魔王に挑むために
久々の更新
魔王ザンダイン。
人々に災厄をもたらす魔族の長であり、この世界にモンスターを解き放ったすべての元凶である。
その力はあらゆるものを超越し、歯向かうものを一人の例外もなく屠ってきたという。
また長い間拠点を隠し続け人々の目から行方を眩ませてきた狡猾な男でもある。
魔王を倒すことは冒険者にとって最も重要な使命だ。
不穏、貧困、混沌。すべての源であるザンダインを打倒せずして世界に平和が訪れることはない。
この度その居所が判明した、という報せは人類にとって大きな希望となった。
各地のギルドは最高難易度のクエストという形で魔王の討伐を冒険者たちに依頼。それにより世界中の名だたる冒険者たちが動き出した。
勇者と呼ばれる者。英雄と呼ばれる者。あるいは誉れを求める者。
その流れは城下町ローナのギルドにも押し寄せ、我こそはと思わん者たちが数多く名乗りを上げた。
そしてライたちも乗り遅れるわけにはいかないと魔王討伐のクエストを受けに来たのだが……。
「全員Aランク以上のパーティでなければクエストを受けられない⁉」
「はい。ライさんたちの冒険者ランクはCですので残念ながらクエストを受注することはできません」
受付嬢が告げる事実にショックを受けるもランク制限の事を忘れていた。
それもそうかというランク制限に対する納得はあった。
相手は強大な力を持つ魔王。一介の中級冒険者が挑む相手としては危険すぎる。死にに行くようなものかもしれない。
ライのスキルなら倒せそうなので一行はやる気満々だったのだが……。
「我々が魔王と戦うためには冒険者ランクを上げなければならないようだ」
「でもどうやってAランクまで上げるんだ? ちまちま上げてたら他の冒険者がザンダインを倒してしまうんじゃないか? 勇者とかさ」
フレデリカにライが尋ねた。
魔王がそう簡単にやられるタマではないとは思うが、規格外の力を持つ勇者一行となると話は変わってくる。きっと誰もが彼らならやってくれるだろうと期待している。もっとも、世界が平和になって生活が楽になるなら誰にやってもらおうとライにとっては構わないが。
しかし、魔王を倒せば富と名声が手に入りその後の暮らしはより豊かになるだろう。将来的なことを考えるならば自分たちの手で魔王を倒すに越したことはない。
「一番手っ取り早い方法はAランクの冒険者を仲間にして高難易度のクエストに連れて行ってもらうことだね。クリアさえできればとんとん拍子でランクが上がる」
「現実的じゃないな」
うむ、と悩まし気にフレデリカは肯定した。
そんな都合のいい冒険者などいるはずがない。誰だって自分よりランクの低い冒険者のお守りをしたいとは思わない。
現状では地道にクエストをこなして評価を上げていくしかなかった。
「とりあえず昇格クエストを受けてBランクになるとしようか」
「そんなのあるの?」
初耳である。3年も冒険者をやっているライだがそんなものは聞いたことがなかった。
「便宜上、私が勝手にそう呼んでいるだけなんだけどね。稀に推奨ランクは同じなのにそれらと比べて難易度の高いクエストが出ることがあるだろう? あれってギルドが冒険者の力量を測るために意図的にそうしてて、クリアできれば評価を大きく上げられるんだ。それこそランクが上がるくらいね」
フレデリカはクエストボードから依頼書を一枚持ってきた。
おそらく昇格クエストとやらなのだろうが、ライには他との違いがよくわからない。
「ここだよ。ここが違うんだ」
指を差された箇所を見てみてなんとなく気づく。そのクエストは他の同ランク帯のクエストと違い、赴く地域が異なっていた。
モンスターの強さは地域ごとに差がある。城下町の近くの森のモンスターは弱かったり、遠く離れた山のモンスターは強かったり。初めてクエストに行ったカドッカ山もそこそこ強めなモンスターが多く生息している。
なので同じ難易度のクエストでは行き先が特定の場所に偏りやすい。
しかし、先ほどフレデリカが持ってきたクエストの行き先は特定の地域からかなり外れていた。これが昇格クエストを見極める手法なのだろう。
「でも知らなかったよ。ギルドがそんなクエストを出していたなんて」
「本当に稀にしか出てこないからね。見つけたらラッキー程度のものだし、知らないのも無理はない」
「フレデリカはよく知ってたな」
「私もつい最近知ったんだ。情報収集をしていたら偶然ね」
日ごろの行いの賜物らしい。
ひとまず方針が定まったところで改めてクエストの内容を確認した。
場所はスニカ密林。
城下町から南方面に位置し、歩いていけば半日はかかる遠いところだ。フレデリカでなくともさすがに疲れる距離なので馬車に乗っていくことになるだろう。
この辺りのダンジョンには文字通り1ランク上の強力なモンスターが多く生息している。今まで戦ってきたモンスターと同じだと思って挑んだら痛い目を見ること間違いなしだ。
だが、幸いなことに今回のクエストはダンジョン攻略ではない。
内容は強走鳥の狩猟。モンスターではなく普通の生き物を狩るクエストだ。
強走鳥とは翼が退化した飛べない鳥で、読んで字のごとく地上を力強く走る。
その速さたるや並のモンスターでは比較にならないほどであり、攻撃がなかなか当たらないことで有名だ。捕獲はもちろんのこと、殺すことさえ困難を極めるだろう。
また、個体数自体もそれほど多くはないため見つけることも容易ではない。
それでも強走鳥が求められているのはこの鳥から栄養価の高い薬が作れるからだ。肉はもちろんのこと、骨からとれる出汁も高い滋養強壮効果が期待できる。そのため金持ちの間では高値で取引されているのである。
ライたちの為すべきことは密林の危険なモンスターたちとの戦いをダンジョン攻略のごとく避けながら、狩猟困難な強走鳥を一羽獲ってくること。
いつもとは勝手が違うクエストになるだろう。ライにとっては不安の大きい要素だ。もっとも、フレデリカのことだから考えなしに受注することはないだろうが。
「この鳥、捕まえるのが難しいって聞くけど何かいい方法はあるのか?」
「いくつかは考えているよ。ただ強走鳥が実際どれくらい速いのか正確に把握できていなくてね。現地で煮詰めていかなきゃならないと思う」
成功する算段があるだけでも充分だ。何も考えていないよりかはよほどモチベーションが上がる。
「それよりもこのクエストには一つ問題があってねぇ」
「問題って?」
モンスターに邪魔されることだろうか。それとも移動距離が長いことか。彼女なら大抵のことは想定済みだとライは思っていたが、どんな懸念事項があるのだろう。
「うん。実はこれ、違う依頼主から同じものが出ているみたいなんだよね。強走鳥を捕まえて来いって」
「え、それって他のパーティと競合することになるんじゃ……」
ただでさえ狩猟が困難な強走鳥なのにそれを別のパーティに獲られたらクエストを失敗する確率が上がってしまう。
これは本当に問題である。ライたちはダンジョンボス一体を倒すことに特化した弱小パーティだ。他の冒険者たちとまともにやりあう実力はない。
間違っても戦いに発展しようものならほぼ負けが確定する。
「いや本当に困った。こればかりは私も頭を抱えていてね」
とてもそうは見えないが、彼女はやれやれといった風に肩をすくめた。
実際のところどうなのかはおくびにも出さないので何とも言えないが、ライたちにとっては大きな不安要素なのは間違いない。
強走鳥を捕まえるだけではなく、相手を出し抜く作戦まで考えなければならないのは彼女でも骨が折れるのだろう。
「それでもやるのか? 失敗するかもしれないぞ?」
「やらないよりはましだよ。失敗しても契約金がギルドに持っていかれるくらいだし。魔王に早く挑むためにはチャンスをなるべくものにしなくてはね」
クエストの難易度が上がってくると契約金も安くはないのだが。少し前まで明後日の事すら考えられなくなりそうだったライにとっては軽視できることではなかった。
だからといって反対するわけでもないが。レイブンがめんどくさい。
それよりも気になることがあった。
「ずっと聞きたかったんだけど、フレデリカはどうして出世にこだわるんだ? そんなに急がなくても俺たちなら堅実にクエストをこなしていけばランクを上げていけると思うんだが……」
前々から彼女には野心的な一面が垣間見えていた。スピード出世と称して冒険者ランクを一気に上げようとしているのが最たるものだ。
そもそもなぜ冒険者になろうと思ったのかも謎である。
こう言っては何だが、彼女はとてもではないが冒険者には向いていない。体力もない、スキルも弱いでモンスターとはまともに戦えない。
頭がいいのだから出世を望むのであればもっと別の道を行けばいいものを彼女はなぜかそうしない。
冒険者稼業での出世にこだわる理由が何かあるのだろうか。ライとしては今日まで冒険者稼業で食わせてもらっている身なのでいかなる理由があろうとも否定するつもりはないが、彼女の腹の内が気になって仕方なかった。
「私にも周りから認められてちやほやされたい欲求があるってだけのことだよ。早く上に行ければ、それだけ早く人から認められるだろう?」
答えになっているのかいないのか、よくわからない答えが返ってきた。
まだこの先のストーリーを考え中。よろしければ評価・ブクマをしていただけると嬉しいです。




