動機
春花の発言によりオルガ伯爵のアリバイが立証された。犯人の候補はバロンド公爵かピエールのどちらかになった。
「あの主人はわたくしと踊っておりました。それに落雷があった時もわたくしの傍におりました。」
公爵夫人が証言する。
「ちょっと待って下さい!!それではまるで僕が犯人みたいじゃないですか。」
ピエールが立ち上がる。
「そうじゃないのですか。」
ナターシャが冷たく刺すようには発する。
「だってあなたは婚約者でありながらお嬢様には嫌われている。お嬢様はオルガ伯爵が好きなんですもの。」
「そうだったのか?」
オルガ伯爵はキララの気持ちに気付いていなかったようだ。
「それが面白くなくてお嬢様を殺した。違いますか?動機としては十分ですよ。」
「ナターシャさん、確かに貴女の言う通り僕は彼女がオリガ伯爵に気があることは良く思っていなかった。だからちょっと意地悪してやった。ダンスの最中に耳元でこう言ったんだ。彼は君の腹違いの兄だと。当然僕が考えた嘘だが。だけど僕は殺してはいない。大体僕は落雷があった時僕は広間にいましたよ。」
「カサンドラさん、落雷で灯りが消えてから復旧までどのくらい時間がありましたか?」
刑事がカサンドラに尋ねる。
「そうですね、私達が部屋にランプを取りに行って戻ってくるまで20分くらいでした。」
「ちなみに広間から中庭までの距離はどのくらいですか?」
「広間のすぐ裏の扉から出られるので1分ときりません。」
「でしたら暗闇の中お嬢様を庭園に連れ出して泉に溺死させることは可能ですよね?」
ナターシャがピエールを責める。
「そういう貴女こそどうなんですか?キララさんは貴女に自分の振りをさせ自分は外に遊びに行ってばかり。昨日も。日々の不満がたまって殺したんじゃないですか?」
「それは違います。先ほど奥様だっておっしゃってたじゃないですか。お嬢様がいなくなった時は女性達は広間で待機していたと。カサンドラさんやメイド達は多少の出入りがあったかもしれませんけど。」
ナターシャはカサンドラに目をやる。
「ちょっと待ってくれないか?」
ピエールが不思議そうに尋ねる。
「奥様は先ほど男性陣が捜索の最中にとおっしゃりました。つまりそれは犯行時刻ではない。つまり女性陣達にもアリバイはないってことですよ。」
その時
「失礼致します。」
刑事の部下の一人がやてきた。
「被害者の腕にこのようなものが。」
懐中時計であった。刑事は時計の裏側を見る。
「ピエールさん、これはあなたの物ですね。ご動向願います。」
ピエールは容疑を否認しているが連行されていく。事件は幕を降りた。
「春花さん」
春花に声をかけてきたのはオリガ伯爵だ。
「先ほどはありがとう。私を庇ってくれて。良かったらお礼がしたい。」
オリガ伯爵が紅茶とお菓子を用意すると言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
「さあ、どうぞ。」
伯爵の部屋へと入る春花。
部屋には2人の少女が写る写真があった。1人はどことなく似ている。
「可愛いだろう。私の妹だ。」
春花は背後から抱き締められると体ごとベッドの上に放り込まれる。
「きゃっ!!」
「私のことを慕っていつも後をついてくる子だったよ。お姉様大好きって言って。」