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私の転生物語。 ~ クロスロード In New World ~  作者: ボンバイエ
第一章 私は幸せな人生を終えた・・・えっ?転生?前世の記憶を持ったまま、好きなように生きろ?こんな爺さんを転生させてどうしたいの?女神様。
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第三話 目覚め。

三話目。


夜のとばりが降りて母エスネスとキーファによって子供たちはパーティー会場を出て各自の部屋へと入った。

下の子から順番に部屋に入り『おやすみ』の挨拶をしていく。

最後はザバルティとなる。

ザバルティの専属メイドであるミーリアが寝支度を整えてくれていた。


「ザバルティもあと少しで10歳ですね。」


「早いモノよねぇ。いつの間にか大きくなってしまったわ。」


エスネスとキーファは感慨深げな表情になっている。

ザバルティのいるアスワン王国の貴族は、10歳の誕生日を【生誕祭】として大々的に祝う事になっている。


「ザバルティ様の【生誕祭】楽しみです。」


「ふふふ。ミーリアもこう言っているわ。しっかりとした姿を見せてね。」


「もしかして、その為に戻って来たの?」


「当り前でしょう。ポワロも私も楽しみにしているんだから。」


「ふふふ。ザバルティ、良かったですねぇ~。」


「はい。」


ザバルティは頬を赤く染め頷く。

尊敬している存在が自分の事で喜んでくれる。

嬉しさと恥ずかしさが交ざり合う気持ち。

純粋な少年の初心な反応に三人ともキュンとなるがその心情を表わす愚か者はここには居なかった。

そして、ザバルティは母エスネスとキーファとミーリアに挨拶をして寝具へと入り眠りについた。




◇◇◇◆◇◇◇




≪目覚めなさい。≫


唐突に頭の中に声が響く様な気がしたザバルティは重たい瞼を開く。

目の前は眩しく姿は分かるがハッキリとは見えない。


「貴女は誰ですか?」


≪時が来ました。≫


時とは何だろうか?

それにしても美しい女性だな?

そんな事を考えているザバルティ。

目には見えないハズなのに美しい女性である事を認識しているのだが、今のザバルティにはそれを気付く事は出来ない。

ただの10歳になる少年なのだから当然である。


「えっと、何の事でしょうか?」


≪ふふふ。今からそれを思い出すでしょう。≫


美しい女性はザバルティの頭の上に手を置いた。

その瞬間にザバルティの頭の中に沢山の情報が流れ込む。


≪安心しなさい。そして少し眠りなさい。≫


随分と自分勝手な物言いである。

しかし、当のザバルティは気にする事もなく、安心した顔になり目を閉じた。

そしてザバルティは意識が徐々に薄くなっていくのを感じて意識が完全になくなるまでにそんなに時間を要しなかった。




◇◇◇◆◇◇◇




私は地球という星の日本という国に生まれた。

88歳で家族に看取られながら死を迎えた。

そして神に出会い転生した。


その記憶が私の中に入って来る。

時系列的には私の過去となるモノだ。


私は私。

私である事に変わりはない。

偶々、自分の事を『私』と言う人間であるだけだ。

今の人生を忘れてしまった訳では無い。

ちゃんと頭の中にある。

ただ、追加情報が入ってきたという感じだ。


今も過去の私の人生を追体験している。

経験を体験する作業。

私の前世の記憶が完全に私の頭に定着させるかのような感じだ。

魂の中にあって消えていたデータ?

いや、厳重に鍵をかけて見えない様に保管されていたデータの方が正しいかもしれない。

その厳重な鍵が取り払われて頭にダウンロードしている感じだろうか?

不思議な感覚だ。


私は貫禄のある人柄では無かった。

どちらかと言えば人懐っこい性格とよく言われた。

孫とも友達の様に一緒に遊んでしまい息子や妻に怒られる事もしばしばあった。

今世の貴族である今の立場をそんな私にとっては不安に駆られる要素でしかない。

『好きな様に生きて良い』という女神様の言葉があるものの貴族の長男では後を継がなければいけないのではないかという考えも出てくる。


追体験しながら、色々な事を考えた。

88年の人生は決して短いモノでは無い。

無限とも思える時間を過ごした。

そして女神様との邂逅を終えて今世の出来事も追体験して今日の出来事である寝る前までを追体験した。

前世もだが、今世も人に恵まれているな。

そんな事を思った所で、ふと夢から覚めるイメージが頭を過った。

深い海のそこからふぁ~っと浮かび上がる感じだ。

目が覚めるな。

そう思った次の瞬間に夢の様な世界が終わりを告げた。




◇◇◇◆◇◇◇




ザバルティはゆっくりと瞼を開けた。

部屋の中は日の光が差し込んでおり辺りは明るい。

ザバルティは体を動かそうとして二つの事に気がつく。

一つは体が思う様に動かない、想像より動きが悪いという事。

もう一つは、左手が握られているという事である。


「ザバルティ様。お気づきになられたのですね?!」


「えっ?!ザバルティ!!」


目が開いた事を気づいた専属メイドのミーリアがザバルティの顔を心配そうにのぞき込む。

ミーリアの言葉に気がついた母エスネスもミーリアと同じ様にザバルティの顔を覗き込むなりザバルティを抱きしめ泣き出した。

ミーリアは目に涙を貯めて今にも頬を流れ落ちそうである。


「うん?これはどういう状況?」


そんな二人の反応に戸惑うザバルティは、驚きを隠せない。

心の底からの言葉である。

母エスネスの大きな泣き声は響き渡り隣で待機していたのであろう家人が気づきドタバタと走り部屋を開ける。

そしてザバルティが目覚めたと気づき、またドタバタと音を立て大声を上げながら城内を走り回ったのである。

数分もしない内にザバルティの部屋は人・人・人で埋め尽くされる事になった。

父アルカティや弟や妹達は髪が乱れるのも構わずに部屋に入って来て『大丈夫か?』とザバルティへと問う。

益々状況が分からなくなり混乱するザバルティであった。

来る人来る人に『良かった。本当に良かった。』『大丈夫か?』と言われ困惑するばかりである。



ようやく落ち着きを戻したミーリアから事情を聞いたザバルティは状況を理解し納得した。

ザバルティの体感では寝てから起きた時間はただ夢を見ていただけのつもりでいたが、実際には一週間の時間が過ぎていたのである。

翌朝にミーリアがザバルティを起こしに来て初めて気がついた。

高熱を出し意識が無い状態で、医者を呼んでも回復魔法の使い手を呼んでもどうにもならなかった。

原因不明のまま、ザバルティの目覚めを待つしかない状況であったのである。


「髪が白くなってしまった時は本当にダメかと思いました。」


そう言って母エスネスはマジマジとザバルティの顔を見る。

そして怪訝な顔になる。


「目が白く?いえ黒が薄くなっていますね?大丈夫ですか?」


「えっ?問題は無いのですが。」


母エスネスの言葉に驚きながら返事を返すザバルティに、ミーリアが素早く動き手鏡を手渡す。

渡された手鏡を見てザバルティは自身の変化を目のあたりにする。

白い、どちらかというと白銀色である。

艶々の黒色であった髪の毛と目は、灰色と違い艶のある白銀色になっており神秘的な輝きを放っている。


「皆さん。ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみませんでした。」


感謝と謝罪を口にしたザバルティの目には涙が溜まっていた。

それを見守る周りの人々も、ザバルティと同じ様に目に涙を湛えていた。

ザバルティは自分の事を大切に思ってくれる家族や周りの人に深い感謝を憶え、そういう環境にある事を幸せだと感じた。

ただの子供では嬉しいと思うか、恥ずかしいと思うだけであろう。

だが88年という人生を前世の記憶として持っている今のザバルティには、意味とありがたさを実感しているのである。



それから快気祝いと称しての大人達の宴がおこなわれるのであるが、それはザバルティの知る所では無い。


当の本人は自分の事を確認するのに忙しい。

先ずは身体を色々と動かしたり鏡の前で見たりする。

白銀色の髪と目は整った顔立ちをしている自分に良く似合っているなと自画自賛する。

このまま順調に成長すれば、将来が明るいであろう事は明白である。

単純に前世の記憶がある為に今世の身体と前世の身体の相違に慣れていないという事が違和感を覚えさせるというモノに過ぎない。


身体は一週間の飲まず食わずの為に衰弱しており、魔力の無い体では死を迎えていたという事が分かる。

衰弱した体はガリガリという訳では無い。

休んでいた筋肉が衰えを見せている程度だ。


また、この世界の医療関係の知識や技術も全く無意味という訳では無く、ある程度の身体の維持にも役立ってくれていた。

そしてなによりも回復魔法のおかげで維持出来ていたのである。

地球であれば医療技術で体の維持が可能かもしれないが、回復魔法でそれを補っていたのである。

回復魔法による身体の異常状態回復は奇跡の御業と言えるであろう。

ザバルティにとっても今世の記憶がある為に魔法を当たり前に感じる部分と前世の記憶ではあり得ないと感じる部分とが交ざり不思議な感覚になる。


「なんか、モヤっとするな。」


我慢できずに、ぽつりと独り言をはく。

前世の記憶と今世の記憶が交ざり合い、人格の融合もされた為に困惑してしまう。

基本的な魂の記憶がある為に、大きな違いはないのだが、環境の違いや世界のルールや常識の違いによる小さな違いが存在するのである。


常識とは何なのか?

ルールとは何なのか?

それは倫理観や教育機関により変化する。

時の権力者によって作られるルールにも影響される常識は不変性のあるモノでは無く、変性のモノなのである。

大日本帝国と言われていた明治・大正・昭和初期と平和な日本と言われる昭和後期・平成・令和では随分と違う。

昭和初期と昭和後期だけでも違いが大きいが、たった100年程度でも大きな差がある。


今でこそハラスメントは社会問題であるが、平成の後期になって社会問題化しただけであり、それまではハラスメントなどあって当たり前で無い方が不思議なレベルであった。

セクシャル・パワー・モラルの三つが当たり前にある世界に今の現代人が迷い込んだら真っ当に生きるのも難しいかもしれない。

だからと言って受けた人はどの時代においても苦痛を感じる事には変わりない。

『良いか』『悪いか』ではなく、普通過ぎて問題になりにくかった事と、受け手の意識が違うとも言える。

それはつまり常識の変化である。

現在は経営者側が少し弱まり、労働者が強くなってきている背景がある。

これらの問題から、芸能人の不倫問題も大きく変化を見せている。

ネット民達による発言力が増したのも大きい。


この様に、情勢や時の権力者によって常識は変性を持ったモノになるのだ。

権力者とは決して政治や実権を握っている人ばかりでは無い。

悪意があろうとも善意があろうとも関係なく、発言力のある人の言葉に一定数の人が同調したり、一定数の人がそう思っていると思わされたりするとそれが常識になってしまうのである。

これが人間の集団では厄介な事の一つだ。


そういった事を88年という前世で経験した事のあるザバルティだからこそ、咀嚼し受け入れる事が出来るのである。

逆に言うと前世の記憶が半端では無かった為に今世の記憶と人格を受け入れる事が出来たとも言える。


『それにしても良い環境だな。』


部屋を見渡しながらザバルティは、改めて自分が置かれている状況を確認した。

中世ヨーロッパ風のザ・貴族の部屋という感じで品の良い質の高そうな物で揃えられていた。

ベッドもフワフワと気持ちよく質の高さを感じさせ、前世の記憶にある高級ホテルに負けない心地よさを感じている。


貴族世界の嫡子の境遇は堅苦しいイメージがザバルティの前世の記憶にあるイメージだ。

だが、マカロッサ子爵家はその堅苦しさを感じさせない様子がある。

もちろん、貴族家という概念に起因する『家』というモノの考え方やルールはある。

日本の昭和を生きた人間にとっては『家』というモノの考え方を理解できているし、更に昭和から平成そして令和という時代を知っている人間である為に、『家』という概念の良い所と悪い所が分かっているのである。


そもそも『氏』という考え方がある。

『氏』とは一族を表わす苗字と呼ばれるモノである。

『氏』はつまり『家』という事であり『家』とは家系を表し、血筋の良さを表記し評価の一つとなっていたのである。

『先祖代々云々(せんぞだいだいうんぬん)』とは矜持に繋がり、家を守る事の重要性と一族の繁栄を祈る祖先の願いが『家』という概念に含まれている。

誰もが自分の子供達が幸せである事を願うし、その子供がまた自分の子供の幸せを願う。

こうして未来永劫の時の幸せの追求が繁栄を願う事に通じていくのである。

『家』を守るとは子供の幸せを願う親の気持ちに応えるという行為になる。

それはつまり祖先の願いに応えるという事になりえる。

『家』を残す事で一族が帰る場所を用意しておくという意味も込められており、嫁に出て行った女達の帰る事の出来る家でもあるのだ。

また、その子供達の頼る事の出来る『家』でもある。


もちろん、最初はそれが理由であっても徐々に理由は変化してしまう。

嫁姑問題は一緒に住むからこそ起こる事であり、その問題は(こじ)れると死人が出る問題になって呪いの様な形で未来永劫『家』の問題になってしまう事もある。

そして、どんな事も受け取り手の感じ方で『天使の御業』にも『悪魔の所業』にもなる。

経験しない事には分からない事が、ザバルティには分かるのだ。

経験の大切さと凄さとはこういう所にでるのである。


なので、ザバルティは戸惑いを憶える事もなく、この世界の貴族家について理解できた。

そして環境の良さに気がついたのである。


『神様が用意してくれたモノ』の凄さを感じ感謝する。

そのタイミングでピコンという音が響いた気がしたザバルティは音の根源を探しキョロキョロと周りを見渡す。


≪ザバルティ様、初めまして。≫


「?!誰?」


思わず聞いてしまうザバルティに言葉は続ける。


≪私はザバルティ様のサポート役を授かったシステムです。≫


システム?

サポート?

不思議な事を言うなとザバルティは思う。


≪ザバルティ様は神様に選ばれた人間です。その神様よりこの世界での活動のサポートをするシステムです。≫


頭に直接響く言葉に『念話』に近いモノかもしれないとザバルティは思った。

声に出さずとも、自身の考えに応えるその存在に変な動揺もなく、疑わない自分に驚くだけだった。

神様が力を与えると言われていた事を思い出す。


≪そうです。その授けられる力の一端として私がサポートさせて頂きます。ザバルティ様は神様の使徒としての数々の力を授かっており、準備が出来次第、順次その力が開放されます。その最初が私【賢者(サポート)】です。≫


つまり質問に答えてもらう事が出来るというモノだろうか?

便利なのかな?

ヘルプ機能的な何か?

グー〇ル先生みたいな?


≪そういう認識で問題ありません。全てを答える事が出来る訳ではありませんが検索出来る内容については全てお答えできます。≫


「おぉ!」


感激して思わず声を出してしまう。

誰も聞いてないよな?と、慌てて周りをキョロキョロしてしまうザバルティは、恥ずかしさで顔を赤く染める。


≪ザバルティ様は【神様の使徒】という称号を持つ事で神の能力の一端を使える様になっております。神様との親和率が高くなればより多くの能力を使用できるようになります。これは使徒レベルと言われたりもします。ただし、神様の能力は人間という器では負荷が強過ぎる為、成長と共に解放されるとお考え下さい。また【神様の寵愛】も授けられており、色々な補正がつきます。成長補正や的中補正など多岐に渡る補正となっています。≫


むむむ。

補正だけでもかなり優秀なのでは?

というか、【神様の寵愛】って?

私は寵愛を受ける様な事はしていないハズなのだが?


≪現在解放されている能力は【賢者】【鑑定】【飛翔】【マップ自動表示】【並列思考】というスキルと【幸運者(ラッキーマン)】【魅力者(マグネティックマン)】という称号が開放されています。≫


スキルには熟練度レベルが存在しレベルを上げる事でそのスキルの有用性は高まる。

レベル1とレベル10とでは違うスキルかと思う程の違いが出る。

さらに、基礎能力とその他の補正によっても結果に違いが出る。

スキルが全てかと言えばそうでは無く、研鑽を積む事で得られるモノもあるという。


≪スキルがある事で大きな補正を得るというだけであり、スキルが無くても人の動きに制限はありませんので同じ行動はとれますし、基礎能力によっては同じ現象を起こす事も可能です。ただ研鑽を積めば自然とスキルが身に付きますので、あくまでも想定出来るというだけです。≫


スキルが身に付く瞬間はもしかすると、出来なかった事が出来る様になる様な、ぎこちない動きがスムーズになるタイミングかな?

練習中に出来たり、本番で急に出来る様になったりした事があったが、もしかしたらそういう事なのかもしれない。


≪スキルには適正がありSS・S・A・B・C・D・E・Fというランクによって成長補正が掛かります。ちなみにザバルティ様は全ての技能・魔術の適性はオールS以上です。個別に適性が高いモノがあるようですが、不適正であるモノはありません。全てのスキルが使用できるようになります。≫


無限能可能性を秘めた人間がここに居た。

驚愕の事実を告げられて、ザバルティは固まる。

優遇にも程があるのではないか?

特別な使命を与えられている訳では無いのにも関わらず。


≪それが【神様の寵愛】です。神様が一歩的に授けたモノだと考えて良いと判断します。≫


そんなものだろうか?

そんなものなのだろう。

ザバルティはそう思う事にした。

考えても答えが出ない事は、簡素に考え悩まない事にしている男である。

無駄に考えて徒労に終わる経験をしているからである。

事実、ここに寵愛を授けた神様自体が居ないのだから、何故という疑問に答えは出ない。

本当の意味での【神のみぞ知る】である。


「ザバルティ!起きているか?!」


ノックも無く扉が開け放たれる。

開け放たれた扉の向こうには父アルカティが立っていた。

横には母エスネス。

後ろには執事長ドドリゲスとメイドのミーリアが控えていた。


「あっ!はい。父上。」


「よい。そのままの姿勢で構わぬ。」


起き上がろうとしたザバルティに左手を上げて制した父アルカティはザバルティのいるベットの横にある椅子に座った。

ザバルティは枕を背にして座った体勢のまま父アルカティを見る。


「大丈夫そうだな。」


「はい。」


「では、近日中に快気祝いを兼ねた誕生日会をするとしよう。その時にはお前の専属従者になる予定の三名も呼ぶ事になる。また10歳の記念でもあるから、お前も知っての通り全ての貴族にお披露目を兼ねて招待する事になる。心しておくように。」


「かしこまりました。」


真剣な眼差しでそう言われ、緊張感が漂う。

マカロッサ家は交易都市を支配している関係で外国からも有力者を呼ぶ事にもなるし、嫡子でもある為、情報は交易相手にも知れ渡っており、声が掛るのを待っている様な状態の相手もいる程である。

また、この世界において10歳は一つの区切りとなっており、平民・貴族関係なく祝う風習がある。

これは、小さい子供の死亡率が高い世界である事の証明でもあるのだが、10歳の誕生日だけは特別扱いされているのも事実である。

平民であれば、一人前として生活を支える為に働き始める年齢になり、貴族であれば、社交界デビューが待っているのである。

早い者であれば、10歳の誕生日会が婚約者の披露宴にもなったりするのだが、ザバルティには決まった者はおらず、その心配は無かった。

マカロッサ家の自由を愛する家風が世界の風習である親が決める婚約者を否定してくれた結果である。


「よし、そうと決まれば忙しくなるな。」


「そうね。どんな衣装にしましょうか?」


父アルカティと母エスネスは笑顔になる。

さっそく、母エスネスは衣装の話を始めるあたりやはり女性であるのだろう。

あれこれとメイドのミーリアと相談を始めてしまう。

父アルカティは執事長ドドリゲスに招待状を送る事を指示する。

日程は既に決まっているらしく、本人への確認レベルの承諾を取りにきた程度なのだろう。


「では、衣装の考案を選定しなければいけませんね。」


「はい。是非お供します。」


母エスネスの嬉々とした発言に同意を示したミーリアの二人はそそくさと部屋を出て行く。

ザバルティの意見も少しは取り入れてくれるだろうが、基本的には二人を中心として決定されてしまうのだろう。

不意にザバルティの頭に手が置かれビックリしたザバルティは手が伸びて来た方へ視線を動かす。

それは父アルカティの大きな手であった。


「本当に良かった。とにかくお前はゆっくり体を休めて元気な姿を見せる事が出来る様にしてくれ。お前が元気である事が一番のお披露目だからな。」


「・・・はい。」


大きくて暖かいその手が子供を思う気持ちが込められている。

そう思ったザバルティは素直に嬉しく思い、憂鬱な気持ちが少し晴れた気がした。



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