表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の転生物語。 ~ クロスロード In New World ~  作者: ボンバイエ
第一章 私は幸せな人生を終えた・・・えっ?転生?前世の記憶を持ったまま、好きなように生きろ?こんな爺さんを転生させてどうしたいの?女神様。
6/7

第六話 変化する日常。

シレっと更新。


暑い日差しは影を潜めだし作物が実り出す。

実りの秋が過ぎ木枯らしが辺りを埋め尽くしていく。

雪がちらつき年を越えた。

雪が積もり銀世界を形成していたが、それも春の吐息により徐々に溶かされる。

新緑の力強さが増し生き物達の歌声が響き渡る。

そして、また強い日差しの日々を迎えていた。


「はい。捕まえました。」


「ぬぅ~いつの間に?!」


「ジューネ先生は今回もアイス抜きですね?」


「はっ?!いつそんな約束しましたか?!」


「冗談ですよ。そんなに怒らなくても良いじゃないですか?」


『ぷんすか』と怒り出すジューネは腰に手を置いて真剣に怒っていた。

『アイス』を取り上げられる事を異常な程に嫌がっている。

それ程にジューネにとっては大事なモノなのであるが、ザバルティはそこを揶揄(からか)ってしまう。


最初こそ、アイスとはアイスキャンディーレベルであったが、【賢者(サポート)】の力を借りて前世の世界にある『バニラアイスクリーム』の作成に成功しているのである。

『バニラ』もとい『バニラビーンズ』がこの世界にあったからである。

香料として使われていた『バニラビーンズ』を見つけたザバルティが飛び上がって喜んだのは言うまでもない事であるが、それと同じ様に『バニラアイス』を一口食べた【美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)】の人々まで飛び上がって喜んだ。

中には涙を流す人まで現れた時には、ザバルティはひくほど驚いたのだが、この世界には甘味の食べ物はさほど発達しておらず飴が『水あめ』から固形の『飴玉』になり、ようやく広がってきた程度である。

この世界の人々が驚くのは無理もない話である。


日本においても諸説あるが、歴史に『水あめ』が登場してから約500年以上かけて江戸時代になってから『飴玉』になったほどである。

発展するには時間と歴史が必要なのである。

また、この世界では電気は流通していない。

一部の地域で研究されている程度のレベルである。

それは、魔法という非科学的なモノがある世界だからとも言えるし、魔物が存在している事など複雑に絡み合って進んでいないのもまた事実である。

生活を豊かにするためには先ずは食生活や安定した収入を得る事からであり、贅沢な事に対する需要がまだまだ少ないからでもある。

もちろんバニラビーンズが存在するのと同じ様に香料や調味料と言ったモノは徐々に開発されており、普及し始めているがそれでも富裕層が利用しているのが普通である。


もちろん例外はある。

ザバルティ達マカロッサ子爵家が治めるこの領都アンバーは交易都市であり世界中から多種多様なモノが集まってくる。

流通するからこそ、おこぼれに与る事もある。

そして常用する事になり、広がっていく。

領都アンバーでは他では利用されない食材や調味料も店頭に並ぶ、そして飲食店で使用される事になる。

そんな理由からこの領都アンバーは例外の一つとなる。


≪アイスクリーム恐るべし。≫


その後も、怒り続けるジューネの姿にザバルティは思わずそんな感想を抱いた。


「ごめん。今からアイスクリームを作るからさ。」


「ふ~。仕方ありませんね。そこまで言うのなら赦しましょう。」


≪チョロいですね。≫


賢者(サポート)】の言葉通りチョロいジューネは仕方がないと言いつつも耳がピクピクと動いており嬉しさが溢れているようである。

エルフの全員であるのかの検証は出来ていないが、少なくともジューネは嬉しい時にピクピクと耳が動く。

それはどんな顔をしていても同じ反応であった。

たかが一年一緒に居るだけだが、ザバルティはそのジューネの癖に気がついているのである。


「寛大なご対応ありがとうございます。」


ザバルティは恭しい態度でジューネに頭を下げる。


「うむ。苦しゅうない。」


「ははぁ~。」


おふざけも忘れない。

お互いの顔を見合い笑い合う二人は師弟らしいというより姉弟の関係の様である。

キーファが見たら微笑ましく思う事であろう。


「さぁ、今日はここまでにして城下に美味しい物を食べに行きましょう。」


「わざわざ城下に行かなくても美味しい物なら私が作れますよ?」


ジューネの決定にザバルティは不思議そうに答えた。


「ブー!」

≪ブー!≫


「えっ?」


ジューネと【賢者(サポート)】に同じ反応をされ、ザバルティは驚く。

事実、城下で食べる事の出来る物は城内でも食べる事が出来るし、それ以上の食べ物が出る。

ザバルティは間違ってはいない。

しかしである。


≪女性からのお誘いへの返しとして最低です。≫


「はぁ~?まぁ、良いわ。準備して行くわよ。」


二人?の反応から自身が悪いのだと感じたザバルティはただ素直に頷いた。

その後、それぞれが汗を流して新しい服に身を包み城の出入り口で落ち合う。

ジューネはいつもの動き安いズボン姿とは違い、スリットの入った赤いチャイナ服の様なモノを着ており、いつもは一つに纏めている長く綺麗な髪をおろしており、お洒落なお姉さんと呼ぶに相応しい装いである。


≪いつもと違う。【賢者(サポート)】の言う通りに準備して良かった。≫


賢者(サポート)】の言う通りに準備をしたザバルティはホッと胸をなでおろす。

ザバルティは訓練時とは違い、長袖の白いワイシャツに白いスラックスという姿で黒い革のベルトをしている。

清潔感があり高級感がある装いである。


「いいじゃない。ザバルティ君。カッコいいわ。」


「はい。ありがとうございます。と、とても綺麗です。」


「ふふふ、ありがとう。さぁ、行きましょう。」


「はい。」


ザバルティはいつもと違う装いであるジューネの姿に若干の緊張感を憶えた。

いつもはふざけ合えるほどの関係性を持ってはいたが、普段着はお洒落と言えるモノではないし、最初に会った時などは流石に髪がバサバサという事はなかったが、古めかしいローブ姿であった為に、そのギャップはザバルティに衝撃を与えた。

まさに『絶世の美女エルフ』という言葉がシックリくる様子にザバルティはドギマギしてしまったのである。

ジューネの差し出す手を取りエスコートを開始する。

そのまま準備されていた馬車に二人は乗り込み、城下町へと向かった。




◇◇◇◆◇◇◇




「今日は私が行きたい店に行くね?」


「はい。」


ザバルティの緊張は続いていた。

足を動かす度にチラチラ見えるジューネの足が気になり視線を外す事に意識が向いている上にこういう状況になっている事がザバルティを刺激していた。


≪我が事ながら情けない。≫


思春期を迎えるザバルティは前世の記憶があってもなかなかに新鮮な刺激を受けてしまい収まりが悪く、今のドキドキの状況に戸惑いすら感じているのである。

この世界での成長の記憶があるザバルティにとって、この世界での女性経験が無い事。

そして、肉体年齢が思春期である事。

この二つが彼の動揺する事になる大きな原因である。

・・・が、そもそも前世でも初心な性格をしていたザバルティには刺激が強かったのである。

もちろん、女性経験がないわけではないのだが、女性に対する思いは純粋であったのだ。


そして、今世においても【神の使徒】という重責をおっており、子爵家という環境で育ってきているザバルティにはチャラさがないのである。

揶揄(からかう)事は出来ても、そういう事はからっきしなのだ。


「もうそろそろです。」


馬車を操作している御者から声が掛かる。


「ザバルティ君。エスコートを頼むわね。」


「はい。」


緊張しているザバルティを見てもジューネは揶揄(からかう)事はせずにニコリとわらうだけだが、その笑顔もザバルティにとっては綺麗すぎる為に緊張を加速させてしまう。

ザバルティでなくとも、ハイエルフであるジューネの笑顔は男にとって最大の攻撃力を持っているのは事実であるのだが、そんな事はザバルティには分からない。

その事がわからない事で益々緊張を深める原因になっているのだが、それは神のみぞ知るである。


ザバルティ達が乗る馬車は真っ白い建物の前で停止した。

するとお店の前に立っていた黒服の男が馬車の扉を開き即座に頭を下げた。


「いらっしゃいませ。」


挨拶を受けてザバルティが先に降りてジューネの手を取りエスコートを開始する。

本人にとってはドキドキしていて気がついてはいないが、ジューネと並ぶザバルティもまた整い過ぎた顔立ちであり、二人の姿を見ている周りの人は深い吐息は吐いている。

『キャー』という黄色い声が広がらないのは高級店であり、来ている客層が皆落ち着いているからである。

そうでないなら、二人は沢山の人に囲まれて大変な目に遭うであろう。


建物の入口の前にも人が立っていた。

見惚れてしまったのか、ボーっとしていたが、ドアの前に二人が着くと慌てた様子でドアを開けた。


「い、いらっしゃいませ。」


ザバルティとジューネがお店の中に入るとホテルのエントランスホールのように大きな広がりのある場所の中央に受付カウンターがあり、そこに二人ほど女性が立っていてザバルティ達を見て少しの間ボーっとした後に頭を下げた。

プロでも見惚れてしまった様だが、それでも職務を忘れる事なく行動に移ったのは流石である。


「い、いらっしゃいませ。ご予約頂いていたマカロッサ子爵家のザバルティ様ですね?」


「はい。」


「ご利用ありがとうございます。では、ご案内致します。」


二人の内一人の女性が、ザバルティ達の前に出てきて案内を始めた。

受付カウンターの横を過ぎると大きな階段が目の前に見えてくる。


ちなみにエントランスホール内にはいくつも応接室にあるようなソファが向かい合わせに置いてあり、まさにホテルのエントランスホールと同じである。

所々にお洒落な服を着た人達がくつろいでいる。


≪凄いな。≫


城に住んでいる者が何をと思うかもしれないが、純粋に凄いと感じたザバルティ。

派手に飾る事なく、高級感が溢れるお洒落で落ち着いた空間である。


ありがちなのは成金趣味全開のお店。

派手な装飾に品の無さが現れる空間。

そうなっていない事に驚きを感じているのである。


≪どこかの貴族がスポンサーなのかな?商人の感じではないよな?≫


≪有名な建築家セシリア・ダンバルが関わっている様です。≫


どこ情報?なのか、【賢者(サポート)】がザバルティの疑問に答えた。

ある程度の平和があるという事だろうか?

それとも防衛機能が必要だからこそ、建築レベルが必要なのだろうか?

そんな事をザバルティはふと考えながら、大きな階段を登っていく。


ちなみに床は蒼い絨毯が敷き詰められている。

黄色と白色の二線のラインが通り道を示すかの様に入っている。

ザバルティは知らないのだが、この地を治めるマカロッサ子爵家をリスペクトしたデザインであり【美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)】の蒼と家を表わす旗の白色と黄色が利用されている。

落ち着きと品が絨毯からも伝わる。


ゆったりとした階段は中央が壁まで繋がっており広めの踊り場がある。

そして、左右に分かれる階段が続いている。

それを登りきると普通の建物では三階へと繋がっているのだが、それはお客からすれば二階となる。

本来の二階部分は従業員専用のフロアで、別の階段を使用しないと入れない工夫がされている。

ザバルティは【賢者(サポート)】によるマッピングにより構造が分かるのだが、その工夫にも感心した。

お客様に魅(見)せる所と、見せない所を配慮して色々と工夫されている事が分かったからだ。


「素晴らしいですね。」


「でしょう?気に入った?」


「はい。」


ザバルティは建物の造りや装飾に感心した事で、ようやく緊張するスパイラルから抜け出せた。

そんな姿を見たジューネは優しい視線をザバルティに向けクスリと笑う。


その後は一時、建築物の方へと意識が向きすぎてしまったザバルティではあったが、見た目美しい料理の数々が運ばれてくると我に返り、ジューネの機嫌を損なう事は無かった。

見晴しの素晴らしい場所がザバルティ達の席であり、席と席は距離が離されておりその上で、高めの囲いが有り席が区切られていたので、二人だけの空間が出来上がっていた。

ザバルティとジューネはガラス越しに見える景色を楽しみながらの食事を堪能した。

ゆっくりとした時間は他愛もない会話と共に過ぎていく。

二人の前にデザートとして果汁を凍らせたアイスが出された。


「もう、締めね。」


(うれ)いのある顔でジューネがこぼす。

先ほど迄は楽しそうにしていたジューネの変化は如実であり、鈍感なザバルティでも気がついた変化である。


「あれ?アイスは好物では?」


ザバルティは不思議そうにジューネにそう問いかけた。

好物であるはずのアイスを見ての変化であったので、単純に考えての問いかけだ。


「そうよ。大好きよ。」


「なら、≪ストップしてください。≫・・・。」


途中で【賢者(サポート)】が止めた。

どうして?という疑問がザバルティの頭を埋め尽くすが、黙った。


「私は帰らないといけないのよ。」


「えっ?」


そこからジューネはザバルティに説明を始める。

キーファからの依頼とジューネの立場とこれからの事を。

無理矢理に作られたジューネの笑顔を見ながら、ザバルティは黙って聞き役に徹した。


ジューネは一族の中においての役割がキーファと違い表の立場では無い。

暗部と言えば分かりが良いかもしれない。

ハイエルフ達はこの世界において自分達が管理者であるとの自負がある。

そのハイエルフ達の暗部が負う役割は大きい。

キーファは表世界で生きる存在なら、ジューネは裏世界で生きる存在なのである。

今回は実姉であるキーファの依頼である事が一つ。

ザバルティが持つ能力が人間族のそれを遥かに凌駕している事が一つ。

その二つが族長たちを動かしジューネの派遣が決まったのである。


ちなみにハイエルフ達がその様に管理者としての自負が強い理由は単純である。

寿命の長さが人間族の長さに比べて圧倒的に長いという点だ。

つまり寿命が長い分だけ、経験と知識を多く持っており、人間族が何代か経って忘れている様な事も当事者であった者が生きているのだ。

そんなハイエルフ達が自分達の事を『管理者である』というふうに思ってもおかしくはないだろう。

友誼を結んだ人間が早くに死んでしまうのだから。


ジューネとザバルティの関係の様に友誼を結び、育まれる関係から起こる約束も管理するべき事へと変化するのであろう。

それがハイエルフ達の長生きする者達の宿命であるのかもしれない。




◇◇◇◆◇◇◇




「お帰りなさいませ。」


「ただいま。」


「お風呂に入られますか?」


「いや。大丈夫。もう寝るよ。」


「かしこまりました。」


いつもと違う感じがするザバルティは、マジマジと自分専用メイドを見る。

機嫌が悪そうなのはなんとなく感じるのだが、原因は分からない。


≪ふぅ~。≫


賢者(サポート)】の溜め息が聞えた。

専属メイドの機嫌が悪い原因も【賢者(サポート)】には分かるのか?

人の気持ちまで読む事が出来る【賢者(サポート)】は凄いな。

と、考えたザバルティ。


≪はぁ~。≫


賢者(サポート)】が頭を抱えている様なイメージがザバルティの脳内をふとよぎった。

だが、何故【賢者(サポート)】が頭を抱えるのかが分からなかったザバルティは不思議そうに頭を傾げる。


「どうかなさいましたか?」


「えっと、いや、その、何と言うか・・・。ミーリア、あのさ。何か怒っているのかな?」


ミーリアと呼ばれた女の子は、『ぷくっ』と頬を膨らませる。


「・・・別に。」


「いや、怒ってるよね?」


「いいえ。」


断固として認めないミーリアの姿。

ザバルティは訳も分からず戸惑うばかりである。

この時ばかりは【賢者(サポート)】も助け船を出さず見守っている様で、声を発しない。


「とにかく、怒っていません。早く寝てください。」


ミーリアは最後のダメ押しの様に言い放つと持っていた着替えをザバルティに押し付け『失礼します!』と言ってザバルティを置いて部屋を出た。


「う~ん。」


よくわからない。

何か怒らせるような事をしてしまったのかもしれない。

なんだろう?


≪駄目ですね・・・。≫


「えっと、何が?」


≪・・・いえ、何でもありません。≫


賢者(サポート)】も、それ以上は言わなくなりヒントは与えられなかった。

ザバルティは考えるのを止めた。

前世から女性の感情の機微を分かろうとしても、無駄だったからだ。

つまり、諦めて寝る事にしたのだった。




◇◇◇◆◇◇◇




バタンと後ろ手にドアを閉めたミーリアは怒っていた。


「まったく!」


ミーリアはプリプリ怒っていた。


「あんなにデレデレして!」


そうである。

もうお分かりであろう。

ミーリアはザバルティとジューネの『デート』に対して怒っていたのである。

ジューネに誘われたという事は分かっている。

分かっているのだが、ザバルティに怒っているのである。

怒りの感情を持って次々にメイドとしての仕事をこなしていく。


ザバルティが誰とデートしたとしても誰に咎められる事では無い。

なんせ、ザバルティとミーリアの関係は現在、主人と従者の関係でしかないのだ。

だがしかし、ミーリアは許せないのである。

主人であるザバルティを慕う気持ちが大き過ぎての事だ。


「もう!」


「ミーリア?どうしましたの?大きな声を出して?」


「い、いえ。すみません。」


気が付けば、大きな声を張り上げてしまい、先輩メイドに驚かれてしまっていた。

ミーリアは頭を下げて謝罪した。


彼女はプリプリと怒っていても仕事をこなす事が出来ている。

もちろん精度も低くなる事はない。

今は先輩メイドのアリアンヌと一緒に翌日の準備をしていた。


「なら、良いのだけど。びっくりしちゃった。」


「ごめんなさい。」


「ふふふ。まぁ、何となく理解しているのだけどもね。」


先輩メイドのアリアンヌがニコリと笑う。

それを見たミーリアは自分の気持ちが見透かされているのがわかり、顔が真っ赤になった。


≪もう!これも全部、ザバルティ様の所為だ!≫


恥ずかしさのあまり、そう心で思ったミーリアはスパンと両手で両頬を叩くと気合を入れた。


≪集中!集中!≫


ミーリアは気持ちを静める為にも気持ちの切り替えを測り目の前の仕事に集中した。

『一心不乱』に打ち込み、いつもよりも早く終わらせる事が出来て、早めに寝床に着く事が出来た。


早くに横になれたのだが、どうしても寝付く事が出来ず、うだうだと時間が過ぎていく。

右を向いて、左を向いて、上を向いて、下を向いて・・・永遠と思える程に繰り返す。

頭の中は常にザバルティの事ばかり。


≪なんで、ザバルティ様の事ばかりになるの?!なんで?!≫


今日はいつも以上に、ザバルティがミーリアの頭の中を占領していた。


≪あぁ!もう!!≫


メイドとしての意識があるからなのか、夜中であるので声に出さない。

声にださないが、大声で叫びたくなるほど、感情が揺さぶられているのだ。


ミーリアがこのマカロッサ子爵家に仕える事になった経緯は『奇跡』としか言えない。

そもそもミーリアは『奴隷』であった。


『奴隷』・・・人格としての権利と自由をもたず,主人の支配下で強制・無償労働を行い,また商品として売買,譲渡の対象とされる「もの言う道具」としての人間のことである。

用途は広く、奴隷は家事労働だけでなく,鉱山,工業,農業,商業の労働者としても使用され,女奴隷は売春宿の要員となり,古代権力者の閨房にも用いられる。

そして、この世界の奴隷は魔力による契約を結ばされ、本当の意味での拘束がなされた人々である。


現代の地球に住む人間からすれば、『絶対に駄目』な事である。

しかし、地球においても昔は『奴隷』があった。

魔力はなくとも言葉と力の暴力によって押さえつけられ、人格としての権力と自由が無かった人々がいる。

今現在でも『奴隷』という事での拘束はなくとも、同じ様な扱いを受ける人々が実際に居る。

経済による枷に権力による枷や不祥事による枷で『奴隷』と変らない状況の人が居るのである。

これだけ『人権』という思想が広がっている世界であっても、人間は同じ人間に対して『奴隷』扱いが出来るのである。


では、異世界であり、まだまだ『人権』というモノが確立されていない世界であれば『奴隷』がいて当たり前である。

人間とは価値をもつ商品になってしまうのだ。

そして、この世界での『奴隷』はいくつかに分ける事が出来る。

『犯罪奴隷』『戦争奴隷』『借金奴隷』が一般的である。

これは、その者が『奴隷』になった理由によって分かれる分け方だ。


では、ミーリアはどうなのか?

ミーリアはこの三つに当て嵌まらない。

『強制奴隷』である。

これは誘拐されたりして理由なく『奴隷』にされた者達を示す。


この世界の多くの国において『強制奴隷』は違法である。

もちろんミーリアが住んでいるアスワン王国においても違法だ。


ミーリアは暗い世界に閉ざされていたのだが奇跡的に救われた。

そしてミーリアを救ってくれたのが、ザバルティなのである。

小さいミーリアにとって衝撃的なイベントになった。

『王子様が助けてくれる物語』の主人公になったのであるから、その衝撃がどれ程大きいモノなのかは想像に難くない。

その日より、ミーリアの頭の中をザバルティが占める事になったのだ。

彼女はザバルティの傍に居たいが為に、努力を重ねた。

寝る間も惜しんで努力したのである。


その結果、彼女の求めた『ザバルティ専属メイド』の一人となれたのだ。

そしてその努力は『ザバルティ専属メイド』となった今も怠る事無く続けている。

その事を理解している同僚や先輩たちは微笑ましく見守っているのである。


≪ザバルティ様はモテるからな~。≫


≪フフフ。≫


≪あれ?今、誰かの笑い声が聞えた気がするんだけど?気の所為かな?≫


ミーリアがそう、思った瞬間に彼女は眠りに落ちた。

眠りの中で待ち受ける存在が居るとは知らずに・・・。


窓の外には煌々と光り輝く大きな星、この世界で『月』と呼ばれるその星。

その『月』明かりがミーリアを優しく見守る様に照らしていた。


次も頑張ります。(-。-)y-゜゜゜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ