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動き出す鏡魔術師

 さて、これで村に戻る必要はなくなったわけだ。

 僕は死んだ。

 身元がばれる心配はない。

 村を消す以外には一番いい方法だろう。

 幸い証人は、身分の高そうな()()()だ。

 しかし、このまま消えるのは、幼馴染達や姉が少し不憫に感じるので、一つだけ置き土産を残しておこうか。

 彼らが進むべき道を示してしまうことになるが、気にするには彼らを弄り過ぎた。

 まともな生き方はできないだろう。

 だから、示すのは方向性、僕が進む道とは違う道を進んで欲しい。

 楽しい時間をくれたあいつらに贈る僕からの栄光への線路。

 まあ、使うかどうかは結局あいつら次第だけど。


 さて、次にやることは、拠点の確保。

 これは、どこでもいいが、せっかく村の人たちとの縁を切ることができたんだ。

 村の人たちに気づかれないようにしたい。

 ならば、この村から遠く離れた地がいいだろう。

 他国ならば、僕が僕であるということがばれる可能性もかなり低い。

 ただし、他国で拠点を確保するのはかなり難しい。

 身元を保証する物が何もないからね。

 なので、他国で活動するための資金が必要になる。

 資金を集めるには、知名度が必要だ。

 しかし、僕は知名度に振り回されたくはないので、資金を集める身代わりを立てる必要がある。

 資金を提供してくれる身代わりは、僕の言うことに絶対服従でなければならない。

 だから使うのは、先のゴブリンたちで捕まえた盗賊達。

 個体能力が高めなので、ある程度の強引な調整もできた。

 その中の一人、リーダー格の男は、精神的ダメージを最低限に抑えた存在だ。

 カリスマ性と言うのは大事だ。

 調整しにくい部類のステータスなのでできるだけナチュラルで使いたい。

 そのための精神ダメージ調整だ。


「久しぶりだね」

「……」


 調整失敗したかな?


「どうしよう喋ってくれないと廃棄処分になるんだけど」

「お、おう」


 慌てたように声を出す男。

 なるほど、危機管理能力はちゃんと生きてるようだ。


「最小に抑えたと思うんだけど影響が大きいかな?

 仕方がない僕からの質問には答えられるかな?

 勿論、どんな回答しても問題にはしないよ」

「……分かった」

「じゃあいくよ?

 君の名前は?」

「ディムルグだ」

「君は、なんで盗賊になったんだい?」


 僕の質問に男は、少し考えそして答える。


「……俺が所属していた騎士団が貴族どもに潰されたからだ」

「へえ?

 その貴族に仕返しできるならどんなことができる?」


 僕の言葉に目を見開くディムルグ。

 しかし、次の瞬間に剣呑な目つきになる。


「何でもやってやる」


 それはいいね。

 目標があるなら僕のやりたい事を前向きに手伝わせることができる。


「なるほどね。

 それじゃあ次の質問。

 思いつく限りでいいから金を稼ぐ方法を教えて」

「……そうだな、金を持っているところから盗むとか」


 不安そうに答えるディムルグ、けど君が知ってる金を稼ぐ方法はそれだけじゃないよね?


「他には?」

「……」


 僕の言葉に男は顔を青くする。

 思いつかなくて焦っているのかな?


「どんな方法でもどんな身分でもいいから何かない?

 ほら、自分がお金を払った人物を思い浮かべて」

「……娼婦だったら体を売ればある程度稼げる」

「他には?」

「腕っぷしに自信があるなら傭兵がいい」

「他には?」

「商人が、物を売って儲けている」

「他には?」

「貴族どもが、平民から金を巻き上げている」

「他には?」

「聖職者どもが、神への信仰心と称して金を巻き上げている」

「他には?」

「……これ以上は思いつかない」


 絶望した顔を見せる男。

 まさか処分されるとでも思ったのかな?

 あるいは、その可能性が頭をよぎっているのかも


「わかった。

 それじゃあ、街に行こうか」

「……街に?

 いや、そうだな」


 まあ、頭の回りは悪くない。

 取り合えず近くの町を掌握して資金を集めるか。



----------



 着いたのは、村から一番近い町だ。

 特徴は城壁に囲まれていて、周りに堀が掘られている。

 この町は、軍事的要衝の一つで、ここにいる領主はそれなりの地位にいる。

 先の僕の村に現れた騎士団もこの領主の騎士団だ。


「な、なあ、まさかこのまま入れってのか?」


 ディムルグが、困惑したように尋ねてくる。


「いや、勿論変装するよ。

 今や僕も表で生きていけなくなっちゃったからね。

 ……ああ、名前もそのままじゃまずいな。

 モルモット、モルモト、モリモト、うん、モリモトで行こう。

 これから君の名前はモリモトだ」


 不服そうな顔を見せつつも僕に逆らう気は全くないモリモトは少し嫌そうに頷く。


「あ、ああ、分かった。

 それで俺はお前をなんと呼んだらいい?」

「好きに呼んでよ。

 名前は作らない方がいい」


 僕が僕であることを特定される要因だからね。

 他にも理由はあるけど言っても詮無き事。


「そ、そうか、なら少年とでも呼ぼうか?」

「いいよ」

「じゃあ、少年これからどうするつもりだ?」

「ひとまず鏡の前に立って」


 僕の言葉に顔を引きつらせ出てきた鏡を見て顔を青くするモリモト。


「大丈夫鏡の中に入る必要はないから。

 鏡の前に立ってくれるだけでいい」


 渋々と言った感じでモリモトは、鏡の前に立った。


「じゃあ、せっかくだしイケてるおじさんにしちゃおうか」


 僕の言葉を理解してるかどうかわからないが、みるみる鏡の中の自分の顔が変わっていくのを見て後ろに引き下がるモリモト。


「こ、これは」


 モリモトのいかにも盗賊団の頭を張ってますと言ったいかつい顔が、やや影のあるあごひげのおじさんにクラスチェンジした。

 モリモトは慌てて自分の顔を触るが、触って気が付いたのだろうもはや前の自分は存在しないのだと。


「なに、もともと仕込んでいたギミックの一つだよ。

 君に権限は与えてないけど自分の顔や体格を鏡の前で自由に操る事ができるんだ」


 僕の言葉に絶句しているモリモトにさらに情報を与えてやる。


「大丈夫、君が裏切ったりしないよう自爆システムも搭載しているし裏切らない限り君を助けてくれるギミックがたくさん仕込まれているから安心してくれ」


 あ~あ、せっかくのイケメンが台無しだよ。

 なんだよそのあんぐりした残念な絶望顔は、大丈夫、世界はそんな簡単に終わらないよ。


「さて準備はできたね」

「あ、ああ」


 あれ?

 なんで、そこまで精神ダメージ受けてるの?

 また調整ミスったかな?

 まあ、いいか。

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