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ダンジョン攻略

 ダンジョン攻略のクエストには2種類のパターンがある。


 一つは強力なモンスターによって新しく生み出されたダンジョンを攻略するもの。もう一つはボスを失った既存のダンジョンに新しいボスが住み着き、そいつを討伐しに行くものだ。


 今回ライたちが受けたクエストは後者に当たる。以前採掘場だった魔鉱の洞窟を昔のモンスターがダンジョン化。ボスは何度も討伐されてきたがそのたびにまた新しく別のモンスターがボスとなって住み着いている。


 魔鉱石も現在となっては奥の方まで潜らなければ採掘することはできない。つまり奥に潜むボスモンスターを倒さなければ魔鉱石の採掘は叶わない。


 無論、ダンジョンに潜むモンスターはボス一体だけではない。道中にも強力なものが何体も生息している。それらと戦って進んでいき、ようやくたどり着くのがボスなのだ。


 ライは道中でスキルを撃てない関係でほぼ戦闘に加わることができない。だから大部分は仲間に任せきりである。そのせいで今までのパーティでは使えない、足手まといだと疎まれてきた。


 さすがに何度も経験したことで多少は慣れてきたものの、仲間から向けられる侮蔑的な視線は怖い。表には出さないまでも内心ではいつもそんな恐怖を抱いていた。


 しかし今のライは別の意味で恐れを抱いていた。


 このパーティは今までやってきたパーティとは毛色が違うと肌で感じる。


 前衛がいて、後衛がいて。攻撃役がいてそれを支援するものがいて。そうして戦っていくのがセオリーだ。


 だがこのパーティはボス特化の攻撃役が一人と支援向きのスキルを持つという駆け出し冒険者2人の編成。普通の攻撃役がいない。この時点で普通ではない。


 ならどうやってモンスターたちと戦っていくというのか。それがわからないから、怖い。


 加えてダンジョンの歩き方だ。


 息を潜め、足音を殺し、モンスターに見つからないよう慎重に慎重を重ねて進んでいく。


「話すときは必ず小声で頼むよ」


 さらにフレデリカにはそう指示されている。念の押しっぷりが尋常ではない。


 たしかにモンスターとの接敵には慎重になるべきだが、ここまで徹底して警戒する必要性はあるのだろうか。そこまでモンスターに見つかりたくないのだろうか。


 ライの懸念は拭えない。


 しばらく進んでいくととうとうモンスターの姿が見えた。


 一行は岩陰に身を潜めて様子を窺う。


 敵は3体。すべてクリスタルファングと呼ばれるモンスターだ。


 四足歩行による俊敏な動きと鉄の盾をも容易く砕いてしまう硬く大きな牙が特徴的な獣である。スキルを使わなければ苦戦は免れない厄介な相手だ。


 多くの冒険者はスキルを使ってようやく対等に戦えるだろう。当然ライもスキルを使わずしてクリスタルファングと戦えるほどの技量は持ち合わせていない。


 やつらの相手はフレデリカとレイブンに任せるしかない。


「どうするんだ?」


 敵に存在を悟られないよう小声でフレデリカに尋ねる。彼女らはどうやってこの状況を切り抜けるのだろうか。


「私とレイブンのスキルで敵の注意を引きつける。その隙をうかがって向こうの岩まで静かに移動するぞ」


「そのあとは?」


「そのあとも敵に気づかれないよう。静かにその場から逃げる」


「……え、なんて?」


 言っていることが飲み込めず、思わず聞き返す。


「要するにな。やつらとは戦わずに先へ進むぞ」


「ええ……」


 すごくわかりやすかった。


「倒そうとはしないのか?」


「私たちにやつらを倒す術はないのでね」


 倒せないのかよ! ライは心の中で叫んだ。


 サポート向きのスキルとは聞いていたが、フレデリカもおそらくレイブンも道中のモンスターを倒す術を持ち合わせていない。なんと彼女はそれにもかかわらずこんな分不相応なクエストに挑むと言い出したのだ。


 だがライは彼女の考えていることがわかったような気がした。


 この人、道中一切戦わずにボスのところまでたどり着くつもりだ。


 なるほどこのクエストの目的はボスの討伐と魔鉱石の採掘。それさえ果たせればいいので他のモンスターと戦う理由はまったくない。危険を最小限に抑えるなら戦闘は回避するに越したことはない。


 だとしてもそんなことが可能なのか。できないからみんな危険を顧みることなくモンスターと戦っているのに。


「それじゃあレイブン。やってくれるかい?」


「まかせてくだせえ」


 フレデリカの期待に応えるべくレイブンが岩陰から飛び出した。


 クリスタルファングたちはすぐに彼の存在に気づいた。


 敵意を示す低い唸り声。視線は鋭く獲物へと向けられる。


「俺と勝負だ間抜けども!」


 モンスターたちを煽り立てるとレイブンは逃げるように走り出し、もと来た道を全速力で駆け抜けた。


 おいおい、どういうつもりだ! 慌てふためくライ。


 こっちに戻ってきたら岩陰に身を潜めている自分たちまで見つかってしまう。


 しかしモンスターたちはこちらに気づくことなく、一心不乱に逃げていくレイブンを追いかけていった。


 レイブンとクリスタルファングの姿が見えなくなるのをライとフレデリカ、そしてレイブンは静かに見ていた。


 ……ん?


 ライは違和感に気づく。


 モンスターに追いかけられているはずのレイブンがどうしてそばにいるのだろう。ここに彼がいるのなら、あれはいったい何だというのか。


「あれは俺の分身だ」


「分身?」


「レイブンのスキルは『分身』。自分と全く同じ姿の虚像を生み出せるんだよ。実体はないから戦闘には参加できないけどね」


 フレデリカが補足してくれた。


「てことはモンスターたちは実体のない偽物をわざわざ追いかけていったってことか……。 ん? じゃあなんであいつらは俺たちに気づかなかったんだ? いくら全力で追いかけててもすぐそばに人がいたら気づくものだと思うんだが。それも分身と関係あるのか?」


「それは私のスキル『ミスディレクション』によるものだ」


「みすでぃれくしょん……ってなんだ?」


「視線誘導のテクニックだよ。私のスキルは少しの間だけ敵の注意を別のものに逸らすことができる能力なんだ」


 そうかそれで、と合点がいった。


 クリスタルファングたちは彼女のスキルでレイブンの分身に注意向けさせられていたからライたちに気づかなかったのだ。


 『分身』と『ミスディレクション』。それがこの二人のスキル。


 しかし、お世辞にも強いスキルとは言い難い。とても敵を倒せるような能力ではないし、目に見えて有用なサポート能力というわけでもない。


 ライと同じで誰かの助けがなければ一人ではやっていけないようなスキルである。


 アタッカーを探すわけだ。敵を倒せるスキルを持つ冒険者がいなければこのパーティは何もできない。


 自分一人では何もやっていけない冒険者たちの集団。それがこのパーティの実態だったのだ。


 この先やっていけるのだろうか。戦いを避けるやり方がいつまでも上手くいくとは到底思えない。


「さ、今のうちに先へ進むよ。やつらが戻ってきたら困るからね」


 今までのパーティとはあまりにも違うやり方にいまいち納得いかないライだったが、この作戦が最善なのは間違いないのでただただ成功を祈りながらダンジョンの奥へ潜っていった。



 

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