霊獣と契約
「ああ、君たちにはまだ教えてなかったかな。
必要になるのはまだ先だと思っていたからね」
「私は、知っております」
マリアが少しの優越感を見せつつそう口にした。
いつの間に知ったんだろう?
「ああ、そうかマリアは知ってるんだったね。
ただ、今回は契約方法が特殊だから契約の話もしっかり聞いてね」
「分かりました」
クルスのことを何か知っているようなマリアの反応にモヤモヤする。
「一先ず孵化するね」
クルスの言葉の後、黒い玉改め黒い卵が動き始める。
パキパキと音がしたかと思うと黒い玉がボロボロと崩れていき中から額に宝石が埋まっている可愛い小動物が姿を現した。
見た目は兎に見えるが兎にしては胴長で耳も短い。
体毛が黒く体重は軽いが、黒い卵の時より重たい。
しかし、もふもふしていて卵の時より触り心地が良い。
とても生まれたてとは思えない触り心地だ。
「かわいい」
「これがクルス使い魔ってのは分かるが、霊獣ってこんな感じだったのか?」
ミッシェルは、素直な感想を口にしてカナタは疑問に思った事をクルスに尋ねた。
「その疑問も最もだね」
黒い卵から出て来た小動物が口を開く。
「さっきも言ったとおりこの子は僕と君たちとの連絡方法であり僕の使い魔として、契約した霊獣なんだよね。
使い魔としての性能を優先してるから戦闘能力は低いんだよ。
その代わりに皆と契約できるだよね」
「そもそも霊獣って複数の人と契約できるものなの?」
ミッシェルが首を傾げつつ尋ねる。
確かにお話に出て来る霊獣は、殆ど契約者は一人だ。
「そうだね。
あまり知られてないけども一匹の霊獣に対して複数の契約者が存在することは出来る。
まあ、霊獣が契約を複数持ちたがらないから早々ないことだけどね」
「何でなの?」
「理由はいろいろあるけど、最も多いのが守る対象が増えると事を嫌がるからかな」
「一ついいかしら?」
「いいよマリア」
「霊獣と契約するときには、大抵何かしらの対価が必要になるらしいのだけど私達は何か対価を支払う必要があるのかしら?」
マリアの言葉にハッとさせられる。
確かに話の中に出て来る霊獣は、様々な物を主人公に要求する。
その要求が話を面白くするのだけどやっぱり中には法外な要求を受けたり要求のせいで酷い目に遭ったりするので余りいい印象がない。
「そこは、心配する必要はないよ。
霊獣と言ったけれどさっきも言ったとおり僕の使い魔だからね。
僕が命じれば誰でも何人でも無条件で契約出来る」
それを聞いて安心した。
「それで、契約ってのはどうすればいいんだ?」
腕を組んだカナタが首を傾げる
それは私も知りたいことだ。
「それは簡単な事だよ。
この子とキスすればいい」
その言葉に私は、硬直した。
そして、意外な事に真っ先に反応を示したのは契約の事を知っていたはずのマリアだった。
「キ、キスですか?」
「ああ、口と口を合わせるだけだ。
簡単だろう?
ん? そう言えばマリアは契約の事を知ってたんじゃなかったっけ?」
「私が知ってる契約はその何というか。
もっと深い関係になるのかと」
顔を赤くしたマリアがもにょもにょしながら言う。
「ああ、そうか。
あまり知られていない情報だったね。
確かに普通はそうなんだよね。
よっぽどの事がない限りマリアが知っている契約の交わし方を霊獣側が要求する」
「それって何なんだ」
カナタが、不思議そうに尋ねた。
私は、何となく分かった。
ミッシェルも不快そうにしている辺り予想がついているようだ。
「カナタ、魔力を交換する方法があるのは知ってるかい」
「いや、それが契約に関係しているのか?」
「ああ、これは幾つかある。
キス、ディープキス、○ックスそして、魔力循環法を会得する……」
「魔力循環法ってなんだ!?」
「そこに食いつくんだね。
予想通りだけどもう少し話がそれるが、まあ、いいか」
カナタのずれた発言に呆れつつクルスが、言葉を続ける。
「魔力循環法は、習得してもカナタは滅多に使わないだろうから教えてなかったんだ。
教えるのは良いけど使える場面が限られ過ぎていて覚えるだけ無駄だと思うけど」
「教えてくれ!」
「いいよ、今はまだ無理だけどね」
「いつなら良いんだ?」
「僕が教えたことを完全に物にしたら教えてあげるよ。
カナタが覚えるにしても優先順位が低いからね」
「分かった」
カナタが落ち着いたのを確認したクルスは、皆を見回して尋ねる。
「それで、他に質問は?」
クルスが皆に聞くとマリアが質問する。
「契約する事によりデメリットは発生しますか?」
「ああ、そうだね。
一応僕がいれば無視出来るデメリットだけど
契約すると他の霊獣が契約しにくくなるということがある」
「なんで?」
ミッシェルが疑問の声を口にする。
「霊獣は、独占欲が強い奴が多くてね。
他の霊獣と契約している者と契約したがらないんだ」
「他に契約したい子がいるなら契約しない方がいいってこと?」
「ああ、その通りだよ。
ミッシェルは、契約したい霊獣がいるのかい?」
「うん」
「へえ、そうか。
ならその霊獣と契約してから僕の霊獣と契約するといい。
その方が円滑に契約を進められそうだ」
「分かった」
「他には?」
「これも今回は無視できるけど、霊獣と契約するには、所謂魔力が必要になる」
「何で無視できるの?」
「魔力的負担は僕が全て受け持ってるからだよ」
「ええ、そんなの悪いよ」
「気にしないで、魔力の消費はたいしたものじゃないから」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ」
「あの」
マリアが、手を挙げて質問がある意を示した。
「なんだいマリア」
「私もユニコーンの霊獣と契約したいのですが、それでも大丈夫ですか?」
「ユニコーンか、成る程、それは流石にややこしいね」
「何がややこしいの?」
ミッシェルの疑問の声にマリアが答える。
「ユニコーンはね、純潔を求める霊獣なのだから他の霊獣と契約していると契約出来ないのよ」
「まあ、僕の使い魔はいつでも契約出来るしユニコーンと契約してからにした方がいいね」
「分かりました」
「さて、どちらから僕と契約する?」
私は、真っ先に手を挙げた。
「俺は後でいいよ」
「分かった。
じゃあ、姉さん準備をするから少しだけ待って」
「うん」
クルスがそう言うと私と黒い霊獣を中心に魔方陣が展開される。
「皆は、少し離れてて」
クルスの言葉に皆従って下がる。
「さあ、姉さん準備は出来たよ」
私を見上げる霊獣を私の目の前まで持ち上げる。
そして霊獣と口づけする。
周囲が明るくなり口から何か熱のようなものが私の中に入ってきた。
いつまでこの状態でいたらいいのか分からないためしばらくこの状態を維持する。
すると私の腕に小さい手が置かれる。
私は、霊獣との口づけを止める。
いつの間にか私と霊獣を中心に展開していた魔方陣はなくなっていた。
「これで、契約は完了だよ」
「特に違いがないんだけど?」
「まあ、この霊獣の能力は後で話すよ。
次はカナタだね」
クルスの言葉にカナタは、少し思案顔をした後、
「俺は、魔力循環法を会得してから契約する」
と、口にした。
「ん?
そうか、まあ、姉さんと契約出来たから姉さんの近くに居ればサポートは出来るけども良いのかい?
霊獣との契約は、冒険者になる上で看板になると思うけど」
「それは、アリス一人で十分だろ」
「一緒に行動するのであればその通りだよ」
「なら問題ない」
「カナタがそう言うなら契約しないでおこうか」
カナタが何を考えているか分からないけど、クルスを、霊獣を独占出来るのは嬉しい。
「それじゃあ、ここでやることはもうないから村に戻ろうか。
多分皆に心配されてるだろうしね」
クルスの言葉に私達は賛同して洞窟を出た。