど公都にいきたかったのだろうか?
「公都……公都ですか……、それは、確かに良いわね。
人が多いので紛れ込みやすいわ」
「じゃあ決まりだな」
「やったー」
どうやら方針が固まったようだ。
一旦は、公都で冒険者ギルドに登録してから冒険者ギルドでの地位を確立していくと言う方向性で良いだろう。
ならば、僕のやることは公都で幼馴染み達の活躍出来る場を提供することだ。
「取り敢えず今日は休んでいくといい」
「ああ、そうする」
「そうさせてもらいます」
「ねえ、クルス」
「なんだい姉さん?」
「食事はどうするのよ」
思ってもみなかった質問に少し面食らう。
「くふふふふふ」
「何笑ってるのよ」
「いや、ごめんよ。
何だか分からないけど面白くてね」
「何が面白いのよ」
確かに何が面白かったのか分からないけどでも面白かった。
「さあ、僕にも分からないよ。
まあ、そんなことより食事だったね。
村の備蓄の一部を倉庫に移してある。
そこから必要な分調理すればいい。
母さんたちにやってもらおう。
作業すれば多少は気が紛れるかもね」
「そうね。
それがいいわ。
みんな、お母さんたちにお願いしましょう」
「ああ」
「ええ」
「うん」
マリア以外ダイニングルームから立ち去った。
何故マリアが残っているかというと彼女の親は、村長だからだ。
そして村長はここには居ない。
「僕は、やることがあるから後は頼んだよマリア」
「はい。
因みにやることと言うのは?」
「僕を殺した相手を調べる」
僕の言葉を聞いてマリアが不安そうに尋ねてくる。
「それは、復讐をするという事ですか?」
「いや、復讐なんて非効率なことはしないさ」
「そうですか。
よかった」
「よかった?」
「ええ、幼馴染みが復讐に走る姿は見たくないですから」
「マリア」
「何ですか?」
「やっぱり変わってるね」
「……クルスには言われたくありません」
口を尖らせるマリアに思わず口角が上がってしまう。
「まあ、お互い変わってるということで」
「ではそれで」
マリアも釣られるように口角を上げる。
「さて、出るとするか」
「あなたが居ない間あなたに用事かある場合、使い魔に伝えれば良いかしら?」
「うん、それで僕に通じるよ」
「では、何かあったら使い魔からお伝えします」
「よろしく」
さて、食事の時間だ。
-----
食事も終わりちょっとした落ち着きをみせたところでそれぞれ親に話し始める。
勿論、僕と姉さんの親にも話をする。
「冒険者か」
「うん、このままみんな隠れて生きていくのは難しいからみんなが安心して暮らせる土地を手に入れるの」
「それは、冒険者じゃなくてもいいんじゃないか?
商人とかでもお前たちなら十分稼げると思うが」
「それでは駄目なんだ。
英雄になる必要があるから」
「英雄?
それならなおのこと冒険者は駄目なんじゃないか?」
冒険者の印象は暴力的な者たちの集団と言うのが実情だ。
勿論中には英雄的な者もいるが、ほとんどの場合粗野な冒険者しか会うことはない。
「大丈夫だよ。
英雄は想像みたいなものだから。
活躍すれば誰にだってなれるんだよ。
ある条件を満たせばね」
「ある条件?」
「吟遊詩人だよ」
「吟遊詩人?」
吟遊詩人と聞いて父は眉を顰める。
当然だろう、吟遊詩人なんて歌を歌うだけで色々物を要求してくる奴らと言う認識だ。
まあ、情報を売っているという感覚を持つのは不可能だろうけどね。
大体行商人から話を聞かされるし必要ないというのが実情だろう。
「彼らの力を借りるんだ」
「よく分からないが、あいつらが力を貸してくれるのか?」
「大丈夫だよ」
「そうか、クルスが言うのなら間違いはないだろう」
僕と父と話している間、姉さんと母が話をしていたようだ。
食事を終えた僕は、席を立つ。
「それじゃあ、僕はやることがあるから。
姉さん後はよろしく」
「分かったわ。
気を付けるのよ、クー」
「うん」
「クルス」
父の声に振り向く。
「何?」
「俺に出来ることはあるか?」
出来ることは特にない。
いや、食料調達に薬草集めなんかも出来るね。
……商人を利用できないから調味料なんかが手に入らないね。
勿論、身バレのリスクがある買い出しなんて以ての外だし。
「当分の間は森で食料調達や薬草集めして貰うのが無難かな」
「いいのか?」
「勿論、人に見つからないのが、条件だけどね」
「分かった」
この場所は、ある程度整備が整っては居るけれど何時、新しい人達が送られてくるか分からない。
領主としても焼け落ちたとはいえ、ある程度整備された村をそのまま放置すると言うことは無いと思う。
「その内、皆移動をして貰うからそのための準備、そうだね。
防寒対策や野営の準備もしてくれると助かるよ」
「そうだな、いつまでもここに隠っているわけにもいかないからな」
父の言葉に頷く。
「新しい場所の下見とか、森で手に入らない物は僕たちが調達してくるよ」
「分かった」
「クルス」
母の声にそちらを見る。
「あなたが、無事で本当に良かったわ」
「ありがとう母さん」
「あの騎士団の人達は、あなたがゴブリンに殺されたといっていたけれど実際は何があったの?」
母の言葉に皆がこちらを見る。
「僕は、あの騎士団の人の人に殺された訳では無いよ」
「そうなの?」
「うん、あれは、そうだね。
どちらかと言えば暗部に所属する者、まあ、あのヘラクという人と面識があるから、全くの無関係では内だろうけどね」
「そう、なの」
複雑そうな顔をして母は、立ち上がりこちらに来る。
「うぷ」
「けれど、本当にあなたが無事で良かった」
久しぶりに感じる母の香り。
その優しさに包まれながら凄い顔でこちらを見る姉と父にどうしたものかと思考を巡らせるのだった。