いたずら好きの令嬢
「えっと」
春花の前には先ほどバロンド公爵から紹介された少女がいた。公爵の1人娘である。
「キララ。キララ・ドゥ・バロンドですわ。」
「キララさんでしたのね。ごめんなさい。わたくしまだ名前が覚えられていなくって。」
「構わないわ。あら」
キララは窓の外に目をやる。隣家のバルコニーだ。バルコニーにはいつのまにか人がいた。
白いブラウスに黒いズボン、そして黄色いロングコートを羽織った美青年だ。キララと同じブラウン髪の短髪で前髪はあげている。美青年はバルコニーで本を読んでいる。
「素敵な方でしょ。オルガ伯爵よ。」
オルガ伯爵はこの辺りの地域を治めている伯爵だ。
(あの方がわたくし達を招待してくださった伯爵ね。)
「ねえ、今から街へ出てみません?ミモザの花祭りに行くの。」
春花はキララから誘いを受ける。
「でも舞踏会が」
「舞踏会は明日だわ。ねえ、行きましょう。」
春花が是非と答えようてしたときだった。
「キララ、行けませんわ。」
上品な装いの貴婦人が現れた。
「お母様!!」
彼女はキララの母バロンド公爵夫人である。
「キララ、今ニースの街では若い娘達が行方不明になっているのよ。貴女1人で外出させるわけには行かないわ。」
「あら、お母様。1人じゃないわ。春花さんも一緒よ。」
「とにかく外に出てはいけません。分かったわね。」
バロンド公爵夫人は部屋を出ていく。
「キララさん、花祭りには行くのは難しそうだわ。」
春花が諭す、しかし
「そうだわ!!いい考えがあるわ。」
キララはまだ諦めていないようだった。
「ちょっとナターシャ!!」
キララは通りすがりのメイドを呼び止める。
「はい、お嬢様。」
「ちょっと頼まれてもらえないかしら?」
春花はメイドのナターシャと共に屋敷を出る。ナターシャはギャップを深く被っている。
「あら、春花さん」
こえをかけてきたのはバロンド公爵夫人である。
「あら奥様。ごきげんよう。」
春花は公爵夫人に挨拶する。
「ナターシャも一緒ね。わたくしの部屋にお茶をお願いできるかしら?」
ナターシャはしまったというような顔をする。
「奥様、ナターシャにこれからお庭を案内してもらおうと思いましたのよ。さあ、ナターシャ行きましょう。」
「まあ、残念ね。春花さん、キララはどこかしら?」
「えっキララさんでしたら確かお部屋にいましたわ。」
「まあ、ありがとう。」
春花とナターシャは公爵夫人の姿が見えなくなると急いで外に出て停泊していた馬車に乗り込む。
ナターシャはキャップを取ると出してと御者に言う。
「はい、お嬢様。」
ナターシャの正体は入れ替わったキララであった。