ミモザの言い伝え
その頃バロンド公爵家の別荘では。
「キララ、いるのかしら?」
キララの部屋の前で母のバロンド公爵夫人がドアをノックする。部屋に入ろうとするが鍵がかかっていてドアが開かない。
「キララ、ドアをお開けなさい。」
「お母様、私今は体調が優れませんの。コンコン」
部屋の中からは咳こんだキララの声がする。
「まあ、大丈夫?」
「ええ、寝てればなおりますわ。うつると良くありません。お母様は部屋には入らないでくださいね。コンコン。」
「舞踏会も明日なのだからお大事になさいね。」
バロンド公爵夫人は去っていく。足音が遠のくと部屋にいるナターシャは一息つく。部屋にいたのはキララではやくメイドのナターシャだった。
「はあ、上手く誤魔化せたわ。それにして毎度お嬢様の振りなんて。私もしかしたらメイドよりも女優のが向いてるんじゃないかしら。」
その頃本物のキララは春花と共に街へ来ていた。
「うふふ、きっと今頃ナターシャが私の代わりをしてくれてるわ。」
「貴女いつもこのようなことを?」
「ええ。」
街はお祭りで賑わっていた。露店や踊り子達のダンス、それから花売りの少女もいる。
「すみません」
キララは花売りの少女に声をかける。
「ミモザの花を2つ。」
少女からミモザの花を2本購入する。
「良かったわ。これが買えて。」
「貴女、この花がほしくてわざわざ小芝居なんて?」
「あら、このミモザの花はただの花ではなくってよ。ね?」
キララが少女に同意を求める。
「はい。」
花祭りのミモザの花には言い伝えがある。お祭りの最中に買ったミモザの花を恋人にプレゼントすると2人は永遠に結ばれるというものなのだ。男性から女性、女性から男性のどちらでも効力はあるという。
「だから私明日の舞踏会でミモザのプリンスに渡そうと思ってますの。」
ミモザのプリンスとは隣に住むオルガ伯爵のことである。
「キララさん、あの方はミモザの花を庭に植えてらっしゃるのでしょ。きっとお喜びになられるわ。」
「ありがとう、春花さん。」
「私も応援しますよ。」
花売りの少女が入る。
「貴女方が来てくれて嬉しいわ。今年は例年と比べると女性のお客様が少ないのよ。」
辺りを見回してみたが男性客のが多い。
「ほら変な事件があるでしょ。」
少女が話してるは街娘達が相次いでいなくなるという事件だ。彼女の姉も3日前からいなくなっているらしい。街では人身売買の組織に拐われただとか、花の精に見初められたなど噂になっているがどれも全く信憑性がない。
「だから若い娘達は怖がって外にでないのよ。私は仕事だから仕方ないけど。」
キララの目的は達成されたということで2人は早々と帰ることにした。
お屋敷の玄関には馬車がもう1台停泊していた。来客が来てるのだろうか?
屋敷の中に入ると紳士が迎えてくれた。
「キララさん、お帰りなさい。またメイドに留守を頼んで遊びに行ってたのですか?」