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残された卵たち sideアリス

 クルスの死をどうしても信じられなかった私たちは、騎士たちが行っていたであろうゴブリンの巣に再び訪れていた。


「本当に生きてると思うか?」


 カナタの質問にミッシェルが反応する。


「本当に死んでると思うの?」


 私たちみんなが、分かり切った問答。

 カナタも分かって聞いているのだろう。

 騎士が言うのであれば、普通はそれが本当のことだ。

 もし間違いであったとしてもそうでなければならいない。

 ただし、私の弟は、そうではない。

 私たちの中でも一番強くすべての能力において勝っているあの子が、ちょっと変わっている程度のゴブリンなんかに殺されるはずがない。

 ドラゴンに殺されたと聞いても私は信じないだろう。


「ほら、もうすぐ最深部だよ」


 腐臭が漂う洞窟の中、ミッシェルの風の結界により難なく最深部までたどり着く。

 もしも、本当にあの子がこの中で死んでいたらあの騎士たちはいつかそれ相応の死に方で殺してやる。

 ほんの少しの私の心配を肯定する証拠は見当たらなかった。

 最後に確認することは一つ。


「マリア」

「大丈夫よ

 クルスの霊は見えない」


 マリアの言葉を聞いて胸を撫でおろす。

 マリアの魔法は、表立って使えることは少ない。

 さらに普段使いすることもできない。

 ただし、こういった死に関することを調べるにはとても扱いやすい能力だ。


「寧ろ、ここには霊が一つたりとも残ってない」

「そうでしょうね」


 死体が沢山あるにもかかわらず死霊が出ないこの空間。

 死霊を他の場所に移したり消したりする死霊術師や祈祷師がかかわっていたとしても死霊の類が一切いなくなるというのはありえない。

 

 つまりこの場所は、あの子が用意したということ。

 そしてそのことはあの子によって制圧が完了しているということになる。

 よって制圧が完了しているこの領域でゴブリン程度の雑魚相手にあの子が殺されるはずがない。

 やはり自分たちの手で殺しておきながらゴブリンの仕業だとのたまっていたのか。

 あの子が死んでいないとはいえ、あいつらがあの子に危害を加えたことに変わりはないだろう。

 私の中で沸々と湧いてくる熱い感情に呼応してか、目の前の死体たちが起き上がってくる。

 私たちはとっさに警戒する。

 が、すぐにそれがあの子の仕業であるという結論に至り警戒を解く。

 そのうちの一つ、生前戦った呪術師のホブゴブリンが口を開く。


「ここに来た以上お前たちは気が付いているだろうが、あえて伝えておく。

 僕は生きている。

 これも一応計算の内だから余計な心配はしなくていいよ」


 よかった。

 計算に入っていたのなら仕方がないけどあいつらは見逃してやっても……。


「ただし、当初のプランだった君たちとの冒険者生活は無しになってしまった」


 ……やっぱりあいつら殺す。


「とはいえ、君たちには連絡方法を渡しておきたくてね。

 こうやって仕掛けを組んでいたんだ」


 そう言うとホブゴブリンは杖で地面を突く。

 すると黒い魔方陣が展開する。


「これから出てくる黒い玉の中には僕の使い魔が入っている。

 その使い魔を使うかどうかは任せるよ」


 ホブゴブリンがそう言うとホブゴブリンの杖の先に黒い玉が現れそれに飲み込まれていった。

 そして散らばっている死体がホブゴブリンを飲み込んだ黒い玉に飲み込まれた。

 私たちには、影響がなかったもののもしあれに巻き込まれたりしたらと思うと背筋に冷たいものが奔った。

 すべてを吸い切った黒い玉は地面に落ちる。


「あの黒い玉の中に使い魔が?」


 マリアの疑問の声を気にすることなく私は、黒い玉に近づく。

 そして拾い上げる。


「触って大丈夫なのか?」

「ええ、問題ないわ」


 私が持っているとのを見た三人は、物珍しそうに黒い玉をさわり始めた。


「つるつるしてる」

「思ったより堅そうだな」

「まるで何かの卵みたいね」


 ミッシェル、カナタ、マリアが感想を述べる。

 三人が私を見て感想を催促してきた。


「何が出て来ても私は愛するわ」


 私の感想にミッシェルは呆然として、カナタは肩を揺らして顔を背けマリアがため息をついた。


「クリスさん、それは感想ではありませんわ」

「ある意味いつも通りだな」

「……」

「失礼な、催促してきたのはそちらでしょう」

「クリスさん、もう一度言いますわね。

 それは感想ではありませんわ」


 ぐうのねも出ない。


「それはさておき、どうやったら使い魔が出て来るのかな?」

「魔力を流し込んでみるとかどうだ?」

「それはやめて欲しいな」

「じゃあ、叩き割ってみるとか」

「絶対にやっちゃダメだよ」

「そう言うなら何か他に方法があるのか?」

「カナタ、誰と話してるの?」

「誰って……、誰だ?」


 カナタの言葉に返事をしていたのは、私たちの誰でもなかった。


「ここだよここ、カナタの手の中にある黒い玉だ」


 その言葉に私たちの注意が玉の方へ向かう。


「そうそう、この黒い玉だよ」


 暫くの間の後、私は尋ねる。


「クルス?」

「ああ、そうだよ」

「よ、よかった~」


 私は、思わず安堵の言葉を口に出していた。

 はっとして、周りを見ると幼馴染み達が微笑ましそうに私を見ていた。


「え、えっと、べ、別に心配なんかしてないもんね」


 気恥ずかしくなった私はただ誤魔化すことしか出来なかった。


「よかったね」


 マリアが、私の頭を撫でてくる。

 私は、黒い玉を持っているため抵抗が出来なかった。


「止めなさいよ。

 最初からクルスが生きてるなんて分かってた事じゃない」

「そうね。

 頭で分かっていても身内が死んだと聞かされれば誰だって心配になるわよ」


 マリアの言葉にカナタもミッシェルも頷いていた。


「皆、心配かけてごめん」


 黒い玉からまた声が聞こえてきた。

 落ち着いて話してはいるが本当に迷惑を掛けたかのような言い方だった。


「謝る必要はねぇよ。

 クルスがやることには理由が無かったことないしな」

「そうよ、そもそもクルス以外だったら本当に殺されてたかもしれないし」


 カナタとミッシェルは、クルスの謝罪を流した。

 まあ、私とマリアも似たような感想だつた。


「他の皆だったら死にはならなくともややこしいことになっていたのは確かだね」

「ややこしいこと?」


 ミッシェルが聞き返した。

 自分の意見が取り上げられたからか反応が早い。


「ああ、殺される振りまでは出来ないだろうから戦闘になっただろうね」

「成る程、なにかクルスが殺される必要があったって事?」

「どういうこと?」


 マリアが、何かを理解してクルスに尋ねた。


「この洞窟で騎士達は、私達のような庶民に見られてはまずいものを回収したと言うことでしょう?」

「そうだね。

 何を回収したかは敢えて言わないよ。

 知らない方がいいタイプの情報だしね」

「分かりました。

 それで、私たちはどうすればいいでしょうか?」

「そうだね。

 僕の計画では、冒険者として、対魔物戦力として、戦って貰う予定だったけど、僕が近くに居られない以上君たちの自分の意思で決めて欲しいな。

 なりたいものがあるならそれになれるようサポートするしね」


 なりたいものそんなこと考えたことはない。

 ずっとこれからもクルスについて行けば良いと思っていたから。


「じゃあ、冒険譚に出て来るような勇者になりたいって言ったら手伝ってくれるのか」

「ああ、その通りだよカナタ」

「よっしゃ、クルスの力があればなれたも同然だぜ」

「……まあ、なれるかどうかは保証しないよ」

「ん?

 当然だろなるのは俺なんだから」

「分かってるなら良いよ」

「お、おう」


 カナタは、頭が軽いけど芯をしっかり持っているから勇者になれるだろうね。


「私、クルスと一緒に居たい!」


 ミッシェルの言葉に私は、思わずミッシェルを睨んでしまう。


「クリスもそうだよね」


 ミッシェルは、睨み返しながら私に返事を要求する。

 私の答えは当然、はい、なのだが、クルスに嫌われたくない私は、回答に窮した。


「そうかい?

 それは困ったな。

 勿論、僕だって君たちと一緒に歩を進めたいけど先にやらなくちゃいけないことがあるしな」

「やらなきゃいけないこと?」

「ああ、まずこの領地の支配者である伯爵を抑えないといけない」

「抑える?

 殺すとかじゃなくて?」

「姉さん、殺意を抑えてね?

 流石に領主を殺すとなるとそれなりの労力が必要だし今の領主は有能な人物だからね。

 殺すのは色々な面でマイナスなんだよ」

「……そう」


 クルスが言うなら仕方が無いわね。

 せめてあの騎士は殺したいな。


「ああ、あの騎士も殺してはダメだよ」


 ドクンと心臓が跳ね上がる。


「姉さん、何年僕と一緒に暮らしていたか忘れたのかい?

 表情を見なくても大体想像がつくよ」


 心を読まれた悔しさと自分を理解してくれているという安心感が混ざって複雑な心境になる。

 そんな私の心境はさておき私の抱えている黒い玉が動いたように感じた。


「さて、話の区切りも良いところで始まったな。

 名前は好きに付けてくれて構わない。

 一応、霊獣と呼ばれる存在とほぼ同じだから追々契約とかしていこうか」


 クルスの言葉に私達は、顔を見合わせた。

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