小さな村の小さな英雄達
作品整理の為の放出作の一つです。
誰もいないはずの森の中、色とりどりの花に囲まれバスケットに入った小さな赤子が楽しそうに空に手を伸ばしていた。
笑い声を上げながら何かを掴もうとしているようだ。
そんな赤子の近くの草むらが揺れる。
そして、一匹の兎が跳びだしてきた。
兎は慌てた様子で赤子を跳び越え反対の草むらに飛び込んだ。
兎に遅れて一人の男が草むらから出てくる。
「しまった逃がした。
ん?
なんでこんな所に赤子が」
そう言って男は赤子の入ったバスケットをのぞき込む。
赤子は楽しそうに笑い男性の顔を触ろうと手を伸ばす。
「可愛い子だ。
こんな所に捨てるなんて、お前の親何を考えているだ?」
男は、手を伸ばしてくる赤子を抱き上げる。
「しかし、ここは不思議な場所だな、秋先なのに春の花も生えているなんて、まさかお前さん妖精の子じゃねえよな?」
赤子に言葉が分かるはずがないのは分かっている。
しかし、あえて男は赤子に尋ねる。
「家に来るか?」
男は、赤子の笑い声が喜んでいるように思えた。
男は、季節柄でない花を赤子のバスケットに入れてその場を後にした。
男が立ち去る後ろ姿を赤い瞳が見送るのを知らずに。
ワオーン
「お母さーん」
少女が、遠くから聞こえる獣の声に怯えて母親に甘える。
「今日は随分近いわね」
慣れた様子でそう言う母親は、若干不安そうな表情を作る。
しかし、子供が見ている事を思い出したようでこれではいけないと首を振り自分の頬を両手でムニムニして笑顔にする。
「何それー?」
「お呪いよ。
困ったときにこれをするといいことがあるのよね」
「そうなの?」
「うん」
「私もやってー」
「いいわよー。
ほれほれー」
母親が娘の頬をムニムニとして遊んでいると扉が開く音がした。
「あら、お父さんが帰ってきたみたいね」
母親の言葉を聞き不安だった娘は父親を出迎えるため部屋を出る。
母親もゆっくりと後に続いた。
「お父さんおかえりー。
何持ってるの?
お花?」
娘が尋ねると父親は首を縦に振る。
「そうだ。
珍しいだろう?
これ全部同じ場所に咲いていたんだ」
そう言って娘にバスケットを見せるように置く。
「それにこの子もその場所にいたんだ」
花の山に埋もれていた赤ちゃんは、すやすやと寝息を立てていた。
「赤ちゃんだー」
「あなた?」
何とも言えない雰囲気を醸し出して娘の言葉が聞き捨てならないと言葉を発しながら母親が遅れてくる。
「待て待て、落ち着け。
この子は本当に森の中で拾ったんだよ。
この季節に咲く花じゃない花畑に居たんだよ。
ほらこの花見てよ」
慌てたように弁明する男。
その男が差し出す花を見て少し驚いた表情を見せて夫の言葉を信用したのか安堵のため息を吐く女性。
「それで、どこで拾ってきたの?」
「どこでって言われても森の中としか」
男が答えに窮していると赤ちゃんが泣き始める。
「何々、どうしたの」
真っ先に反応したのは母親だった。
「たぶんお腹すいたのね。
どうしようかしら、私の母乳はもう出ないし」
「隣のドノヴァンの嫁に頼もう」
女性の言葉に男性が提案をする。
「そうね。
丁度いいかもしれないわ」
女性は男性の提案を受け入れる。
「私も行く!」
少女の言葉に母親は嬉しそうに頷く。
「貴女の妹、いえ弟かしらちゃんと見守ってあげてね」
「はい!」
そんな二人の様子を微笑ましく男性は見ていた。