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私の転生物語。 ~ クロスロード In New World ~  作者: ボンバイエ
第一章 私は幸せな人生を終えた・・・えっ?転生?前世の記憶を持ったまま、好きなように生きろ?こんな爺さんを転生させてどうしたいの?女神様。
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第四話 誕生会。

ようやく書けました。

ふぅ~( ̄▽ ̄)



美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)』は多くの人で埋め尽くされていた。

もちろん城下町である領都アンバーも熱気が充満している様子が伺える。

アスワン王国の国旗と共に掲げられるマカロッサ子爵家の旗は風に煽られてバタバタとはためく様子さえも何処か熱を帯びている様に見える。


祝砲が打ち上げられた。

マカロッサ子爵家の所有の船体12隻が港内に並び沖へと向かって撃たれた大砲は火薬の音を立て飛び出し海面に大きな水飛沫を立て着水した。

その祝砲を合図に始まった『誕生祭』は大勢の人によって祝われる祭りなのである。

今日の領都アンバーは至る所に屋台が並んでいる。

街として税の掛からない一日となり、許可さえ貰えば誰でも店を出す事が出来る特別な一日なのだ。

もちろん警備は厳重であり、領軍だけではなく国軍まで駆り出され警備に当たる程だ。

大きなイベントなのである。


これはマカロッサ子爵家の統治が民に支持されているからだけではなく、イベントが少ない世界である事が大きいのは間違いない。

ただそれだけという訳では無い。

祭り好きな領民達に支えられ交易都市であるという事。

交易都市で多国籍な考え方が主流であり外交も兼ねている事。

その外交を支える貴族家の嫡子の10歳誕生日である事。

さらに資産が豊富なマカロッサ子爵家というモノが揃っているからこそである。

全ては国家予算からの捻出ではなく、一子爵家たるマカロッサ子爵家の資産から賄われている訳だ。

どれだけの資産を保有している子爵家なのか?

それはこの『誕生会』を見れば良く分かる。


祝砲を打ち上げた船団の港側に一艘の大きな船が停泊している。

その船はひと際大きい船でありマカロッサ子爵家が所有する船の中でもひと際大きいその船は大型客船である。


航海するだけではなく、人を運ぶためだけに建造された客船は世界でも多くは無い。

一国家の子爵家でしかないマカロッサ子爵家は数隻所有しているのである。

つまりそれは海運業を営んでいるという事でもある。

他にも軍船とは別に貨物船も数隻所有しており世界でも珍しい貴族家なのである。


そんな大型客船のデッキには煌びやかな衣装を纏った者達が集まっている。

祝砲の音が響き渡るとアルカティは声を上げた。

アルカティとエスネスの間には白い裏地が施され、白銀のマカロッサ子爵家の家紋が左胸入った蒼い色の燕尾服に身を包んだザバルティが立っていた。


「これより、我が息子ザバルティ10歳の誕生会を開催する。ザバルティ。生まれてくれてありがとう。ここまで無事生き抜いてくれてありがとう。そして、おめでとう。来賓の方々、今日は存分に楽しんで頂きたい。」


父アルカティの宣言で船上パーティーが始まった。


「「「ザバルティ様、おめでとうございます。」」」


そこからは、フリータイムよろしくあちらこちらから、ザバルティへ祝いの言葉が贈られる。

特に形式にとらわれないパーティーは基本的にフリーなので、挨拶を交わす事がメインとなる。

力ある子爵家の嫡子が主役とは言え、まだ10歳の子供であるザバルティに重きを置く者は少ない。

父アルカティや母エスネスなどの主権を持つ者へのコネクションに活用したい者が大勢であるのは事実だが、主役を蔑ろにするのはマナー違反になる為、ザバルティに対する挨拶は欠かせないので、ザバルティの所には挨拶をする者が絶えない。

王族ではないので失礼が無い程度に交わす挨拶は慣れた者であれば造作もない。

大変なのはザバルティの方である。

一人一人に相対して顔と名前を憶える必要があるからだ。

必要がある上にそれを要求される立場なので、必死にならなければいけないのだが、ザバルティには【賢者(サポート)】がある。

完全記憶と同一のレベルのサポートを受ける身であるから気楽なモノである。

次々と挨拶を交わしていく姿は貴族として優秀である事を示してしまう。


「「ザバルティ殿。おめでとうございます。」」


≪左に見えるのがドルポート男爵。右がゲビット騎士爵。≫


「ドルポート男爵様。本日は私の誕生会にご出席くださりありがとうございます。そしてゲビット騎士爵様もゆっくりとお楽しみください。」


「「?!」」


本人にとっては煩わしい挨拶を早く終わらせた一心なのだが、相手にとっては『神童か?!』と驚く事になる。

10歳にして顔と名前が分かるモノなどそうは居ないのだから当たり前である。

普通は挨拶をする方が名乗りを上げてようやく返事が出来るのでも優秀な方だ。

下手をすれば、上手く挨拶を返せない子も居る程だ。

なにせ社交界デビューなのだからそれも笑って許される程である。

それが、名乗る前に名前を言われて返される答えも堂々としているのだ。

ようやく返事に『うむ。』と答えるので精一杯である。

ほとんどの者は固まるだけである。


「では、ごゆっくり。」


主役のザバルティにそう言われてしまえば、それで挨拶は終わる。

当のザバルティはこうして【賢者(サポート)】の力を借りて次々に挨拶をしていく。

この船上パーティーに呼ばれている貴族や外国からの招待客との挨拶をこなしていく。

もちろん主役の後ろには専属メイドのミーリアが控えており、護衛としてマカロッサ子爵家の騎士が二人付いている。

彼等の心境は彼等の顔を見て分かるであろう。

二人の騎士は口をポカンと広げて驚きを隠せていない。

ミーリアは『エッヘン』と言いたげな顔で付いて回っている。


≪次が最後です。左後ろに居るのが、ビルディ商会長です。≫


賢者(サポート)】にとって、ザバルティと神様以外は敬称を必要としない相手である為に『いらっしゃる』など使わない。

ザバルティにとっても対外対応として敬語を使用するので【賢者(サポート)】の言葉遣いを気にもしない。


「では、ごゆっくり。」


「ええ。ありがとうございます。」


何とか絞り出すように言葉を返すビルディ商会長を後にして、人込みを抜けて船体の側面へ移動するザバルティは『ふぅ』と息を漏らす。

ようやく『任務完了』となり、休憩を取る事にしたのだ。


「どうぞ。」


すかさず専属メイドのミーリアが飲み物を持ってくる。

護衛の騎士二人もえっちらおっちらとザバルティの傍へ来た。

ミーリアが持ってきた飲み物は柑橘系の果汁水で爽やかな飲み心地にホッとするザバルティをミーリアは目を輝かせて見つめる。


「流石でございます。」


「何が?」


「ふふふ。大丈夫です。私は分かっております。」


ちょっと話が通じていない様子ではあるが、ミーリア自身が納得している様子なので、まぁ良いかと放置するザバルティ。

とにかく、一息ついてゆっくりしたいと思ったからである。

この後に控えているパレードが今のザバルティには重要案件だからだ。

正直『恥ずかしい』という思いが胸中を占める。


「はぁ~。」


「あぁ~。主役がため息ついてるぅ~。」


「本当だ。」


「二人とも!不敬ですよ!」


気兼ねない間延びした声を出し、ツッコミを入れるロングヘア―の金髪美女に同意を示す高身長のショートヘア金髪美男子の二人を(たしな)めるミドルヘアーの緑髪美男子。


「いいよ。気にしないでくれ。」


「ですが、ザバルティ様。私達は今日より貴方様の専属従者です。身分差を弁えねばいけません。」


「トーマスは硬いな~。そんなんだから、イケメンなのに彼女が出来ないんだよ~。ねぇ、ロバート。」


「おいおい、アリソン。そこで俺に振る?ってトーマス睨むなって。」


「まぁまぁ。皆な参加してくれてありがとう。四人だけの時は今までの通りでいこうよ。他人が居る時だけ気にしてくれたら良いから。」


「流石!ザバるん。話が分かるねぇ~。」


「バッカ!アリソン!今言われたばかりだろ?」


「へっ?」


「まったく。あなた達は!」


「まぁまぁ。今日は祝いの席だし、それぐらいに。ねっ?」


【幼馴染】という言葉が当てはまるメンバー。

貴族であるが為に、外行きの様子を出せば10歳らしからぬ言動をする。

それが彼等であり、その彼等こそが本日付でザバルティ専属従者となった者達だ。


高身長、ショートヘアの金髪美男子がロバート・セルフラン。

ザバルティ家に代々仕える騎士の一族出身で、次期セルフラン家を継ぐ長男である。

ロバートは、根は真面目で馬鹿ではないのだがお調子者である。

アリソンと一緒につるむようになってから、お調子者の素質が開花した感じだ。

父親はザバルティ家の騎士団長を務めており朴訥ながら実力を買われている人物だ。

そんな父親から何故?と周囲は思っているらしいが、母親が社交的な為にその影響であろうとアルカティが言っていたのをザバルティは聞いている。


ロングヘア―の金髪美少女は残念系美少女でもある。

基本的には阿保な事を平気でおこなったり言ったりする女の子である。

黙って立っていれば、インテリ美少女で通る容姿が、全て台無しになる程の奇行を発揮する少女で天然系なのかもしれないが、掴み処がない『女の子』なのである。

出自はマカロッサ子爵家のお抱え魔術軍団の筆頭魔術師の次女であり、由緒正しいフォラン家の中でも神童と呼ばれる程に魔術の才能が高い。

フォラン家の神童は性格を知らぬ者から言われるだけで、知っている者からは悪童と呼ばれる事もある程のお転婆ぶりを発揮している。


ミドルヘアーの緑髪美男子はトーマス・シュゲル。

メンバー内では万能タイプの参謀的立場にいる存在で『まとめ役』でもある。

シュゲルツ男爵家の三男であり後継者争いを避ける為に出される事になったのは彼が優秀であるが為である。

男爵家はザバルティの母の妹が嫁いでおり従兄弟(いとこ)関係という事もあり、母伝手でマカロッサ子爵家の嫡子の従者に選ばれた経緯があるが、5歳になったと同時にマカロッサ子爵家にきており、ザバルティ等と共に同じ教育を受け育った。

マカロッサ子爵家の教育レベルが高い事と領内の変動性のある文化によって育まれ、素質を開花しつつある。


彼等四名は同じ年に生まれた縁によって結ばれた関係である。

良好な関係性はそのまま主従の関係へと確約されたのだ。

ただ、小さき頃より知っている幼馴染でもある為に何をするにも一緒という側面が厳格な関係性より寛容な関係性が育まれたのである。

その様な縁を有効的に活用するのもマカロッサ子爵家の特徴と言える。


マカロッサ子爵家の教育レベルは非常に高い。

世界でも有数の教育レベルである。

それは多様性に富んだ領地にある事とマカロッサ子爵家の歴代の領主の性質が相乗効果を生み、それをマカロッサ子爵領の富みが促進させた結果だ。

それはマカロッサ子爵領の識字率の高さからも伺える。

領内の民は5歳から10歳までの間、無料で学校に通う事を義務づけられている。

そのおかげで民は商売人の不足はなく、熾烈な世界で生きていける知識を得る事が出来ているのである。

商人になれる知識が手に入るという事は、商人になれる人数が多く居るという事になり、それがより優秀な商人を産み、利益拡大の一役を担っているのだ。


教育は文字や数字だけに留まらず、身体的な訓練までもおこなっており、兵士となる基礎まで出来るのだ。

その為、マカロッサ子爵領の民達は自身の特徴や希望によって自身の将来を選択する幅が他の領地や国の民よりも広い。

マカロッサ子爵家は船員や両軍に騎士団など多く抱えているが、そこも一つの就職先の候補になっており領民にとっては憧れの職でもある。

また、アスワン王国軍の中でもマカロッサ子爵領は派遣先としての人気が高いのも領地の繁栄が大きいのだ。

好循環が続いている領地である。


「それにしても、一子爵家の嫡男の誕生会なのに、大袈裟すぎると思わないか?」


「ぷぷぷ。そんなのアタシでも分かるよ~。マカロッサ子爵家なんだからこれが当たり前だよ~。にゃははは。」


「そうですよ。ザバルティ様。マカロッサ子爵家ではこれが普通です。王族に遠慮してこのレベルなんですから。」


ザバルティも意味する所が分からないでも無いが、やはり日本人的・一般人的考えが邪魔をして豪華すぎる気がしてしまうのである。

アリソンには笑われ、トーマスにたしなめられ、ロバートは苦笑いを浮かべている。

いつもの光景がそこにある。

それに少しの安堵を得てザバルティは貴族の顔へと変える。

ザバルティが外行きの顔になるのを見計らっていたのか、黙って見守っていたミーリアがザバルティの前に歩を進めた。


「ザバルティ様。お時間の様です。」


「うん。わかった。」


ザバルティはミーリアに誘われる様に後について動いた。




◇◇◇◆◇◇◇




「ご立派でした。」


ミーリアの賛辞を素直に受け止めかねているザバルティは、自嘲気味である。

前世の記憶が邪魔をして純粋な反応が出来ないでいるだけだが、恥ずかしさを隠しているだけである。


大勢の領民の中を馬車に乗って街中を行進し手を振る。

日本に居た頃にテレビで見た皇族の姿、そのものだったのである。

平民の感性では恥ずかしい。

そもそも子供の感性でも恥ずかしいモノである。

それでも貴族であり、お披露目を兼ねたモノであるのだからやるしかない。


「ふふふ。そうね。立派だったわ。」


「ああ。よくやった。」


両親であるアルカティとエスネスも同じ様に褒め称える。

ザバルティはより恥ずかしさを感じてしまう。


「そ、そうですか?」


「「ええ。(うむ。)」」


両親からの同意を受けて、嬉しさを感じ笑顔になるザバルティ。

それを見て何やらモジモジとキーファがしているが、隣のポワロが必至の形相で止めている。

どうやらキーファの何かに触れてしまった様子である。

そんな事が現在進行形で起こっている事などザバルティは気づいていない。

気がついていても対処など出来ようもないだろうが・・・。


ザバルティは街中の行進を終え、今は『美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)』に戻っている。

控室と化した一室にはザバルティの父・母以外にポワロ叔父やキーファに祖父ロマネスと祖母ミネルバにシャルマン達ザバルティの兄弟とこの地に居るマカロッサ子爵家の一族が揃っていた。

全員が正装である。

そんな中でもひと際、煌びやかな衣装を纏ったザバルティが中央に座って居る。

今日のこの日ばかりは、マカロッサ子爵家の現当主であるアルカティも脇役の一人となる。


「ふふふ。ザバルティの服、とても良いわね。」


「そうでしょう?お義母様。私とミーリアで数日かけて選んだ物なのですよ。ねっ?ミーリア。」


「はい。ザバルティ様に最高にお似合いになるモノを厳選しました。」


優しい目でザバルティを見ながら祖母ミネルバは問いかけると、母エスネスやミーリアが答え服の話で盛り上がる。


「ふぉっふぉっふぉ。ザバルティ。似合っておるぞ。」


「お爺様。ありがとうございます。」


「お前も10歳となったか。早いモノじゃな。つい先ごろ迄、ハイハイしていたのにのぉ~。」


何と答えて良いか分からないザバルティは黙って笑顔をつくる。


「まぁ、髪の毛は儂と同じ様に白くなったみたいじゃが。」


「おいおい。親爺。全然違うだろう?ザバルティは『白』じゃなく『銀』だ。それに親爺みたいに薄くなってないぜ。」


「おい!ポワロ。」


「なんだよ兄貴。本当の事じゃねぇか?なぁ、ザバルティ?」


ポワロの激しいツッコミにアルカティが止め、怒るでもなくロマネスは笑っている。


「ふぉっふぉっふぉ。お主もそのうち白く薄くなるわい。何せ親子じゃからのぉ~。」


「げぇ!そうだった!?」


「馬鹿が。」


くだらないやり取り。

だが、ようやくザバルティも笑顔を見せた。

ザバルティはずっと笑顔でいたが、肩に力の入った作り笑顔だったのだ。

だが、今は自然体の笑顔。

それを見た大人達も笑顔を深めた。

部屋の中をふんわりとした優しい空気が流れた。




◇◇◇◆◇◇◇




晩餐会。

ザバルティの誕生会での豪華な夕食。

立食式でおこなわれるのだが、シャルマン以下兄弟達は別室での食事となる。

10歳にならないと参加できないのであるが、兄弟達の嫉妬を受け止めるザバルティは苦笑いを浮かべるしか無かった。


そして、最後の締めとなる舞踏会へと移行していく。

主役が子供である為に遅い時間までおこなう事は無いが、それでも子供にとっては初体験。

それは、前世の記憶を持つザバルティであっても初体験である。

舞踏会ではペアで踊るのがふつうであるが、マカロッサ子爵家の舞踏会は最初に主役が一人で踊る。

『もてなし』を込めた踊りを披露する習わしである。

そして今回はザバルティがその役である。

マカロッサ子爵家では5歳の時より、【舞踏(ダンス)】を練習する。

そしてザバルティが選んだ【舞踏(ダンス)】は【剣舞】であった。

これは記憶が戻る時より以前に選んでおり、毎日練習したモノだ。

5歳の子供が選ぶ理由は単純だ。

見てカッコいいと思ったモノを選んでいる。

祖父ロマネスが見せた『剣舞』だった。


猛々しく勇ましいその姿が、幼少のザバルティの脳裏に焼き付けられた。

魅了されたと言って良い。

猛々しく勇ましい舞の中に人柄が現れた優しく艶やかな場面もあり大人の男の色気が漂っていた。

鍛えている事が分かる引き締まった細身が縦横無尽に会場中を動き回り出される一つ一つの技に舞に観客達は息をするのも忘れる程に魅入った。

その圧倒的なパフォーマンスに会場は一気にボルテージが上がり、鳴りやまない拍手を祖父ロマネスは受けていたのである。


それを目にしたザバルティの心情など、容易に想像がつくであろう。

前世の記憶を取り戻した今でも、感動の一言では言い表す事ができない感情が込み上げてくるのである。

そんなザバルティが【剣舞】を選ぶのは当然の事であった。


会場に今まで流れていた音楽とは違う音が流れ始めると、ザバルティは会場中央へとスススっと進み出た。

それに気が付いているのはマカロッサ子爵家の者達だけである。


ひと際大きな音が鳴った瞬間に明かりは消え音が消えた。

そして会場中央のみに光が当たり、その中央にはザバルティが立っていた。


「本日は御多忙の所、私の誕生会へのご出席、誠にありがとうございます。」


ざわざわとした会場中の音が消えていく。

ザバルティに注目の視線が集まる。


「これより皆様への感謝を表しまして、不肖ではございますが、私が一曲舞わせて頂きたく思います。お付き合いくださいます様、よろしくお願い致します。」


ザバルティが言い切ると共に片腕を上げた。

すると、打楽器のリズムの良い音が響きだす。

腹の底から響く音が会場を埋め尽くしていく。

そして、笛の甲高い音がメロディーを紡ぎ始めると、ザバルティが動き出した。


音に合わせて動くザバルティの舞は、観る人々に10歳の子供とは思えない軽快で力強い印象を与える。

キラリキラリと光る刃が本物の輝きを放ち、一種の緊張感を持たせる。

本物の剣、つまり殺傷力のある剣を利用しているのだから当然である。


会場に居る者達は息をするのも忘れたかの様にザバルティの舞に魅入った。

左右前後に動き回るザバルティの動きは洗礼された武人の如き動きであり、歴戦の強者なのかと疑う程のモノである。


「ほぁ~。」


どこからか、そんな音が聞こえてきそうな程に注目を集める舞である。

子供の体である為に大人の色気は出なかったが、顔立ちの整った銀髪の男の子が動く様は神々しさを持っており、観る者の心を洗うかの様な衝撃を与える。


そして、甲高い笛の音が徐々に消えていき、打楽器の大きな音のみとなり、徐々に激しいリズムになり、ひと際大きな音が会場中に響き渡ると共にザバルティの激しい動きが決めのポーズで止まる。

そして、会場中の明かりが戻された。


「・・・。」


ひと時の沈黙。


「素晴らしい!!」


誰かが大きな音の拍手と共に声を上げると、会場中の人々が思い出したかのように動き出し、会場中の至る所から、ザバルティを褒め称える言葉と拍手が送られた。

会場中からの喝采を浴びたのである。


ザバルティは内心、ほっと胸を撫で下ろした。

会場中から送られる拍手喝采に応えながら、会場中央からはけていく。

もみくちゃにされそうなのを従者達に守られながら会場を退場する。


このような拍手喝采を浴びる程の【剣舞】を披露できた理由はいくつかある。

ザバルティが神から与えられた能力(素質)が急激に成長を見せているからでもある。

そしてそれは【剣舞】という【舞踏(ダンス)】を選んでいたのも大きい。

5歳児より積み重ねられた経験値をスキル適性が補正をかける事で【舞踏(ダンス)】そのものを向上させた。

そして、【剣舞】である為に【剣術】スキル補正もかかる。

さらに異世界の知識と経験が活き、ザバルティ自身の思いが上乗せされ、身体的能力向上が発揮される。

そして『子供』である。

子供であるが為のギャップは大きなアドバンテージになった訳だ。

つまり、会場に来ている来賓達の期待を良い意味で裏切り、軽々と超えて見せたのである。


「ふぅ。」


「素晴らしかったです!」


ミーリアは感動のあまり、感想のみを伝えてザバルティの両手を掴んでしまった程である。

本当なら、タオルを渡し椅子をすすめるべきであるのにだ。

そしてそれを咎めるべきザバルティの家族やマカロッサ子爵家の他の従者達も『感激した。』『素晴らし過ぎる!』とベタ褒めするだけである。

それほどに、感動していた。

家族からのそして祖父ロマネスからも称賛の言葉をもらい歓喜するザバルティは一生の出来事として記憶に深く刻まれた。


こうして無事に主役としての大役を果たし終えたザバルティはひと時の休息を得るのであった。




◇◇◇◆◇◇◇




舞踏会は終焉を迎えようとしている時になり、アルカティの傍に従者がやってきて耳打ちをするとアルカティは直ぐにその場を離れた。

そしてザバルティも父に呼ばれてついて行く。

行きついた場所は城の入口である。

その入り口にはハデハデしい馬車が止められており、その前にはケバケバしい服を来た太った男が従者を引き連れ立っていた。


「これはようこそ、お越しくださいました。お出迎えが遅くなり申し訳ありません。」


「ふむ。王の勅命により、私が来てやったぞ。」


「ダイブル・コンデス伯爵。我が愚息の為に遠路はるばるお越しくださりありがとうございます。」


「ほっほっほ。王の勅命であるからのぉ。かまわんよ。そちも元気そうで何よりじゃ。で、そっちが貴殿の息子かな?」


「はい。ザバルティ・マカロッサと申します。ダイブル・コンデス伯爵様。この度は・・・。」


「挨拶は良い。私は王都よりの長旅で疲れた。はよう、いつも通り頼むぞ。」


ザバルティの挨拶を遮り要求するダイブル・コンデス伯爵に唖然とするザバルティ達。


「ダイブル・コンデス伯爵がこう仰せである。はよう案内せよ。」


従者も上から目線で要求を重ねる。


「あぁ、そうですね。直ぐにご案内しましょう。」


父アルカティは執事長ドドリゲスに視線を投げ頷くとドドリゲスは直ぐに案内を始めた。

ダイブル・コンデス伯爵一行についてポワロがついて行く。

アルカティは即座に別行動に移った。


「あいつも変わらんのぉ。やっぱダメじゃったか。」


「お爺様。」


何処から来たのか?

いつから居るのか?

それを悟らせる事なく、ロマネスがザバルティの傍に居た。


「何、ひとり言じゃ。じゃがザバルティよ。あのような男にはなるなよ。反面教師とせよ。」


「はい。」


何処の世界にもああいう奴はいるのだとザバルティは思った。

前世の苦い記憶の中に、同じ様な輩を知っているからである。


もしかしたら、ザバルティの【剣舞】をダイブル・コンデス伯爵が見ていれば、全く違う反応だったのかもしれないが、残念ながら彼は見ていない。

ザバルティをその辺の何処でも居る子供と同じであると判断したダイブル・コンデス伯爵を責める事できないであろうが、もっとマシな貴族であれば、時間に間に合いザバルティの【剣舞】を見る事になっていたであろう。

それはつまり本人に責があるという事だ。

結果、ダイブル・コンデス伯爵は判断を間違えた事で彼の運命も短くなるのだが、それは後の話である。


父アルカティは不愉快な思いをしている時は、今の様に左手がせわしなく手が動く事をザバルティは知っていた。

ザバルティは自分にはあの様に笑顔であのような相手に対応が出来る自信がないと思った。

ザバルティはせめて自分があの様な者と同じ様な存在にならない様にと心に決めた。

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